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志村 昌美

就職、結婚、育児、姑との関係…現代女性が抱える生きづらさのリアル

2020.10.6
現代の女性たちにとって、いつの時代も頭を悩ませることのひとつといえば、家庭と仕事のバランス。そこで、多くの女性から高い支持と共感を得ているオススメの作品をご紹介します。それは……。

感涙の話題作『82年生まれ、キム・ジヨン』

【映画、ときどき私】 vol. 328

結婚と出産をきっかけに仕事を辞めたジヨンは、育児と家事に追われる生活を送っていた。つねに誰かの母であり妻であることに、いつしか閉じ込められているような感覚に陥るようになっていたジヨン。そんな妻の異変を心配した夫のデヒョンは、病院に行くことをすすめる。

最初は深刻に受け止めないジヨンだったが、他人が乗り移ったような言動を取るようになり、記憶も途切れるようになっていった。ジヨンの心は、本当に壊れてしまったのか……。

本作は韓国で130万部を突破し、社会現象を巻き起こしたベストセラー小説を映画化した注目作。現代女性が抱える生きづらさを描き、大きな反響を呼んでいます。そこで、こちらの方にお話をうかがいました。

キム・ドヨン監督

本作が初の長編作品であるにもかかわらず、韓国のゴールデングローブ賞と称される第56回百想芸術大賞でみごと新人監督賞を受賞し、高く評価されているドヨン監督。今回は、自身の経験を重ねながら描いた本作に込めた思いや日本の女性たちへ伝えたいことについて語っていただきました。

―まずは、小説を映画化するうえでこだわったのはどのあたりですか?

監督 原作はジヨンの人生が時期ごとに展開されていて、エピソードを羅列する形で書かれていますが、映画にするうえではひとつの物語として事実をありのままに描く叙事の形にする必要があると感じました。そこで私が意識したのは、ジヨンの現在を主軸にしながら物語を構成していくこと。そのうえで、さまざまなエピソードを取り込んでいくように心がけました。

そうすることで、キム・ジヨンという人物に観客が共感し、感情移入できるようになっているのです。今回は、そういった部分に集中して作り上げていきました。また、原作とは異なるラストになっていますが、観客に前向きなメッセージを伝えることが大事だと思い、あのようなエンディングになっています。

―主人公を演じたチョン・ユミさんと夫役のコン・ユさんには、どのような演出をされましたか? 

監督 私は演出家として、やるべきことをやっていただけという感じでしたが、おふたりとも本当にスマートで素晴らしい俳優さんなので、すべてのシーンにおいて高い理解度を持って見事に演じてくださいました。それに私がもともと俳優だったこともあって、意思疎通を図るのはスムーズだったと思います。本当に、満足度の高い現場でした。

この作品が自分の人生を見直すきっかけとなった

―そのなかでも、おふたりの演技から感銘を受けた瞬間などがあれば、教えてください。

監督 チョン・ユミさんもコン・ユさんも、現場ではとにかく自然体で、おふたりはとても相性がいいので、見事な“化学反応”も見せてくださいました。チョン・ユミさんは、とても透明感があってピュアな人。だからこそ、あれほど魅力的なジヨンを演じることができたんだと感じました。

いっぽうのコン・ユさんは、主人公ジヨンを支える役柄。その役割をきちんと認識されていて、それを非常によく表現してくださったと思っています。

―本作では多くの女性が経験している感情や悩みが描かれていますが、監督自身もこの映画を作る過程で気づかされたことがあったのでは? 

監督 そうですね。原作を読んだときに、自分の人生を見つめ直すきっかけを得られたと思っています。映画を作っている際には、自分のなかにあった認識を新たにしていく感覚もありました。

―その認識とはどのようなものですか?

監督 どういうことかというと、大きく言って地球上の半分は女性ですよね? にもかかわらず、女性の人生や生き方というのをじっくり見つめ直したり、振り返ったりする機会がこれまで不足していたのではないかなということです。そのうえで、女性を見つめる視点にも今後変化が必要なのではないか、と考えさせられました。この作品で私自身もいろんなことを学び、そして新しい視点を持って周りを見直す機会を持つことができたと感じています。

―なるほど。ちなみに、監督もジヨンと同じく、お子さんを持つ母親ですが、この作品にご自身の経験を反映している部分もありますか? 

監督 もちろん、私が経験したことも多く反映されています。実際に、いまも育児を経験中ですから。たとえば、疲れてベビーカーを足で揺らしてしまったり、幼稚園のママ友と集まったときに「大学で専攻したことをいまは活かせていない」という会話をしたことだったりというのは、私が実際の生活のなかで経験したことが作品のなかに溶け込んでいます。

夫とはお互いに必要なことを話し合って理解を深めた

―誰かの母であり妻であるということにとらわれ過ぎて、自分を見失ってしまう女性も多いかと思います。監督自身もそういう経験はありましたか?

監督 そういった部分は、私にもあると思います。だからこそ、本を読みながらいろいろなところで共感したんじゃないかなと。いまも自分自身が見失っている部分が何なのかということを探そうとする努力をしているところです。そのうえで、私のなかにある欲望に対して、より正直でありたいと思いますし、自分が何を望んでいるのかを問うことはこれからもしっかりとしていきたいと考えています。

―監督が仕事や家庭において、意識していることがあれば、教えてください。

監督 まずは、もし私の夫が積極的にサポートしてくれていなければ、社会に出て仕事をすることにもっとさまざまな制約があったのではないかなと感じています。その部分については、これまでに夫とたくさん話し合いをし、ときにはケンカもしながら、少しずつお互いにとって何が必要なのかということを理解していきました。そういった夫からの助けもありますが、国としての制度も少しずつ改善されてきていると思うので、それらをうまく活用しながら仕事ができていると思います。

―やはり夫の理解は欠かせないですね。ちなみに、劇中のデヒョンに監督の夫が投影されているところもありますか?

監督 重なる部分もありますが、まったく重ならない部分もあります。ただ、夫からすると、デヒョンに似ていると言われたら喜ぶかもしれないですね(笑)。

女性の置かれている現状はもっとよくなるべき

―監督自身は、デヒョンのような男性は、夫としてどのような人物として見ていますか?

監督 デヒョンに関しては、いい夫にも見える人もいれば、そうではないと感じる人もいますが、それくらい見る人の環境や立場によって、見え方が違ってくるキャラクターだと感じています。

おそらく「デヒョンは悪くない夫」という印象を持つ人が大半じゃないかなと思いますが、「悪くない」ということはある意味「改善の余地がある」ということでもありますよね。私個人としては、女性の置かれている現状はもっとよくなるべきだと考えているので、そのためには夫婦がもっとお互いに努力していく必要があると思っています。

―監督は長らく演劇の世界にいたあと、46歳で韓国芸術総合学校に入って映画を勉強し始めたそうですね。なぜそのタイミングで始めたのでしょうか?

監督 子どもが生まれてからは、演劇の舞台に立つことが難しくなっていたのですが、そのときに「創作をしたい」という気持ちが強くなっていくのを感じました。もともと、そういう願望は私のなかにずっとありましたから。

そこで、まずは文章を書き始めるようになり、次第にその文章を基にした戯曲やシナリオを書き上げ、短編の映画を作るようになりました。それがきっかけとなり、「もっと遅くなる前に、本格的に映画の勉強したい!」という気持ちになって、映画学校に志願することに。運よく合格することができてよかったです。

自分の欲望をしっかりと見つめることが大切

―40代半ばで新たな分野に挑戦することに対して、不安はありませんでしたか?

監督 もちろん、不安はありました。でも、“不安の実態”というのを覗き込んで見つめたとき、「本当に映画監督になれるのだろうか」「自分は映画界に受け入れてもらえるのか」「映画監督として評価されるだろうか」といった不安はあったものの、そこであることに気がついたんです。

それは、ある分野で高みまで登れることや遠くまで行けることも大事ではあるけれど、それよりもどんな方向性に向かって行くかのほうが重要であるということ。たとえ、結果が出なくても、自分が望んでいる方向に近づいているのであれば、達成感や満足感は十分に得られると思ったのです。その瞬間に、新たな一歩を踏み出す決心ができました。

―それでは最後に、仕事や育児などで悩んでいる女性に向けて、監督からアドバイスがあればお願いします。

監督 みなさんも不安を感じたときこそ、「自分は何をしたいのか」「自分は何を望んでいるのか」といった自分の欲望をしっかりと見つめることが大切だと思っています。ただ、その欲望というのは、自分で動かない限り、どこかから与えられるものではないので、自分が本当にしたいことを常に問い続けてほしいです。当然、その過程ではいろいろな経験をすることになるとは思いますが、決してそこで諦めることなくやり続けてください。

そうすれば、周りの人たちの力を借りながらでも乗り越えていけると思うので、日本の女性たちにも幸運があることを心から願っています。

あふれる思いが止まらなくなる!

就職や結婚、出産、そして家族の問題など、人生におけるさまざまな分岐点で感じる女性の生きづらさをリアルに描いた本作。誰もがジヨンに共感し、ともに痛みを分かち合い、そして「自分はひとりじゃない」と救いを感じることができるはず。どんな絶望の先にもきっとある希望を探しに、ジヨンと一緒に新たな人生へと踏み出してみては?

心に響く予告編はこちら!

作品情報

『82年生まれ、キム・ジヨン』
10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー
配給:クロックワークス
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http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/