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オンナとしての「賞味期限」|12星座連載小説#56~蟹座5話~

文・脇田尚揮 — 2017.4.12
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第56話 ~蟹座-5~


前回までのお話はコチラ

トントントントン……

“朝の音”がする……。

母が包丁で野菜を刻む音だ。毎朝、私はこの音で目覚める。そして、次に鼻腔をくすぐるお味噌汁のいい匂いを感じる。

どんなに時が流れようと、この音と香りは、昔から変わらない。

寝ぼけまなこで横を見ると、由愛がスヤスヤと寝息をたてている。……愛おしい娘。

昨夜の出来事を思い出して、少し胸が締め付けられる。この子のためにも、“新しいパパ”を見つけなくちゃね。

『おはよう、お母さん……』

台所に行き、母に声を掛ける。昨日、声を荒げてしまったこともあり、少し気まずい。

「起きたのかい、おはよう」

何事もなかったかのように、笑顔で振り向く母。

「今日は、由愛は休みだからねぇ、昼からは公園に連れて行くよ。あんたは今日も仕事なんだろ? 毎日大変だねぇ」

『お母さん、昨日のことはごめんね』

「あ? ああ……、私も余計なこと言いすぎたよ。自分だって結婚、上手くいかなかったのにさ。あんたはあんたのペースでやるといいよ」

『うん……』

それから私たちは、色々と世間話をしながら朝食をとった。ケンカをしても、こうして朝の食事を共にすれば、不思議とわだかまりは消える。

私もこんな“母親”になれるといいな……。

食事を終え、私は洗い物を。母はテレビを観る。これも毎日の習慣。

「うぅん……ママぁ」

由愛が起きた。

『あ、おはよう由愛。もう起きたの?』

「もうすぐ“魔法少女ミンティ”が始まるから起きとかないと」

由愛の好きなアニメ番組だ。

「あと、15分くらい後だろ? 分かったよ」

ニュースを観ていた母が気を遣ってくれる。

そんな母と娘のやり取りを微笑ましく眺めながら、私は弁当箱に母が作ってくれたおかずを詰め、会社に行く支度をする。

『じゃあ、由愛、行ってくるね。……お母さん、よろしくね』

「行ってらっしゃい、ママ!」
「気をつけてね」

2人に見送られながら、私は職場に向かった。

……さて、今日も働かなくちゃ。毎日の雑務をこなし、来週、結婚式を挙げるカップルの最終準備を行う。

参加人数はこれで確定ね。送迎の手配もOK。料理も人数分用意できるわね。あとは、スピーチか……。

この間、新郎新婦と話したときには、まだ決まっていないみたいだったけど……。早めに聞いておかなくちゃ。それと、そう、引き出物のカタログをお渡ししてから、まだ何にするのか最終連絡を頂いていないわ。こっちもチェック……っと。

手帳は、結婚式のスケジュールでビッシリだ。このプラン一つ一つに、それぞれのカップル・家族の想いが込められてる。手抜きはできないわ。

私も、頑張らなくちゃ。再婚。

「瀬名さん、お疲れ様。お昼まだでしょ? 食べたら?」

(ハゲの)田代さんだ。もうお昼か。ホントにいつも気が回る人ね。

……ま、恋愛対象外だけど、良い人なのは分かるわ。

『田代さん、ありがとう。じゃあ、お昼休憩頂くわね。』

休憩室で、お弁当箱を開ける。母の作ってくれたおかずのいい匂いが広がる。今日は、きんぴらと卵焼き、あとは昨日の残りね。

食事をとりながら、午後の予定を確認する。

そうだ、今日はレンタルジュエリーの打ち合わせが入ってるんだったわね。確か……、戸部さん。そう、戸部淳子さんね。

新婦さんのご希望に合ったものだと良いんだけど。

弁当箱を片付け、化粧室で歯磨きをして午後の仕事に臨む。少しだけメイクも直す。ブライダルプランナーは清潔感第一。目立ちすぎてもいけない。絶妙なメイクが求められるのよね。

鏡で自分の顔を見る。前の夫と結婚したときからすると、少し年をとったわね。

まだギリギリ20代だけど、もうすぐ私も30歳。目元のクマやほうれい線が少し目立つようになった。

オンナとしての賞味期限が切れないうちに再婚、か。少し焦っちゃう。

準備をして事務室に戻ると、

「瀬名さん、ジュエリーの戸部さまがお見えです」

受付から連絡だ。

いけないいけない、少しメイクに時間をかけすぎちゃったかしら。

すぐにロビーに向かう。……あ、あの方ね!

キャリーケースを横に、目立つ女性がソファに腰掛けている。

『初めまして。ウェディングプランナーの瀬名と申します。本日はご足労頂きありがとうございます』

「初めまして! ジュエラーの戸部と申します。どうぞよろしくお願いします」

後ろに髪を結び、ブランド物のパンツスーツを着こなしてるけど、相当若いわね。大丈夫かしら。

『あちらでお話しましょうか』

元気な“その子”を応接室まで案内し、飲み物の準備をする。

『お待たせしました』

「この度は、ご依頼ありがとうございます! どんなアクセサリーをご希望でしょうか?」

聞くと、国外から買い付けたジュエリーを、彼女の知り合いを通し、アクセサリーに加工して販売してくれるとのことだった。

となると、新婦のウェディングドレスのイメージに合ったものをお願いするのが一番ね。

準備していた資料を彼女にも見せ、どういったアクセサリーが理想的か丁寧に説明する。

1時間くらい話をしていただろうか……、“ノリが軽い”という第一印象に反して、扱っている宝石は“本物”だった。

若いのにやるわね。

―――彼女と私の年齢が“1つ”しか違わないと分かったのは、それから十数分後のことだった。



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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。

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