多部未華子「試して失敗しての繰り返しの中に気づきがあったりもする」 野田秀樹作品に初参加

2023.6.20
今年春、長期休館目前の渋谷・シアターコクーンで開催されたショースタイルの公演『シブヤデマタアイマショウ』。総合演出の松尾スズキさんをはじめとした個性的なキャスト陣の中で、誰よりもインパクトを残したのが多部未華子さんだった。演技も華もだが、それ以上に多部さんの表情や動きの愛くるしさに目を奪われ、自然と多部さんの役柄に共感し応援したくなってしまうのだ。
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「役者さんなら誰もが思うことだと思いますが、私はなるべく演出家の方がやりたいというもの、思い描くイメージに近づけたいと思っているひとりというだけです。ただ最近は、1か月近い舞台の稽古期間を楽しいと思うようになりました。若い頃は、やるべきことをやり、自分の出番が終わったら帰りたいと思っていたけれど、今は他の方が試行錯誤している様子を見て学ぶこともあるし、みんなでいろんなことを試して失敗しての繰り返しの中に気づきがあったりもする。勉強になるし、楽しいと思うようになりました」

そんな多部さんの次の舞台は、NODA・MAP『兎、波を走る』。今の日本の演劇界のトップランナーである野田秀樹さんの作品に初参加となる。

「演出家は野田さんですが、チーム全体でアイデアを出し合っている感じです。野田さんもですし周りの方も、意見を言いやすいし聞きやすい環境にしてくれているんです。特に(高橋)一生さんはアイデアマンで、野田さんの『ちょっとやってみよう』を楽しんでいて、野田さんが信頼を寄せられるのもわかります。松(たか子)さんは言わずもがな、大倉(孝二)さんも秋山菜津子さんもいらして心強いです。今はわからないことは秋山さんに聞いています(笑)」

作品の舞台は、潰れかかった遊園地。そこに現れる“アリス”が多部さんの役どころだが、そこは野田作品だけに、さまざまな言葉遊びや示唆的なシーンが重ねられ、一筋縄ではいかない複雑な物語が展開される。

「稽古に入る前に今回の題材の説明はしていただきましたが、単純な結末が用意されているわけではないし、心にずしんとくるようなテーマですし、自分のアリス役はどういうテンションでいけばいいのか、探っている段階です。ただ、作品を全部噛み砕いて理解して演じたいタイプの俳優さんもいらっしゃいますが、私は多分こんな感じかな、くらいの理解度でやってしまう方。今も、稽古場で『あのセリフはあそこにかかってるのかな?』などと話していると、秋山さんが『野田さん本人もわからずに書いているところもあるから大丈夫よ』って言ってくれて、『じゃあいっか』って開き直れたりして(笑)」

観終わった後も余韻が長引き、あれこれと思考を巡らせる楽しみをもたらしてくれるのが野田作品の魅力。

「個人的に面白いのは、スローモーション。これまでに観た野田さんの舞台でも取り入れられてきた手法ですが、稽古場で自分もやったり、みなさんがやっているのを見ていたら、すごく効果的に使われていました。しかもアンサンブルの方たちの動きがすごくて、まるでアスリート。早く本番を見てみたいです」

プライベートでの大きな変化もありつつ、なお精力的に活動しているが、その原動力とは何なのだろう。

「女優として“どうしても演じていたい”というほどの強い気持ちはないんです。すごく暇が苦手で(笑)。でも今回の稽古は本当に楽しくて、お芝居をしていなくても現場にいたいくらいです」

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NODA・MAP 第26回公演『兎、波を走る』 6月17日(土)~7月30日(日) 池袋・東京芸術劇場プレイハウス 作・演出/野田秀樹 出演/高橋一生、松たか子、多部未華子、秋山菜津子、大倉孝二、大鶴佐助、山崎一、野田秀樹 S席1万2000円 A席8500円 サイドシート5700円ほか 全公演にて当日券あり。NODA・MAP TEL:03・6802・6681(平日11時~19時) https://www.nodamap.com/usagi 大阪、博多公演あり。

たべ・みかこ 1989年1月25日生まれ、東京都出身。2002年にデビューし、映画、ドラマを中心に活躍。舞台では、松尾スズキ、蜷川幸雄、白井晃などさまざまな演出家の作品に出演。最近のおもな出演作に、ドラマ『マイファミリー』、映画『流浪の月』など。

シャツ¥55,000(チノ/モールド TEL:03・6805・1449) スカート¥33,000(ビリティス・ディセッタン/ビリティス TEL:03・3403・0320) バングル¥60,500(フォーヴィレイム/フォーヴィレイム カスタマーサポート customer@fauvirame.com) その他はスタイリスト私物

※『anan』2023年6月21日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・岡村春輝 ヘア&メイク・赤松絵利(ESPER) インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)