重厚な人間ドラマと歴史の悲劇を魂の演奏が彩る音楽ミステリー。映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』をご紹介します。
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1951年のロンドン。華々しいデビューコンサートの開演を控えた21歳の天才ヴァイオリニスト、ドヴィドルが忽然と姿を消す。それから35年。彼と兄弟同然に育ったマーティンは、あるコンクール会場でドヴィドルに繋がる糸口を見つけ、彼の消息を追い始める。あの日、リハーサルを終えてホールを後にしたドヴィドルに何が起きたのか。

熟年にさしかかったマーティンをティム・ロスが演じるミステリーは、ヴァイオリンの調べに彩られた重厚な人間ドラマでもある。なにしろ、ドヴィドルはユダヤ人。ナチスが台頭するなか、才能を伸ばすべく、わずか9歳でワルシャワの家族と離れてロンドンのマーティンの家で暮らしていたのだ。第二次大戦後という時期の失踪に、彼のルーツが関わっていることは容易に察しがつく。やがてマーティンは、「歌を演奏しに行く」という彼の言葉を知るのだけれど、それにしてもなぜ、姿を消す必要が? 深まる謎は、ユダヤの伝統のみならず、宗教の違いを超えて観る者の魂を震わせる深い思いへと繋がっていく。

監督は、高名なヴァイオリン職人が妻子を悼んで作った名器の4世紀にわたる旅を描き、アカデミー賞音楽賞に輝いた『レッド・バイオリン』のフランソワ・ジラール。今作ではレイ・チェンが奏でる旋律が重厚なドラマを盛りあげる。

後半ためにためて登場するドヴィドル役のクライヴ・オーウェンの演奏姿もいいけれど、少年時代を演じるルーク・ドイルがとにかくいい。自信溢れる天才少年ドヴィドルが、空襲警報下の防空壕で年上ヴァイオリニストを挑発するようにして始める競演のなんとワクワクすること! ルーク自身も8歳でヴァイオリンを始め、ウェールズ国立青年オーケストラに最年少メンバーとして所属しているのだとか。彼の今後にも期待せずにいられません。ドヴィドルの魂の演奏とともに、人間関係そのものもミステリーなのだということを浮かび上がらせるラストの大人な余韻もじっくり味わってね。

『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』 監督/フランソワ・ジラール 出演/ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ジョナ・ハウアー=キング、ジェラン・ハウエル、ルーク・ドイル、ミシャ・ハンドリーほか 12月3日より新宿ピカデリーほか全国公開。©2019 SPF(Songs) Productions Inc., LF(Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft

※『anan』2021年12月8日号より。文・杉谷伸子

(by anan編集部)

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