スキマスイッチ「メッセージや表現を感じて」と語る新作を2枚同時発売
バンド活動を経てあるきっかけでユニット誕生
写真左から、大橋卓弥、常田真太郎。
【音楽通信】vol. 94
大橋卓弥さんと常田真太郎さんという、素晴らしいソングライターのおふたりからなるユニット、スキマスイッチ。
1999年に結成し、2003年のメジャーデビュー後は「奏(かなで)」「全力少年」「ボクノート」、近年ではドラマ『おっさんずラブ』シーズン1(テレビ朝日系 2018年)や劇場版(2019年公開)の主題歌「Revival」など、数々のヒット曲をわたしたちのもとに届けてくれていますよね。
そんなスキマスイッチが、2021年11月24日にコンセプトオリジナルアルバム『Hot Milk』と『Bitter Coffee』を2枚同時にリリースされるということで、音楽的なルーツなどを含めて、おふたりにお話をうかがいました。
――あらためて、まずはおふたりが影響を受けたアーティストから教えてください。
大橋 それは中学生の時にファンクラブに入っていて、一番ハマったアーティストだといえる、ザ・ビートルズです。ただ、学生時代はまわりのみんなが聴いているのと同じようにJ-POPも好きで、ヒットチャートの上位になっていたMr.Childrenやスピッツ、B’zなども聴いていました。
常田 僕もタクヤと同い年なのですが、早生まれなので学年は違うものの、同じような音楽環境でしたね。カラオケで歌える曲を聴くというのも、当時、音楽を聴く上での指針だったと思います。上位ランキングのアーティストやDEEN、ZARDといったみんなで歌える曲をCDショップで借りてきたり、ワゴンセールで買ったり、というのがひとつの流れというか。まだ洋楽は聴いていませんでした。
大橋卓弥(オオハシタクヤ/Vocal, Guitar)。1978年5月9日生まれ。
――1999年にスキマスイッチを結成されて、2003年7月にシングル「view」でメジャーデビューされましたね。結成のいきさつから、デビューにいたるまでの経緯をお聞かせください。
大橋 僕たちは別のバンドをやっていたのですが、おたがいの出身が愛知県で一緒だったので、僕の中学校の先輩に、シンタくん(常田さんの呼称)を紹介してもらいました。もともと僕はこの先輩とバンドを組んでいて上京したんですが、バンド活動がうまくいかなくなって、解散したんです。
その後、ひとりで何かできないかなと、20、21歳ぐらいのときは渋谷の公園通りのあたりで、ストリートミュージシャンとして演奏していました。最初は路上で弾き語りをしていても、誰も足をとめてくれる人がいなくて、場所を変えたり試行錯誤していて。そのうち聴いてくださる方も増えてきて、そんな方たちに何か作品を作って、持って帰ってもらいたいなと考えるようになったんです。
その頃、シンタくんはアマチュアのバンドさんたちに、アレンジや録音をやりますよ、という募集をかけていました。それを知っていたので、当時お金がないなかでどうやってCDを作るか考えた末、安く制作してもらえないかなと、シンタくんに1曲レコーディングしてもらったんですよ。
シンタくんはそういった録音以外にも、いろいろなバンドをかけもちしていたなかで、知り合いのアレンジャーさんに自分の録音した作品などのワークスを持って、売り込みにいくことがあったみたいで。その前日に僕のお願いした曲が完成して、ワークスの最後に僕の曲を一応入れたら、その曲だけが、アレンジャーさんにひっかかったんです。
常田真太郎(トキタシンタロウ/Piano, Chorus, Organ, Other instruments and total sound treatment)。1978年2月25日生まれ。
そのときに、「この子と一緒に活動してるの?」と聞かれて、シンタくんは「やってる」って言ってしまったみたいで。僕としては一緒にやってなかったんですけど(笑)。これがきっかけで、ふたりの活動もやるけれど自分の活動と並行してやろう、どうせ自然とだめになっていくだろうしなと思っていたんですよ。
でも、ふたりで活動しだしたら、シンタくんも曲も歌詞も書くので、自分だけでは作らない曲の広がり方、世界観が面白いなと思って。あるとき自主制作のCDを作ろうとなって、ユニット名をつけることになったんです。バンドを組んでいたときは意気込んで横文字のかっこいい名前にしていたんですが、かっこいいとされるものは時代とともに変わっていくこともあり、ちょっととぼけた感じのものはずっと残っている気がしたんです。
ふたつのワードをひっつけて名前にしようと、目についたものをおたがいに言ってみて、糸が垂れて引っ張るタイプの電気を見て「スイッチ」というワードが出て、「響きがいいね」となりました。そのときは下積みの貧乏な時代だったので、アパートもボロボロで窓や襖のたてつけも悪く隙間があいていたので、それを見て「スキマ」というワードも出て、「とぼけた感じでいいね」と。
それで「スキマスイッチ」というユニット名が誕生しました。それからはふたりで活動しながら、あるオーディションに参加したときに、僕らを見つけてくれたのがいまの事務所で、その流れでデビューへとつながりました。
2枚のアルバムは“入門編”と“いま出したいもの”
――2021年11月24日に、約3年半ぶりとなるコンセプトオリジナルアルバム『Hot Milk』と『Bitter Coffee』が2枚同時にリリースされます。コンセプト別の楽曲を収録しているそうですが、それぞれのアルバムの特徴を教えてください。
常田 もともと複数枚リリースは、前作『新空間アルゴリズム』(2018年)の制作が終わってすぐアイデアとして出ていました。いまは音楽を手軽に聴ける時代になって、端末で配信曲も聴けて、僕らとしてもリリースがはやくなってきてレスポンスもすぐにわかるという利点があるものの、届いたあとのことを考えると、曲を“所有していない感”が強いのかなと。
それはCDというかたちになっていないからだと、ずっと思ってきていることで、今後もこだわっていきたいところでもあるんですが、所有感を感じてもらうにはCDが多いほうが面白いかなと。そしてスキマスイッチをあまり知らない人への情報として、複数枚出すことで目に留まることもあるのではということから、今回の2枚同時リリースとなりました。
以前は、一度に4枚5枚ぐらいでジャンル分けして、スキマスイッチの魅力をバラード集やアップテンポ集などに分けて、こちらから届けてみようかというアイデアもあったんです。ただ、そうなると曲をたくさん作らないといけなくて、そのなかでもよく聴く曲、聴かない曲と偏りが出てきたらよくないから、何枚出すかは決めないでとりあえず曲をたくさん作ろうとしていたなかで、コロナ禍になって時間ができて、デモがいつもより多くできました。
できている曲の中で、先にタイアップがついて世に出ていく曲もあって。あとは新しい作り方で、「こんな曲書いてみない?」という、スタッフが僕たちに希望しているようなテイストで作ってみました。僕たち以外の因子とそうでないもので分けられた感じがあって、でもそこでタイアップ曲やスタッフの意見を取り入れたものは明るい、自分たちのエゴで作った曲は暗い、というのはいやだったので、ちゃんと1枚のアルバムとして確立させてリリースしようと決まったのが、昨年の秋ぐらいです。
1枚に7曲ぐらいが聴きやすいですし、それをもう1枚の計2枚のリリースにして、『Hot Milk』はタイアップや引き出してもらったもの。『Bitter Coffee』は、自分たちが「いま出したいね」と話していた曲、自分たちのなかで流行っている音やジャンル。そんなかたちで、分けさせてもらいました。
大橋 もしかするとananwebの読者のみなさんのなかには、CDやCDプレーヤーを持っていない方もいるかもしれないですよね。便利な世の中なので音楽は手軽に聴けますし、検索すれば無料で聴けることもある。携帯に入っているものもあれば、聴きたいときに検索して聴いたら終わり、という方も多いと思うんです。
でも僕らの世代では、音楽やアーティストが作ったものに対して、もう少し大事にする感覚があって。CDショップに行ってCDを買って、帰りの電車のなかで先に歌詞カードを見ようかな、でも家に帰ってからCDを聴きながら見ようかな、というような楽しさをいま少しでも、こちらから提案できたらいいなと。
それにはあまりにも内容の濃い作品じゃないほうがいい。『Hot Milk』はもしかしたらどれかはテレビでちょっとぐらい聴いたことがある曲も入っていて、手に取りやすいんじゃないかなと。7曲なら聴くのに時間もそんなにかからないし、もしそこでスキマスイッチに触れてみて、ちょっと好きなところがあるなと思ったら、『Bitter Coffee』も聴いてみてもらったりと、つながっていけばいいなという思いはあったんですよね。
それがひとつのきっかけになって、音楽に対するものの考え方が、少しだけ変わったなら、僕たちの世代のやり方として間違っていないのではないかなと。あともうひとつは、アルバムを聴いて僕らは育ってきたので、ザ・ビートルズもそうですが、曲順が変わるだけで違和感があるんですよ、何回もアルバムを聴いてきているので。「この曲の後にこのイントロが鳴ってくれないと気持ち悪い」とか。それぐらい聴きこんだんですよね。
それぐらいなるべくCDというもので、僕らが考えたこの曲の並びで聴いてもらって、「どんなメッセージが込められているのかな?」と考えてもらえたら。CDには歌詞カードもついているので、歌詞には書かれていなくても、歌詞カードの行間にこめられた思いがあって。良くも悪くもいまの音楽がファッション的なものになっているところをもう少し、何かのメッセージや表現を感じてもらえたらいいなと思っています。
――『Hot Milk』収録曲の7曲目、「されど愛しき人生」の俳優の柄本時生さんが出演しているミュージックビデオが公開されていますね。
大橋 いろいろなアイデアが出たなかで、登場人物が全部同じ顔をしながら自分はこんな人生でもあり、また違うこんな人生もあった可能性がある、という見せ方をする物語のアイデアがあって、面白そうだねと決まりました。そこでキャスティングとなったときに、物語にも合うどこか哀愁のある人がいいとなって、柄本さんの名前が上がったのでぴったりだと思ってオファーしたところ、快諾してくれました。
――おふたりでいつも曲作りはどのようにしているのですか。
大橋 ふたりでゼロから作るときもありますし、どちらかがベースを持ってきて、「これいいね」となったらそこからブラッシュアップしていくときもあります。『Hot Milk』の1曲目「OverDriver」の場合は、シンタくんがデモとして持ってきたものを聴いて、「これカッコいい」となって、それをふたりでちょっとメロディを変えていったり、構成やサウンドはこんな方向でいこうとか話していったり。
常田 驚くほど、手作りです。
――いいですね。おふたりでじっくり作られた思いは聴き手側にも伝わってきます。
大橋 なかには、家でパソコン1台あれば曲を完成させるというミュージシャンもいるかもしれませんが、僕らはプロのミュージシャンの方々の力を借りて、作り上げていきます。まずは自分たちだけで、プライベートスタジオでパソコンを使ってシミュレーションをしてみて、そのときから「このギターは〇〇さんに弾いてほしい」というようにイメージしていきます。そこから正式にオファーさせていただいて、スタジオでセッションしながら作っていくんですよ。
――『Bitter Coffee』は大人っぽい雰囲気から始まって、4曲目「いろは」のように美しいメロディにのるセンチメンタルなナンバーもあれば、6曲目「フォークで恋して」はまるでドラマのような展開で続きが知りたくなる歌詞、おしゃれなサウンドが印象的です。いつ頃から制作されたのでしょうか。
常田 古いデモもありますが、昨年の秋からアルバムを見据えて作り始めて、今春から制作をスタートしました。『Bitter Coffee』に関していうと、ほぼ新曲なので、僕たちのテンションもどんどん上がっていっています。『Hot Milk』は入門編かなと。『Bitter Coffee』は、知らない曲でも絶対こっちがいいと言わせてやるという、目に見えないテンションの高さも込められています(笑)。
――12月22日には日本武道館公演、2022年2月からは全国ツアーを開催されますが、どんなステージになりそうですか。
大橋 12月の武道館公演では特別な企画ものをやりたいと思っていて、この日のためだけに書き下ろした音楽と映像をお届けします。アルバムの『Hot Milk』と『Bitter Coffee』を引っ提げたライブは、来年2月から7月まで「SUKIMASWITCH TOUR 2022 “café au lait”」と題して全国をまわるので、楽しみにしていてほしいですね。
スキマスイッチのライブに足を運んでみてほしい
――新作がコンセプト違いの2作品ということで、おふたりの「オン/オフ」の2面性についても教えてください。
大橋 2面性というと、僕らふたりはまったく真逆の性格ですが、音楽だけは同じ方向を向いています。僕はAB型なんですが、スタジオに入った瞬間にスタッフは「今日はA型だな」とか、「今日はB型の日だな」とかがわかるらしいです(笑)。
僕自身はそんなに違うキャラクターというつもりはないんですが、言わんとしていることはわかるかもしれない、意識してはいないのですが。スキマスイッチがみなさんにどこまで浸透しているかはわからないですが、ananwebの読者のみなさんが思っているよりも、イメージが逆な気がしますね。
――イメージというと?
大橋 シンタくんのほうがなんか……。
常田 ガサツですね、ズボラだし。
大橋 それはイメージ通りのはず(笑)!
常田 その通り(笑)。だとすると、なんか僕は、職人ぽく言われることが多いんですが、全然そんなことはないんです。
大橋 たぶんですが、パブリックイメージとして、僕のほうが優等生なイメージがあって、シンタくんのほうがちょっと昔ヤンチャしていたようなイメージですが、それは逆ですね。
――大橋さんはヤンチャしていたんですか?
大橋 僕はヤンチャではないです(笑)。
常田 ……してたかなあ(笑)。
大橋 シンタくんも僕もすごい真面目です(笑)。
――続いては、おうち時間が長い昨今ですが、最近ハマっていることはありますか。
常田 ありますね。壊れたものの修理にハマったんですよ。先日は、コピー機が壊れていたので、自分で直しました。昔から分解癖があって、よく修理していたのですが、直ったら得も言われぬ達成感があって(笑)。けっこう自分で修理できるのが、おもしろいです。
大橋 僕は家で映画を観ていて、最近は、Netflixを観ることが多いですね。世の中ではいま韓国作品が流行っているじゃないですか。それこそ大ヒットした韓国ドラマ『愛の不時着』とかもありますが、僕はラブロマンスがあまり得意ではないので、観やすいものを探したらけっこうありました。『イカゲーム』や『梨泰院クラス』、『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』や『マイネーム:偽りと復讐』あたりも観ましたね。
これまで韓国作品は全然通ってこなかったんですが、最近になって観てみると、独特な雰囲気がおもしろかったです。韓国のドラマって、日本にはない、韓国ならではの慣習のようなものを感じ取れますよね、先輩を敬う感じとか。最初はそこに入り込めなかったんですが、文化がわかってくると、2本目3本目とだんだん観るようになってきましたね。
――いろいろなお話をありがとうございました。では最後になりますが、来年の抱負をお聞かせください。
大橋 来年は全国ツアーがあります。このままの状態でいけば、お客さんと一緒に会場で楽しめそうなので、もし興味があればananやananwebを読んでいるみなさんにも来ていただきたいです。10代の読者の方の場合、お父さんやお母さんがスキマスイッチを聴いていて、家にはCDがあるという方もいるかもしれないですよね。
常田 車でスキマスイッチがかかっていたとかもね。
大橋 最近どこにも外出していないな、という読者の方がいたら、僕らのライブを口実にしてもらっていいので、友達や家族で過ごす時間をスキマスイッチのライブで提供していければいいなと思います。
取材後記
誰もが耳にしたことがあるであろう、ポップスの名曲を次々と生み出している、スキマスイッチ。ananwebの取材でも、大橋卓弥さん、常田真太郎さんの音楽に対する深い想いをお聞かせくださいました。これから生まれてくる楽曲にもまた期待が募るスキマスイッチの2枚のコンセプトオリジナルアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。
写真・安田光優 取材、文・かわむらあみり
スキマスイッチ PROFILE
大橋卓弥、常田真太郎のソングライターふたりからなるユニット。
2003年7月、1stシングル「view」でメジャーデビュー。「奏(かなで)」「全力少年」「ボクノート」「Revival」など数々のヒット曲を生み出し、全国区での人気を獲得する。
2021年11月24日、コンセプトオリジナルアルバム『Hot Milk』『Bitter Coffee』を2枚同時にリリース。12月22日、「スキマスイッチ”Soundtrack”」と題した日本武道館公演を実施。2022年2月10日から、「SUKIMASWITCH TOUR 2022 “café au lait”」と題した全国ツアーを開催。
Information
New Release
『Hot Milk』
(収録曲)
01. OverDriver
02.吠えろ!
03.青春
04.Ordinary
05.東京
06.スイッチ!
07.されど愛しき人生
2021年11月24日発売
*収録曲は全形態共通。
(通常盤)
UMCA-10087 (CD)
¥2,500(税抜)
(初回限定盤)
UMCA-19065 (CD+Blu-ray付)
¥3,500(税抜)
*スリーブケース仕様。
<Blu-ray内容>
・Hot Milk盤:「Documentary of“Recording”」 レコーディングドキュメント+メンバーインタビュー映像。
New Release
『Bitter Coffee』
(収録曲)
01.I-T-A-Z-U-R-A
02.G.A.M.E.
03.風がめくるページ
04.いろは
05.SINK
06.フォークで恋して
07.あけたら
2021年11月24日発売
*収録曲は全形態共通。
(通常盤)
UMCA-10088 (CD)
¥2,500(税抜)
(初回限定盤)
UMCA-19066 (CD+Blu-ray付)
¥3,500(税抜)
*スリーブケース仕様。
<Blu-ray内容>
・Bitter Coffee盤:「Documentary of “Studio Live”」 *収録曲のスタジオライブを撮り下ろしで収録。
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