言葉は通じるけれど話が通じない会話はまさにコントです(笑)。
「ディスコミュニケーションの話だと思うんですよ。言葉は通じるけれど話が通じない人たちの会話が、ずっと続く(笑)。登場人物の中でちゃんとしている人って僕だけですからね。僕は正論しか言ってないのに、みんな否定ばかりで、全然聞いてくれずに孤独です。しかも、ラネーフスカヤ役の原田美枝子さんを筆頭に、聞かない側の説得力が高いもんだから、さらにイライラが募る。その原田さんがチャーミングだから、余計に手に負えない。何も物事を知らない、ワガママでとんでもない女主人なのに、僕を含めみんなが彼女に夢中ですからね(笑)」
演出は、昨年の『セールスマンの死』で高い評価を受けたショーン・ホームズさん。八嶋さんはその舞台を観劇して感銘を受けていたそう。
「素晴らしいキャパシティを持った方で、僕らを新たな発見に導きながら遊ばせてくれる感じがあります。毎回、このシーンで何をやるのか、それぞれの役の思惑、俳優自身の思惑まで事前に明確にするんですね。それを全員共有した状態で稽古して、生まれた発見を持って最初のシーンに戻ると、自然と芝居が肉付けされているのがわかる。視覚的な面でも、抽象的なセットの意味を全員が共有した上で稽古するんですね。だから、ラネーフスカヤが自らの意思で舞台の台の上から降りただけで、その意味を察して感動できたり。しかも稽古が中盤に差し掛かったタイミングで『もしかしたらここにも男女の関係があったんじゃない?』なんて急に新しい種を蒔いてくるもんだから…毎日稽古が楽しくって仕方ないです」
物語は悲劇的な方向へ舵を切っていくが、作家本人から“喜劇”と銘打たれている作品。
「ひとつの話題で場の熱量がグッと高まってきたと思ったところで、サッとかわしたり、潰しにかかったりする。うまく進んでいたことが急にコケたりするって、まさにコントの手法と同じですからね。しかも、関西人なら『なんでやねん』とか『ちゃうちゃう』って、観ながらずっとツッコめる展開で。いろんな笑いがちりばめられていると思います」
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『桜の園』 桜の園へ戻ってきたラネーフスカヤ(原田)ら一行。しかし管理を任された兄のガーエフ(松尾)は才覚がなく、一家は多額の負債を抱え、桜の園は競売の危機に瀕していた。上演中~8月29日(火) 渋谷・PARCO劇場 作/アントン・チェーホフ 英語版/サイモン・スティーヴンス 翻訳/広田敦郎 演出/ショーン・ホームズ 出演/原田美枝子、八嶋智人、成河、安藤玉恵、川島海荷、前原滉、川上友里、竪山隼太、天野はな、永島敬三、中上サツキ、市川しんぺー、松尾貴史、村井國夫 マチネ1万1000円 ソワレ1万円ほか パルコステージ TEL:03・3477・5858 宮城、広島、愛知、大阪、高知、福岡公演あり。https://stage.parco.jp/program/sakuranosono2023/
やしま・のりと 1970年9月27日生まれ、奈良県出身。劇団カムカムミニキーナ所属。舞台のほか、映画、ドラマで活躍。8月25日スタートの時代劇『雲霧仁左衛門6』(NHKBSプレミアム)、情報番組『チョイス@病気になったとき』(NHK Eテレ)出演中。
※『anan』2023年8月16日‐23日合併号より。写真・中島慶子 スタイリスト・久 修一郎 ヘア&メイク・藤原羊二 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)