志村 昌美

『アルプスの少女ハイジ』がまさかの18禁に!? 暴れまくる最強のハイジに世界が注目!【映画】

2023.7.13
長年にわたって、世界中の人たちから愛され続けている児童書『アルプスの少女ハイジ』。日本ではテレビアニメ版が絶大な支持を誇っていますが、今回ご紹介するのは、本国スイスで誕生したB級エログロバイオレンスバージョンにアレンジされた18禁の実写版です。

『マッド・ハイジ』

【映画、ときどき私】 vol. 592

チーズ製造会社のワンマン社長で、スイスの大統領でもある強欲なマイリ。自社製品以外のすべてのチーズを禁止する法律を制定し、スイス全土を掌握すると、恐怖の独裁者として君臨する。

それから20年が経ち、アルプスに暮らすハイジは年頃の女性になっていた。ところが、恋人のペーターが禁制のヤギのチーズを闇で売りさばいていたことが発覚し、ハイジの眼前で処刑。さらに、唯一の身寄りであるおじいさんもマイリの手下によって爆死してしまう。愛するペーターと家族を失ったハイジは、血塗られた戦士へと変貌を遂げ、復讐の鬼と化すのだった。はたして、ハイジは邪悪な独裁者を血祭りにあげ、母国を解放することができるのか…。

世界19か国538人の映画ファンによるクラウドファンディングで、約2億9000万円もの資金を集めたことでも話題となった本作。今回は、制作の裏側についてこちらの方々にお話をうかがってきました。

ヨハネス・ハートマン監督 & サンドロ・クロプシュタイン監督

ともにスイスのベルンに在住し、幼馴染でもあるヨハネス監督(写真・左)とサンドロ監督(右)。2007年以来、一緒にショート映画やミュージック・ビデオを手掛けてきた2人ですが、本作が初の長編映画となります。そこで、完成までに起きたさまざまなトラブルや日本から受けている影響、仕事をしてみたい日本人俳優などについて語っていただきました。

―日本では『アルプスの少女ハイジ』に対してピュアなイメージを持っている方が多いので、本作で描かれているようなバイオレンスやエログロとはまさに対極の題材だと思いますが、それらを結び付けようとしたのはなぜですか?

ヨハネス監督 僕たちもハイジに対する印象は、日本のみなさんとまったく同じです。だからこそ、無垢なハイジとキレイなスイスのイメージをあえて真逆なものにしたらおもしろいし、バカげているのではないかなと。そして、みなさんが予想もできないものを作りたいと考えました。あとは、ハイジも成長したってことですよね(笑)。

―とはいえ、それらのイメージをここまで覆すような作品を出すことに対して、周りからの反響が心配になることはなかったのでしょうか。

サンドロ監督 そこに対しての懸念はありませんでした。もちろん、いろいろな感想があり、ネガティブな反応があったのも事実です。でも、それも考えようによっては宣伝効果になりますからね!

ただ、そのなかでも厳しかったのは、映画に反対した人たちが伝統的な衣装を売るお店に対して僕たちに衣装を一切売らないようにとメールを送ったこと。なぜなら、彼らにとって伝統衣装をアレンジするということは、ある意味伝統を冒涜していることになるからです。そういった批判はありました。

それから、ティザー映像のなかでアーミーナイフを使って人の目をえぐる場面が映っていたのを見たスイスのアーミーナイフで有名な某会社が、僕たちのことを訴えようとしたことも…。そういったこともあったので、アーミーナイフではなく、日本の刀に変更しました。

人によって、まったく異なる見方がある作品

―映画作り以外のところでも、大変なことがそんなにいろいろとあったとは…。

サンドロ監督 あと、共同脚本を担当してくれたグレゴリー・ヴィトマーの話もまだありますよ。彼は普段チューリッヒの空港で税関の警官として働いていて、副業として空き時間を使って脚本を手伝ってくれましたが、この作品を観た彼の上司から「警察の仕事にふさわしくない」という理由で突然解雇されてしまったのです。でも、これにもめげることなく、裁判を起こして最高裁判所で勝訴しました。

そのほかにも僕たちの作品に対して、「人種差別だ!」「女性蔑視だ!」とか「暴力を美化している」といった声が上がったこともありましたね。ただ、いっぽうで「これはフェミニストの映画だ」というふうに称賛してくれた方もいたので、別の人が観れば、まったく異なる見方がある作品と言えるのかもしれません。

―完成までは、まさに波乱の道のりですね。ちなみに、おふたりは高畑勲監督と宮崎駿監督による 1974 年の テレビアニメ版はご覧になっていましたか?

サンドロ監督 はい、子どもの頃に観ていました。もう30年近く前ですが、とてもいい思い出です。

ヨハネス監督 おそらくほとんどのスイス人が、ほかの作品よりも先にまずこのアニメを観て育っている気がします。ただ、ドイツ語で吹き替えられていたので、ドイツのアニメだと思っている人も多いんじゃないかなと…。実際、僕もこの作品が日本のアニメだと知ったのは、かなりあとになってからでしたからね。

日本のアニメからインスピレーションを受けている

―スイスでもそれほど親しまれている作品なんですね。そういったこともあって、本作には日本の要素も随所に取り込まれていたのでしょうか。

ヨハネス監督 そうですね。たとえば、今回だとキャラクターの名前を日本風に発音してみたり、クララを日本人という設定にしてみたりしました。ほかにも、日本のアニメからインスピレーションを受けている部分もあるので、気がつく方にはわかるようなネタも入れています。

サンドロ監督 本作の衣装に関しても、スイスの伝統衣装に侍の鎧を組み合わせているので、そのあたりもインスパイアされていますよ。

―いま名前が挙がったクララに関しては、日系の俳優であるアルマル・G・佐藤さんを起用し、さらに劇中で役名を日本語で表記しているほどなので、特に日本への強いこだわりを感じさせるキャラクターとなっています。

サンドロ監督 最初からそうしたいと思っていたわけではなく、みんなでセッションを重ねていくなかで、この作品自体が日本の影響を直に受けているのでクララを日本人にしてみようとなりました。

ヨハネス監督 それに、僕たち自身も映画に関する思考においては、日本から大きな影響を受けていますから。いまになってみると、アニメのなかにも日本人のキャラクターがいてもよかったんじゃないかと思っているくらいです(笑)。

ありがちなスイスのイメージを壊したかった

―そのあたりはぜひ日本の観客には楽しんでいただきたいところですね。それ以外にも、注目してほしいポイントなどがあれば、教えてください。

ヨハネス監督 脚本を書くにあたってはかなり話し合いをして、いろんなアイディアが出ましたが、そのなかでありがちなスイスのイメージを壊したいというのもありました。たとえば、「人を殺せる食べ物は何か?」というのに対して「スイスで有名な三角の山が付いているトブラローネチョコレートにしよう」とか「大量のチーズフォンデュにしよう」とか(笑)。

あとは、ダイナマイトの仕掛けに鳩時計を使っているのもその一つ。ただ、これに関して付け加えると、本当はドイツの発明品なのに、多くの人が鳩時計はスイスのものだと思い込んでいるので、そういった部分も入れたらおもしろいかなと思って入れました。

―先ほど、日本から影響を受けているということでしたが、具体的な作品や好きなアーティストを挙げるとすれば?

サンドロ監督 僕は、『修羅雪姫』『女囚さそりシリーズ』『殺し屋1』といった作品が好きです。

ヨハネス監督 作品で言えばまず『バトル・ロワイアル』ですが、三池崇史監督や黒澤明監督の手掛けた一連の作品からも僕たちは多大なる影響を受けています。

―ちなみに、一緒にお仕事してみたい方はいらっしゃいますか?

サンドロ監督 それは、梶芽衣子さんです!

ヨハネス監督 僕も同感ですね。

次回は、ハイジとクララをもっと展開させたい

―おもしろい組み合わせなので、ぜひ見てみたいです。本作については、続編の期待もたかまりますが、すでに進行しているのでしょうか。

ヨハネス監督 これに関しては、もう少し時間が必要かなと思っています。というのも、今回は個人投資家の方々がサポートしてくれた作品ということもあり、日本とアメリカの成績次第かなと。そこでお金が回収できれば、次に取り掛かれるかもしれませんが、まだ現時点では何とも言えないところですね。

―なるほど。とはいえ、ストーリーはすでに浮かんでいらっしゃるのでは?

サンドロ監督 まだ固まっているわけではないですが、ハイジの冒険は出発点に差し掛かったばかりということもあり、その先が描けたらいいかなと。特に、クララ役のアルマルがすごくよくて、また一緒に仕事したいと考えているので、次回はより彼女にスポットライトを当てて、ハイジとクララの話が展開できたらおもしろいかなと思っています。

―ぜひ楽しみにしています。それでは最後に、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。

ヨハネス監督 ハイジのアニメで育った日本の方々が、この作品をどのように観るのかがとても楽しみですね。もし気に入っていただけたら、友達やたくさんの人に広めてもらえるとうれしいです。

サンドロ監督 まもなく日本で開催されるプレミアにも参加しますので、日本でみなさんと会えることを楽しみにしています。

スイス映画の概念をぶっ壊す!

想像の斜め上をさらに超えてくるような展開の連続に、誰もが衝撃を受けずにはいられない本作。美しいスイスの景色を舞台に、オトナな一面を見せるハイジにドキドキしつつ、見事な暴れっぷりにはアドレナリン全開になること間違いなし!


取材、文・志村昌美

驚愕の予告編はこちら!

作品情報

『マッド・ハイジ』
7月14日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
配給:ハーク/S・D・P
https://hark3.com/madheidi/
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