田代 わこ

「学生を励ます意味」で東京藝大が卒業作品を30万円で買う「買上」制度、知ってる?

2023.4.30
上野の東京藝術大学大学美術館で、『買上展』が開催されています。「買上」とは、東京藝大が卒業・修了制作のなかで特に優秀な作品を買い上げる制度のこと。本展では、大学創立時から現代までに買い上げられたハイレベルな作品が紹介されています。今回、展覧会の見どころや買上の歴史などについて、企画を担当された先生にお聞きしてきました!

買い上げ作品、約100件を展示!

『買上展』展示風景

【女子的アートナビ】vol. 290

『買上展』では、大学が所蔵する「学生制作品」約1万件のなかから、厳選された約100件を展示。 東京美術学校卒業生の横山大観や菱田春草など、今では巨匠と呼ばれる画家たちのデビュー作から、現在活躍しているアーティストたちの卒業・修了制作まで、多彩な作品が集められています。

本展は2部構成で、第1部「巨匠たちの学生制作」では、東京美術学校時代に集められた卒業制作を中心に展示。

第2部「各科が選ぶ買上作品」では、東京藝術大学で「買上」を実施している12の学科と専攻(日本画、油画、彫刻、工芸、デザイン、建築、先端芸術表現、美術教育、文化財保存学、グローバルアートプラクティス、作曲、メディア映像)から各科の教員によって選ばれた作品を紹介しています。

本展を企画された、東京藝術大学 大学美術館教授の古田亮先生に、展覧会の見どころなどお聞きしてきました。

買上金額、最初期は3万円!

『買上展』展示風景

――まず、『買上展』というタイトルがユニークで、とても興味をひかれました。

古田先生 そう言っていただけると、うれしいです。「買上」というのは、学内でやっている制度で、大学では当たり前に行われてきました。今回、過去を含めて買上制度を振り返ることで、東京藝大を知っていただくきっかけにもなるかと思いました。

――買上制度について、教えていただけますか?

古田先生 東京藝術大学が今の国立大学になったのが昭和24年ですが、その最初期から「買上制度」がはじまり、今でも続いています。買上となる優秀作品は、大学全体で決めるのではなく、各科がそれぞれ評価する形になっています。

前身の東京美術学校時代から、教育の成果を蓄積していこうという意図があり、卒業制作を収集していました。現在では、多くの科が首席という位置づけで作品を買い上げ、社会に出てからもがんばってね、と学生たちを後押しする制度として機能していると思います。

――買上制度の最初期と今の買上金額について、教えていただけますか?

古田先生 昭和20年代の最初期は3万円でした。その後どんどん上がり、最近は各科一律30万円です。物価指数との問題もありますが、金額はともかく、学生を励ます意味はあると思っています。

巨匠のハイレベル卒業制作が見られる!

横山大観《村童観猿翁》1893 明治26年卒業 買上

――第1部の見どころについて、教えてください。

古田先生 今では「巨匠」と呼ばれている人でも、卒業以前はみな同じ学生だったわけです。その後、大変活躍した人たちを東京美術学校は大勢排出してきました。そんな巨匠たちの「最初期の出発点」となる作品を集めるのは、本学でしかできないことで、彼らの卒業制作を振り返れるのが見どころです。

例えば、横山大観や菱田春草の卒業制作も、つい「巨匠の絵」と思って見てしまいますが、描いたときはみな学生でした。彼らは、卒業制作でかなりレベルの高い作品を残していたことがわかります。

『買上展』展示風景より、グローバルアートプラクティスの買上作品

――続いて、第2部の見どころを教えてください。

古田先生 各科が選んだ作品をまとめて見られる展覧会は、今回がはじめてです。今後も、なかなか実施できないかもしれないので、めったにないチャンスだと思います。

日本画や油画などは、よく展覧会も開かれますが、例えばメディア映像や作曲科などの買上作品展示は珍しい試みです。東京藝大にさまざまな科がある、ということを知らない方も多いと思いますので、驚かれるかもしれません。各分野で専門を極めた学生たちによる、レベルの高い作品を楽しめる機会になっています。

勢いのある作品が見られる!

荒神明香《reflectwo》2006-2007 平成18年度卒業 買上

――最後に、anan読者におすすめの作品を教えてください。

古田先生 たくさん作品があり、ジャンルもバラバラなので、おすすめ作品を選ぶのが難しいですけれど、先端芸術表現科の作品はいかがでしょう。4つの作品があり、そのうち3点は女性が作った作品です。それぞれの訴え方も、インスタレーションであったり映像であったりして、表現の幅がすごく広いというのがわかります。

先端芸術表現という科が東京藝大にある、ということも知らない方が多いと思います。読者のみなさんと同じ世代の女性がつくり、作品が買い上げられ、その後アーティストとして活躍しています。勢いのある人たちが選ばれていますので、ぜひご覧になってみてください。

――興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

連休中も開催!

古田先生のお話、いかがでしたか? 東京藝大に入ってくる学生さんは、浪人したり社会に出てから入学したりと、年齢もさまざまで、卒業・修了作品を制作する人たちは20代後半も多いそうです。

anan読者のみなさんと同じ世代の人たちがつくったエネルギッシュな作品が集まる展覧会、ぜひご覧になってみてくださいね。

本展は5月7日まで開催。連休中もオープンしています!

Information

会期    :~5月7日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)
会場    :東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1、2、3、4
開館時間  :午前10時 - 午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料   :一般 ¥1,200、大学生 ¥500、高校生以下無料

公式HP: https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2023/03/collection23.html