志村 昌美

藤原さくら「どうしていいかわからなくなっても、リスタートできる」映画から学んだこと

2023.3.29
いまやスマホやパソコンで映画を楽しむ人は増えていますが、それでも最高の映画体験に欠かせない場所といえば映画館。そこで、ミニシアターを舞台にした映画愛が詰まった注目作『銀平町シネマブルース』をご紹介します。今回は、現在公開中の本作に出演しているこちらの方にお話をうかがってきました。

藤原さくらさん

【映画、ときどき私】 vol. 564

シンガーソングライターとして精力的に活動し、高い人気を誇っている藤原さん。劇中では、時代遅れの映画館「銀平スカラ座」でバイトとして働く足立エリカを演じています。映画初挑戦となった本作で感じたことや現場での思い出、そして自身を支えてくれている存在などについて語っていただきました。

―まずは、オファーがきたときのお気持ちからお聞かせください。

藤原さん いままで映画には出演させてもらう機会がなかったので、お話をいただいたときはとってもうれしかったです。主演の小出恵介さんはじめキャストのみなさんもスタッフのみなさんも、個性豊かな素敵な方たちばかりで楽しみでした。

―今回が初めての映画出演となりましたが、これまで経験されていたドラマの現場と比べてみていかがでしたか?

藤原さん 監督によるかもしれませんが、時間が押したりすることもなく、すごくサクサクと撮影が進んでいった印象です。特に城定秀夫監督は、長回しで撮ることが多かったので、最初に何度かリハーサルをして、本番が決まったら1発で終わりというシーンもありましたね。

自分のなかにある映画好きな部分を自然に出したかった

―最初に脚本を読んだとき、ご自身の役どころはギャルだと思われたとか。役作りはどのようにして現場に挑まれましたか?

藤原さん まず脚本からは、イマドキの女の子なのかなという印象を受けました。あとは、純粋にすごく映画が好きな子なんだと。私自身も映画が好きなので、今回は自分のなかにもあるそういう部分を自然に出せたらいいなと考えました。「事前にがっつり役作りしなきゃ」というよりは、演じやすい役どころでしたね。

―本作には個性豊かなキャストの方々が集まっていますが、現場の様子はどんな感じだったのでしょうか。

藤原さん 最初は誰も知り合いがいなくて緊張していましたが、みなさん本当に気さくに話してくださる方ばっかりだったので、すごく居心地のいい現場でした。キネマ座では、常連メンバーが並んでおしゃべりしていましたね。なかでも、ミュージシャンの黒田卓也さんはすごくおもしろい方でした。

ちなみに、実は黒田さんに関しては、最初に顔と名前が頭のなかでつながっていなくて、俳優さんかと思っていたんです。そしたら劇中で演奏しているトランペットがすごすぎて、「え!? どういうこと!?」って衝撃を受けました。日本人として初めてブルーノートと契約した方ですから、うまいに決まっていますよね(笑)。その後、音楽の仕事でもご一緒できて、すごくうれしかったです。

現場では、ハプニングが起きたこともあった

―ほかにも、印象的だったエピソードといえば?

藤原さん ハプニングと言ったら、撮影中に監督が骨折してしまったことでしょうか。あれはびっくりしましたね。ある日、監督が現場にいらっしゃらなくて、みんなで「どうしたんだろう?」と話しながら待っていたところに報告が入ったんですけど、吹越満さんとか宇野祥平さんとかが「やっぱり……。不吉なことが起こると思っていたんだ」と。聞いてみると、前日にホテルでお湯が出なかったとか、変な音がしたとか、そういったことがあったらしく、嫌な予感がしていたみたいです(笑)。

―ある意味、映画みたいな出来事ですね。また、日高七海さんとは本作での共演がきっかけで、Podcastの番組も始められました。そういう意味でも、思い出深い作品になったのでは?

藤原さん そうですね。七海ちゃんとは地元が同じ九州というのもありますし、波長やスピリットが合うんです。「学校でクラスが一緒だったら友達になっていただろうな」という空気感があったので、Podcastに誘いました。七海ちゃんと出会えて良かったです。

出会った人や映画が蓄積されて、新しい言葉が生まれる

―俳優としての経験が、音楽活動にも影響を与えていると感じることはありますか?

藤原さん やっていることは違うものの、表現としては近いところもある気がしています。出会った人たちや役が与えてくれた気持ちが自分のなかに蓄積されて、新しい言葉が出てくることもあるのかなと思っています。

そういう意味でも、『銀平町シネマブルース』は自分の創作活動にも影響を与えてくれた作品になりました。今後も、音楽活動と相談しつつ、ご縁があったらまた映画に出られたらいいなと思います。

―実際、完成した作品をご覧になったときは、いかがでしたか?

藤原さん はじめは客観的に観れなくて緊張しましたが、何回も観ていくうちに、映画愛に溢れた本当にいい作品だなと思いました。私の家族も地元の素敵な映画館へ観に行ってくれたのですが、泣いて笑ったと感想をくれたほどです。映画好きな人にとっては思わず合掌したくなるようなたまらない仕上がりになっているので、こういう映画に参加できてよかったなと改めて感じました。

それから、撮影していたのは2021年でコロナ禍だったこともあり、ミュージシャンとしても時間が止まってしまったような時期を過ごしていたなと振り返った部分もあったかもしれません。無気力になってしまったり、どうしたらいいかわからなくなってしまったりしても、前に進めるのが人生だし、誰でもリスタートできるんだという気持ちになりました。

映画館での体験は何ものにも代えがたい

―劇中の登場人物たちにとっては映画館が心のよりどころにもなっていますが、藤原さんにとって心のよりどころは何ですか?

藤原さん 私にとっては、犬ですね。自分が実家に帰ってきただけで喜んでくれる姿を見ると愛を感じます。私は動物が好きなこともあって、牧場や水族館などで生き物と一緒にライブをすることもありますが、動物がいるとすごく気持ちが穏やかになるんですよね。無になれるというか、「かわいい」という感情しかなくなります(笑)。

あとは、映画館もよりどころではあるかもしれませんね。映画館で映画を観ると、すごくリフレッシュできるので。いまはスマホでも映画が観れてしまう時代ですが、わざわざ映画館に行き、自分の五感を映画に捧げて作品の一部になるという体験は何ものにも代えがたいことですよね。

―そうですね。もし映画館にまつわる思い出などもあれば、教えてください。

藤原さん 10代の頃には、時間がたくさんあったこともあって、ポイントカードを作るくらい映画を見に行っていました。

―そのなかでも、ご自身の人生に影響を与えたような作品もありましたか?

藤原さん 昔の映画も観るほうではありますが、すごく好きな作品は『ブルース・ブラザース』(80)。やっぱり音楽が関わっている映画は好きですね。ほかにも、ザ・ビートルズとか、自分が好きなアーティストのドキュメンタリー映画はよく観ます。あとは、ミュージカル映画もいいですよね。

ファンの方がいるだけで、大丈夫だと思える

―本作では、人生に迷っている主人公の姿が描かれていますが、ご自身もどうしていいかわからなくなるような経験をされたことは?

藤原さん もちろんあります。いまはツアーで各地を回れていますが、コロナ禍のときはライブができなかったり、曲を作っても聞いてもらう場所がなかったりして、私だけでなく多くのミュージシャンがそういうことを感じていたのではないでしょうか。

でも、そのときに物事のとらえ方次第で気持ちが変わることを改めて実感しました。コロナ禍をただの悲しい出来事にするのではなく、そんななかでも自分に成長を与えてくれたいい機会にもなったと受け止めたほうがいいのかなとか。すごくいろんなことを考えさせられた時期で、私にとっては転機になったと思います。

―つらい思いをしていたとき、藤原さんにとって支えとなっていたのは何ですか?

藤原さん やっぱりそれは、ファンの方々の存在です。自分が落ち込んでいるときには一緒になって悲しんでくれますし、「大丈夫だよ」と声を掛けたりしてくれますので。すごく支えてもらっています。

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

藤原さん 自分に余裕がなくなってしまうと、落ち込んでしまうこともあるかもしれません。そういうときこそ映画を観に行ったり、好きな音楽を聴いたりして息抜きをしてください。これからも、一緒にがんばりましょう!

インタビューを終えてみて……。

透明感のある肌と柔らかい笑顔が印象的な藤原さん。そして、心地よい声はいつまでも聞いていたいと思ってしまったほどです。撮影中にはチャーミングな表情も見せていただき、現場では「かわいい」の声がわき上がりました。本作では、音楽活動のときとはまた違う藤原さんの魅力に注目してください。

物語は、まだ始まったばかり!

映画の素晴らしさと、どん底にいてもやり直せるチャンスは誰にでもあることを改めて思い出させてくれる本作。“人生”という名の映画は、自分次第でどんな物語にでも書き換えられると感じるはずです。


写真・幸喜ひかり(藤原さくら) 取材、文・志村昌美
ヘアメイク・筒井リカ スタイリスト・岡本さなみ

ストーリー

かつて青春時代を過ごした銀平町に帰ってきたのは、一文無しの青年・近藤。行く当てもないまま町で過ごしていると、ひょんなことから映画好きのホームレスの佐藤と映画館「銀平スカラ座」の支配人・梶原と知り合う。映画館でバイトを始めることになった近藤は、同僚のスタッフや老練な映写技師、個性豊かな映画館の常連客との出会いを経て、かつての自分と向き合い始めるのだった。

温かい気持ちになる予告編はこちら!

作品情報

『銀平町シネマブルース』
3月31日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
https://g-scalaza.com/
(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会