一級建築士が教える! 現代の生活スタイルに「いらない間取り、不便な間取り」

文・伊藤順子 — 2023.1.2 — Page 1/2
家づくりにおいて、これまでの常識が覆される時代となりました。一級建築士のリクドウさんが、現代の生活スタイルに「いらない間取り、不便な間取り」を、今急増中の最新人気間取りと合わせてご紹介します。

一級建築士が教える! 今の生活スタイルに「いらない間取り、不便な間取り」

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リクドウさん 柔らかな陽光に幸せを感じながらシーツを干す、シワが消えるさまに充実感を覚えながらアイロンをかける…。家事が好きな人は結果とともにその過程も楽しめると思いますが、苦手な人や家事以外にやりたいことがある人、仕事に時間を取られがちな人にとっては、それらを楽しむ余裕なんかなく、むしろ苦痛でしかありません。過程なんか取っ払ってすぐに結果がほしいと思うでしょう。

そうした考えは、残念ながら昔は我慢するしかありませんでした。ですが、時代の移り変わりとともに家電は進化し、男女の働き方が多様になり、家事に対する価値観もさま変わりしたと同時に、ようやくその主張が注目されるようになったのです。今回は、今は「不要、不便」という声が出始めている間取りをご紹介します。

※おもに東京都内ほか近郊に住むファミリー世帯の戸建てが対象です。

今や不要、不便その1:風呂の脱衣所に洗面台 

よく考えてみると、脱衣所と洗面台ってなんでセットなんでしょうか。風呂から出て肌のお手入れや髪を乾かすのに便利だから? それも一理ありますが何も同じ空間じゃなくてもいいですよね。この組み合わせの最大のデメリットは、入浴以外の使用時の不便さにあります。

例えば来客時。お客さんがいらしたら、まずは手を洗ってもらいます。そしてトイレに簡易的な手洗いがなければその都度洗面台を使ってもらいますよね。つまりその度に、浴室や洗濯機(置いてあれば)などが人目にさらされるわけです。ということは、来客時はそこの掃除までしなくてはいけません。だたでさえお招きするリビングやキッチンの掃除で手一杯なのにそこまでするのかと、楽しい時間を前に疲労困憊になったり、腹立たしく思ってしまう人も少なくないはずです。

また、朝の支度時。シャワーを浴びる人もいれば、浴びない人もいます。浴びない人にとってはわざわざ風呂場にいかなければなりません。風呂に入らないのになぜ風呂場に行かなければいけないのでしょう! そして脱衣場は限られた空間ですから、家族人数が多い家庭にとっては順番待ちの大渋滞にもなります。歯磨きのうがいをしたいのに、ヘアブローで洗面台が占領されてる。仕方なくキッチンでうがい、洗顔なんて日本のよくある光景です。

…というわけで令和の今、これらの問題の解決策として、洗面台は風呂の脱衣所に設置するのではなく、玄関とリビングの動線上にある廊下などに設ける人が増えていると言われています。廊下という共有部分に設置すれば、来客があっても風呂場はプライベート空間を保てますし、洗面台の幅もより広くとれるので、複数人が横並びで歯磨きやヘアブローなどができ、渋滞解消に役立ちます。狭い居住空間における共有部分の有効活用という考え方もできます。

デメリットとしては、廊下の床が水分で傷みやすい、廊下が混雑するといった点でしょうか。とはいえ、個人的にそれらよりもメリットのほうが上回ると考えますね。

今や不要、不便その2:対面キッチン

対面キッチンとは、カウンターキッチン、アイランドキッチンと呼ばれるものの向こう側にダイニングテーブルを配するスタイルのこと。多くの人にとってものすごく見慣れたレイアウトだと思います。ですが、今はこちらを取り入れる人は減ってきているよう。代わって台頭しているのが、「横並びダイニング」と呼ばれるものです。

これは文字通り、コンロやシンクなどのいわゆるキッチンの横に、一直線になるようダイニングテーブルを設置するレイアウトです。メリットは、配膳が超ラクになる、これに尽きます。食事時はスライド移動しながら料理をテーブルに運ぶだけなので、家事動線がかなり短くなりますよね。

注意点としては、キッチンとの距離が近いので小さなお子さんが刃物や火など危険なものに触れやすい、横並びできる空間が必要、リビングまでの距離ができる、来客にキッチンの中まで見られるといった点があります。お子さんが小さい時期は避けるのが無難かもしれませんが、毎日の配膳がスムーズになると思うと個人的には他のデメリットは目を瞑れますね。

今や不要、不便その3:キッチンの床下収納

キッチン床下の有効活用! なんて考えは減少中です。それよりも、出し入れしづらい、湿気が気になるなどの問題点のほうが目につきますから。とはいえ、保存がきく食料や日用品、食器類などをストックしておくキッチン専用の収納スペースは必要不可欠。そこで主流となっているのが、パントリーと呼ばれる独立した空間です。

ウォークインや棚、キッチンの引き出しの一角をそれにするなど、さまざまなタイプがあり、ある程度空間を確保できるのならウォークイン、省スペースでいいなら棚、引き出しなど家のサイズやご自分の状況に応じてみなさん作っているよう。キッチンに関連したモノをまとめてストックできて管理しやすいといった点が支持要因のひとつでしょう。

それぞれの注意点としては、ウォークインは大量に収納でき、かつモノの出し入れはしやすいが、人が入る空間分はモノは置けません。つまりけっこうなデッドスペースができるということです。

棚は固定棚にしてしまうとサイズが合わず収納できないモノが出てくるので可動棚がベター。また扉をつけると扉の厚み分収納スペースが取られてしまうので、図面に書かれた棚の奥行きサイズに合わせて小分け用の収納ケースを用意したところで入らないなんていう事態にもなりかねません。スペースを使い切るためには、扉ではなく、ロールスクリーンやカフェ風カーテンなどがおすすめです。

引き出しに関しては、2Lペットボトルやビン類、米、キッチンペーパーなど大きなモノは収納しづらく、別に場所を確保しなければならない、といったところでしょうか。収納品を書き出してどのくらいのスペースが必要なのか熟考しましょう。

以上、現代の生活スタイルに「いらない間取り、不便な間取り」をご紹介しました。近年増えている大まかな傾向ですので、絶対に良いとは限りません。情報のひとつとしてみなさんのご参考になれば幸いです。

教えてくれた人
リクドウさん 一級建築士。設計事務所の管理建築士。普段の仕事は、公共、商業施設の設計がメイン。住まいに対するモットーは「自分らしくいられる、憩いの空間であるべき」


©takashi miki/Getty Images