何も「感じない」愛の営み|12星座連載小説#69~乙女座6話~
【12星座 女たちの人生】第69話 ~乙女座-6~
前回までのお話はコチラ。
まさか……一緒に入るの!?
彼とは付き合い始めてもう3年。これまでも一緒に入ったことはあるし、恋人同士だもの何も不思議なことではない。
でも……、自分の中で気持ちの整理がついていない状態で、彼と“そんな気分”になれるかしら……。
優しい彼のこと、断れば
「じゃあ、またね~」
と諦めてくれるだろう。
だけど、それはあまりにも酷すぎる気がする。
『恥ずかしいから、照明を落として欲しいな』
……苦渋の决断だ。
「うん、分かったよ」
彼がそう答えると、バスルームのライトがほのかに灯るようになった。
そして、一糸まとわぬ姿の彼が入ってきた。
思わず私はしゃがみこんで、胸を隠す。
「そんなに恥ずかしがらなくても」
『ぃやぁ……、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいしぃ』
そう言いながら、湯船ににじり寄って、逃げるようにしてお風呂に浸かる。
「まぁ、良いけどさ」
彼は自然体でシャワーを浴び、シャンプーを泡立てて、髪をワシャワシャしている。
――どうしよう。
もう、今日結論を出そうか。
でも、自分でもどうしたらいいか分からないし、もし今日決断したら後悔するかもしれない。
結局私は、嫌われたくないクセに、自分のやりたいこと優先しようとしているんだわ……。
そんなことを考えていると、
「失礼するね~」
彼が湯船に入ってきた……
「ふ~…… 最近さ、沙耶、少し様子が変じゃない?」
『え、変って……どう“変”なの?』
「俺がプロポーズしてから、避けてる」
――図星。
さすが、よく見てる。真司さんは欺けないわ。
「プレッシャー?」
『……うん、少し』
「別にすぐに答えを出さなくても良いんだよ?」
『……』
彼が動くたび、お湯がチャプリと音を立てる。それに対して身動きひとつとれない私。
「そろそろ出ようか」
ザバァと彼が立ち上がり、そのままバスルームから去っていった。
その後すぐに、バスルームが明るくなる。
最低だ、私……。もうこれ以上、彼を傷つけたくない。第一、私は彼のことが好きなのだし。
今日、“この日”にプロポーズを受けよう。
一瞬、千尋の笑顔が浮かぶ。
…決心した。
バスローブに身を包み、リビングに向かう。どうやって言おうか。
「プロポーズの件だけど……」と切り出そうかそれとも、彼から聞かれるのを待つ?
「ん、上がった? 冷えた白ワインがあるよ。飲む?」
彼がくつろいだ姿勢で尋ねてくる。
『そうだ……ね、頂こうかな』
彼がグラスにワインを注ぎ、渡してくれる。
……そして、乾杯。
彼が手元のリモコンを押すと、ホームシアターに、最近流行りの恋愛映画が流れ始めた。
非の打ち所のない彼。きっと私を幸せにしてくれるだろう。
この人に決めよう。仕事や勉強はいつだってできるんだから。
……映画が始まること30分。
私は映画には集中できず、いまだにプロポーズ返事のタイミングを見計らっている。
不意に彼が私の方を向き、抱きしめてきた。
『あっ……』
いつもより、少し強い抱擁。そして、私の唇をこじ開け、彼の舌が口の中に入ってきた。
『んんッ……』
ほんの少し、ワインの酸味がする。私と彼の唾液が入り混じり、まるで甘美なジュースのようだ。
同時に、彼の手が私の“オンナの部分”をなぞり始める。
『ッ……!』
咄嗟に彼の手を拒んだ。
「沙耶……、俺だって男なんだよ」
耳元で、今まで聞いたことないような低い声が聞こえる。
『ここじゃ、イヤ……』
聞こえるか聞こえないかくらいの、搾り出すような声。
……数分後、私はベッドの上にいた。
彼が首から鎖骨、胸、腹と順にキスをしてくる。
そして、太ももから下腹部へ……
『あンっ!』
私のスリットをなぞるように、彼の舌先が上下に動く。
静かな空間に“ピチャピチャ”と淫猥な音だけが響く。
そして、彼の舌が何かを探すかのようにもっと奥深くまで……。
『恥ずかしい……』
まるで子供のように“イヤイヤ”と顔を左右に振りながら、止めてくれるよう懇願した。
彼の舌が抜かれたかと思ったら、今度は……私の突起した“芽”を優しく口に含む。
『んんっ!!』
ひときわ高い声が出た。
“ソコ”は“中”とはまた違った、刺すような感覚がある。そして、だんだんと痺れるような快感に変わってきて……私は彼を受け入れられる身体になった。
頭の中がチカチカする。
私も彼に奉仕してあげなくちゃいけないんだろうけど、まだ抵抗があってしたことがない。でも、今日は特別。少し頑張ってみよう。
私は左手を“彼自身”に添え、先端に口を当て徐々に包み込んでいく。
たどたどしい動きながらも、顔をスライドさせて先端を愛す。
舌先で彼の鈴口をなぞると、我慢していた彼の“切なさ”が滲んで糸を引く。
「……ん」
彼は声を上げないように、必死で堪えている。
「沙耶、良い?」
しばらくすると彼から、声が掛かった。
『うん、来て……』
チェストから避妊具を取り出すと、彼は自分自身にそれを被せる。私は軽く脚を開き、彼を受け入れる体勢で待つ。
これから、愛を育む“行為”が行われるのだ。
『あ……』
クチュという音とともに、彼自身が私の中に埋められ、少しずつ緩急の動きがつけられる……。
……
……
気持ちよく、ない――
私の上で、彼が一生懸命愛してくれている。私の身体を撫でながら。唇を重ねながら。
でも、感じない。悲しいくらいに、何も。
自分だけ時間が止まっているかのような感覚。何か異物が、私の中に入っては出ているような……。
「沙耶、大丈夫? 痛くない?」
彼もその異変に気づいた。
……痛いんじゃない。
感じないの。感じないのよ、真司さん。
『痛く“は”ないよ』
彼の動きが止まる。
――しまった。
彼と私の温度差が、急速に広がっていった。
乙女座 第2章 終
【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。
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