何も「感じない」愛の営み|12星座連載小説#69~乙女座6話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.1
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第69話 ~乙女座-6~


前回までのお話はコチラ

まさか……一緒に入るの!?

彼とは付き合い始めてもう3年。これまでも一緒に入ったことはあるし、恋人同士だもの何も不思議なことではない。

でも……、自分の中で気持ちの整理がついていない状態で、彼と“そんな気分”になれるかしら……。

優しい彼のこと、断れば

「じゃあ、またね~」

と諦めてくれるだろう。

だけど、それはあまりにも酷すぎる気がする。

『恥ずかしいから、照明を落として欲しいな』

……苦渋の决断だ。

「うん、分かったよ」

彼がそう答えると、バスルームのライトがほのかに灯るようになった。

そして、一糸まとわぬ姿の彼が入ってきた。

思わず私はしゃがみこんで、胸を隠す。

「そんなに恥ずかしがらなくても」

『ぃやぁ……、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいしぃ』

そう言いながら、湯船ににじり寄って、逃げるようにしてお風呂に浸かる。

「まぁ、良いけどさ」

彼は自然体でシャワーを浴び、シャンプーを泡立てて、髪をワシャワシャしている。

――どうしよう。

もう、今日結論を出そうか。

でも、自分でもどうしたらいいか分からないし、もし今日決断したら後悔するかもしれない。

結局私は、嫌われたくないクセに、自分のやりたいこと優先しようとしているんだわ……。

そんなことを考えていると、

「失礼するね~」

彼が湯船に入ってきた……

「ふ~…… 最近さ、沙耶、少し様子が変じゃない?」

『え、変って……どう“変”なの?』

「俺がプロポーズしてから、避けてる」

――図星。

さすが、よく見てる。真司さんは欺けないわ。

「プレッシャー?」

『……うん、少し』

「別にすぐに答えを出さなくても良いんだよ?」

『……』

彼が動くたび、お湯がチャプリと音を立てる。それに対して身動きひとつとれない私。

「そろそろ出ようか」

ザバァと彼が立ち上がり、そのままバスルームから去っていった。

その後すぐに、バスルームが明るくなる。

最低だ、私……。もうこれ以上、彼を傷つけたくない。第一、私は彼のことが好きなのだし。

今日、“この日”にプロポーズを受けよう。

一瞬、千尋の笑顔が浮かぶ。

…決心した。

バスローブに身を包み、リビングに向かう。どうやって言おうか。

「プロポーズの件だけど……」と切り出そうかそれとも、彼から聞かれるのを待つ?

「ん、上がった? 冷えた白ワインがあるよ。飲む?」

彼がくつろいだ姿勢で尋ねてくる。

『そうだ……ね、頂こうかな』

彼がグラスにワインを注ぎ、渡してくれる。

……そして、乾杯。

彼が手元のリモコンを押すと、ホームシアターに、最近流行りの恋愛映画が流れ始めた。

非の打ち所のない彼。きっと私を幸せにしてくれるだろう。
この人に決めよう。仕事や勉強はいつだってできるんだから。

……映画が始まること30分。

私は映画には集中できず、いまだにプロポーズ返事のタイミングを見計らっている。

不意に彼が私の方を向き、抱きしめてきた。

『あっ……』

いつもより、少し強い抱擁。そして、私の唇をこじ開け、彼の舌が口の中に入ってきた。

『んんッ……』

ほんの少し、ワインの酸味がする。私と彼の唾液が入り混じり、まるで甘美なジュースのようだ。

同時に、彼の手が私の“オンナの部分”をなぞり始める。

『ッ……!』

咄嗟に彼の手を拒んだ。

「沙耶……、俺だって男なんだよ」

耳元で、今まで聞いたことないような低い声が聞こえる。

『ここじゃ、イヤ……』

聞こえるか聞こえないかくらいの、搾り出すような声。

……数分後、私はベッドの上にいた。

彼が首から鎖骨、胸、腹と順にキスをしてくる。

そして、太ももから下腹部へ……

『あンっ!』

私のスリットをなぞるように、彼の舌先が上下に動く。

静かな空間に“ピチャピチャ”と淫猥な音だけが響く。

そして、彼の舌が何かを探すかのようにもっと奥深くまで……。

『恥ずかしい……』

まるで子供のように“イヤイヤ”と顔を左右に振りながら、止めてくれるよう懇願した。

彼の舌が抜かれたかと思ったら、今度は……私の突起した“芽”を優しく口に含む。

『んんっ!!』

ひときわ高い声が出た。

“ソコ”は“中”とはまた違った、刺すような感覚がある。そして、だんだんと痺れるような快感に変わってきて……私は彼を受け入れられる身体になった。

頭の中がチカチカする。

私も彼に奉仕してあげなくちゃいけないんだろうけど、まだ抵抗があってしたことがない。でも、今日は特別。少し頑張ってみよう。

私は左手を“彼自身”に添え、先端に口を当て徐々に包み込んでいく。

たどたどしい動きながらも、顔をスライドさせて先端を愛す。

舌先で彼の鈴口をなぞると、我慢していた彼の“切なさ”が滲んで糸を引く。

「……ん」

彼は声を上げないように、必死で堪えている。

「沙耶、良い?」

しばらくすると彼から、声が掛かった。

『うん、来て……』

チェストから避妊具を取り出すと、彼は自分自身にそれを被せる。私は軽く脚を開き、彼を受け入れる体勢で待つ。

これから、愛を育む“行為”が行われるのだ。

『あ……』

クチュという音とともに、彼自身が私の中に埋められ、少しずつ緩急の動きがつけられる……。

……

……

気持ちよく、ない――

私の上で、彼が一生懸命愛してくれている。私の身体を撫でながら。唇を重ねながら。

でも、感じない。悲しいくらいに、何も。

自分だけ時間が止まっているかのような感覚。何か異物が、私の中に入っては出ているような……。

「沙耶、大丈夫? 痛くない?」

彼もその異変に気づいた。

……痛いんじゃない。

感じないの。感じないのよ、真司さん。

『痛く“は”ないよ』

彼の動きが止まる。

――しまった。

彼と私の温度差が、急速に広がっていった。

乙女座 第2章 終


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【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。

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