アラサー独身女子2人の「結婚話」|12星座連載小説#21~乙女座3話~

文・脇田尚揮 — 2017.2.20
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第21話 ~乙女座-3~


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薄いカーテンの隙間から、白く黄色い光がチラチラ差し込んでくる。

まるで点滅しているかのように、太陽の光が私の顔を照らしては陰る。

『ううぅ……ん』

今、何時くらいだろう? 身体が動かない。いや……動きたくない。どうせ12時を過ぎた頃だろう。まだゆっくりしていたい。もう一眠りしようかな。

……あ

真司さんに、まだ返信してない……。

はあぁ。恋人への連絡が、これほどまでに面倒になったのはいつからだろう。

私だって、普通の女。彼から求められて嫌な気はしない。でも、彼のひたむきな気持ちが、今の私には少し重荷なのだ。

私は昔から気になることがあると、ぐっすり眠ることができない。

高校の修学旅行のときだって、宿題の提出期間のことが頭から離れず、ずっとマトモに睡眠をとることができなかった。本当は楽しいはずなのに、一つ気になることがあるだけで台無しになってしまうのだ。

『はぁ……』

こんなふうな目覚め方は、自分としても不本意。でも、気持ちを切り替えないと一日が勿体無い。今夜もまた、仕事が待っているのだから。

頭にかかったモヤを振り払うかのように、私はベットから立ち上がる。

彼への罪悪感からかスマホをあまり見ないようにしながら、支度を始める。時計を見ると……13時過ぎ。あと、5時間は自由時間だな。

今日は何をしよう―――

歯磨きをしながら、ボーッと考えていると……思い出した。

今日は幼馴染の千尋と会う約束だった。緊急病棟で働いていると、時間の感覚がなくなるから怖い。
ダメだな、約束を忘れそうになるなんて。確か……16時に新小岩での待ち合わせだったはず。

思い出すと、身体は自然に動く。決められたことに対しては、私は行動が早いのだ。

新小岩の駅に着くと、10分前にも関わらず、千尋が待っていた。あの子は昔からいつもそう。時間にキッチリな子なのだ。

私に気がついた千尋が、控えめに手を振ってくる。

「さあや~」

聞き慣れた懐かしい声。

私の名前は「さや」なのだが、何故か千尋は昔から「さあや」と呼んできた。
呼びやすいからというのが主な理由らしいが、私自身も「さあや」の方が何だかしっくりくる。……不思議と、何だか少し優しい気持ちになれる。

『千尋、お待たせ』

顔の筋肉が弛緩する。気の置けない友人と会うと、自分でも表情が柔らかくなるのが分かる。

今日もお決まりのコースの予感だ。

私たちは、どちらかが促すでもなく行きつけのカフェに入った。注文の流れも、だいたいいつも同じ。私がブラックコーヒーで千尋はミルクティー。

こういうのを“あ・うんの呼吸”というのかな。

千尋といると余計な気を遣わないで済むからホッとする。

中学校の頃からそうだった。メニューを横に片付けながら、一緒に生徒会で活動していたときのことを思い出した。

暑い夏の日、彼女が会長。私が書記だったっけな―――。

「ねぇ、鈴木さん。今度の中体連の代表挨拶、これでいいかな?」

『どれ、ちょっと見して』

千尋らしい、丁寧な、でも長ったらしい内容の挨拶文だった。

『悪いけど、これ、聞いてるみんな眠くなるよ』

「え~!」

あの時の千尋の顔ったら、まさに“鳩が豆鉄砲を食ったよう”だったな。

『挨拶なんて、短けりゃ短いほど良いのよ。みんな試合のことで頭がいっぱいなんだから聞いちゃいないんだし。どうせなら、短くて心に響くような挨拶で締めてみたら』

そう、この時から私と千尋の関係は続いている。

何事にも真面目で手抜きをしない千尋と、どこか冷めていて現実的な私は、ウマが合うのだ。

でも……30を過ぎて、どちらも独身というのは何だか情けなくもある。

……千尋は誰か特別な人、いるのかな。あんまり恋愛の話はしたことがないから、お互いそっち方面のことは知らないというのが正直なところだ。

「ねぇ、さあやは仕事の方、どんな感じ?」

『そうだね、とにかく忙しいよ。シフト制だけど、夜中から朝まで気が抜けないことが多いし。急患でバタバタすることもあるしね』

「そっかぁ、私は公務員だから、決まった時間働いて、決まった日にお休みを貰えるからなぁ。さあやの話を聞いてると、何だかすごく楽しちゃってるような気になるよ」

……嘘。

千尋は昔から人一倍努力家で、誰にも弱音を吐かずに黙々と頑張るってこと、私は知ってる。

高校で英語を教えてるだけって言うけれど、英語サークルの顧問をやったり、交換留学交流に力を入れたり、精力的に活動しているじゃない。

どうしてこの子は、いろんなことを自分ひとりで抱え込んで、平然な顔していられるかね。私はキャパオーバーしたら、すぐに顔に出るってのに。

「あっ、さあや、やれやれって顔してる~」

どうやら早速顔に出てしまったようだ。器用じゃないんだよなぁ。

「ねぇ、さあや、あの……さ」

『ん、どうした?』

「あの……、さあやは結婚とかって考えてる?」

千尋からの思いもかけない言葉に、私はコーヒーカップを口に運ぶ手が止まった。まさか、あのオクテな千尋が、こんな話題を振ってくるなんて。

少し小洒落たカフェで、アラサー女二人のちょっとクリティカルな話が始まりそうだ。

乙女座 第一章 終



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【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。

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