「自称モテる女」の夜|12星座連載小説#106~射手座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.27
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第106話 ~射手座-7~


前回までのお話はコチラ

ウェディングプランナー瀬名さんとの打ち合わせは、とてもスムーズに進んだ。なんせ、モノが良いもの。

私の仕入れた宝石は、女性に魔法をかけるのよ。みんな目をキラキラ輝かせながら、その美しさに引き込まれるわ。

瀬名さんにも満足して頂けたようで、後ほどまとめて注文をくれるとのことだった。これで、今日の仕事も終わり。

「ところで戸部さんは、このお仕事に携わってどれくらいなんですか?」

あら? 意外な質問ね。……ふふ、私が若いのにあまりに“目利きジュエラー”だから、気になったのかしら。

『そうですね~、22歳の頃からだから……6年くらいです』

あれ? 瀬名さんの顔色が少し曇ったような気がした。

私からも質問をする。

『瀬名さんはブライダルのお仕事、長いんですか?』

「私は5年ほどやらせてもらっています」

お、この人も意外と長いじゃない。そっかぁ、きっと何百組ものカップルの結婚式を見てきたんだろうなぁ。

ちょっと羨ましい。私も人の笑顔を見るのが好きだから。幸せなカップルを毎日のように見ることができるなんて、幸せな職業だわ。

結婚……かぁ、私もいつかはするんだろうけど。きっとこの瀬名さんは、もう結婚しているんだろうな。

―――ひと仕事終え、私は完全に調子にのっていた。つい仕事に関係のない、プライベートな質問までしてしまったのだ。

『瀬名さんは、もう結婚されてるんですか?』

この一言が、マズかった。

「アハハ、私、実はバツイチなんですよ~」

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口は笑っているけど、目が笑っていない。あっちゃ~、余計なこと聞いちゃった……。

ブライダルのお仕事をしているのに、バツイチだなんて格好がつかないもの。宝石商やってるのに、“イミテーション”を身につけているのと同じだもの。プライドを傷付けてしまったかもしれない……。

適当な世間話をして、早めに切り上げよう。

『それでは、ご連絡お待ちしています!』

瀬名さんに挨拶を済ませ、ロビーに戻る。なんとかやり過ごしたけど、あの“緊張感”絶対怒ってる……。

私は余計な一言を口にして、失敗することがよくある。“失言”っていうのかしら……。普通にコミュニケーションを取るつもりなのに、相手の“イタイ所”を突いてしまっていたりする。

そのせいか、「淳子は人の神経を逆なでする」とか「無神経過ぎる」なんて、女友達からは言われる。一方で、男からは「天真爛漫で可愛い」「淳子の楽天的なところに癒されるよ」なんて、褒められてきた。

『私って女に嫌われるタイプなのかしら……』

バス停まで道中で、あれこれ考える。私だって、普通に悩んだり傷ついたりすることあるんだから。

……ま、“モテる女”ってことよね!

あまり長いこと悩まないのが私のいいところ。

ズッシリと重たいキャリーケースを引きずりながら、バス停に到着する。

『はぁ~、疲れた』

仕事終わりにバスに乗るなんて、面倒くさいわ。誰か男に迎えにこさせようかしら……。この式場、高台にあるから行き帰りがホントに面倒。

クリスにLINEを送ってみる。

「ねぇ、ダーリン、私今、新宿にいるんだけど、もし良かったら迎えに来てくれたら嬉しいな♡」

―――既読にならない。

電話をかけてみるけど、これもまた出ない。

もう! ハニーが仕事で疲れてるんだから、出なさいよね!

……仕方がないから新宿駅までバスに乗る。このバスの揺れが、私は苦手なのよね。

でも、今日はかなり順調に仕事が進んだわね…。ガッポリ稼がせてもらったわ。

こんな日は、自分へ“ご褒美”をあげても、バチは当たらないわよね。

「お疲れ~! 今夜、出勤してる?」

LINEでホストの純に連絡してみる。疲れた後は、イケメン達とお酒を飲むのが一番の癒し。

しばらくバスに揺られていると……、純から返信がきた!

「連絡ありがとう! めっちゃ嬉しいよ♡ 今夜、俺出勤してるから、良ければ一緒に飲もうよ! 淳ちゃんならサービスしちゃうよ♡」

キラキラ絵文字にスタンプ。典型的なチャラ男ね。

チャラ~い!と思いながらも、イケメンだから許す! そ、顔がいいから許せることもあるのよ。

一度、帰宅してから遊びに行くとなると、少し遅くなるわね……。う~ん、新宿駅のロッカーに荷物入れて、メイクを直して、その足で歌舞伎町に繰り出すか。

「OK! じゃあ、1時間後に行くよ~」

純のLINEに返信する。こうやって、しっかり息抜きするからこそ、いい仕事ができるんだもん。

プシューという音とともに、バスのドアが開く。新宿駅のロータリーに到着。

バスを降りるとき、ふとスマホを見てみると、

「え~! マジ嬉しい! 俺も淳子ちゃんと飲みたかったんだよ♡」

と純からメッセージが入っていた。

フフ、可愛いヤツ。ロッカーにキャリーケースをしまい、メイクを直し、いそいそとATMでお金をおろす。

う~ん、キャッシュカードは限度額が決まっているからなぁ……。取り敢えず、50万円持っていれば大丈夫よね。

お気に入りの長財布に、厚みのあるお札を入れ、夜の歌舞伎町に繰り出した―――


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業
ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。


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