ヨーロッパ企画・上田誠&諏訪雅&永野宗典「25周年ですし、劇団員たちがワクワクする企画を」

2023.9.12
京都を拠点に、ユニークな設定とユルい会話で繰り広げられるコメディで人気を博すヨーロッパ企画が、劇団結成25周年を迎えた。今年6月公開の長編映画『リバー、流れないでよ』を自ら製作したり、劇団員が出演する実験的ドキュメントバラエティ『ヨーロッパ企画の暗い旅』の制作など、劇団ながら演劇の枠組みを超えて活動する彼ら。最新作の『切り裂かないけど攫いはするジャック』を前に、25年続く秘訣を旗揚げメンバーである上田誠さん、諏訪雅さん、永野宗典さんに伺った。
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――25周年を迎えた劇団の最新作は、19世紀にイギリスで起きた切り裂きジャックの事件がモチーフ。

上田誠:25周年ですし、劇団員たちがワクワクする企画をというのが使命感としてあり、今回はミステリーコメディでいこうと。ミステリーというと作家がトリックを構築するのが主流ですが、僕らは集団でものを作る劇団ですから、ジャックものならやれるかなと思ったのが最初で…。

諏訪雅:劇の中盤くらいには、ジャックが何者か明らかになりますよね。

永野宗典:いま稽古中盤ですけど、僕はこれからまだ見ぬ新しいジャックが出てくるのかなと思ってますけど?

上田:ミステリーって最後の謎解きに注目が集まるのが宿命ですけど、それが怖すぎて、本当は最初に「僕がジャックです」ってところから始めようと思ったくらいです(笑)。

永野:僕が警部の役なんですが、群像劇でみんなが勝手に推理しだすから、邪魔くさくて仕方ないです。

上田:「推理をするな!」っていう決め台詞が生まれたぐらいですから。

諏訪:でもみんながまくし立てるように自分の言いたいことを言ってるのって、まさにヨーロッパ企画って感じの群像劇になってると思う。

上田:ミステリーってある材料を最初にざっと出して、ロジックでそれを収れんさせていくものだけれど、演劇…というかコメディは、要素がどんどん出てきて場が散らかっていく様子が面白かったりする。それを両立させられないかというのが、今回の狙いでもあります。

――タイトルの絶妙なユルさも秀逸。

上田:演劇は結構作家主義ですけど、僕らはタイトルも合議制です。でも毎回超コメディらしいタイトルですから、発表するのに勇気がいるんです。演劇界で馬鹿にされないだろうかとか、もうちょっと文芸チックな方がカッコつくかなとか思いながら、ひたすら痩せ我慢してる感じ(笑)。

諏訪:僕らはつねに判断基準が面白いか面白くないか、ですからね。

永野:ふたりは関西人なんで笑いにむっちゃ厳しいんですよ。

上田:もともと僕も諏訪さんもお笑いに関して結構うるさい方なんで、どこかでダサい笑いはやりたくないっていう気持ちがあるんですよ。あと、演劇というと、伝えたいメッセージがあったり、感情のヒダを描くとか、現代社会を切り取るとかの目的が多いと思うんですけれど、僕らの場合、面白いことをやろうと集まっているっていうのが、ヨーロッパ企画の特性なのかなと思います。

諏訪:そもそも劇団名に劇団を付けなかったのは、演劇だけじゃなくいろいろなことできそうな気がしたからなんだよね。昔からみんな映像を撮るのが好きだったりもしたし。

上田:ただ演劇は好きなんで、せっかくなら“劇団”のイメージをもう少し広げられたら面白いですよね。

(写真上)うえだ・まこと 1979年11月4日生まれ、京都府出身。脚本を手がけるドラマ『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ、フジテレビ系)が10月10日より放送スタート。

(写真中)すわ・まさし 1976年8月26日生まれ、奈良県出身。俳優のかたわら、脚本・演出なども手がけており、作・演出舞台に『ガチでネバーエンディングなストーリぃ!』。

(写真下)ながの・むねのり 1978年2月17日生まれ、宮崎県出身。俳優のかたわら、映像監督や脚本なども手がける。出演近作にドラマ『スーパーのカゴの中身が気になる私』。

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ヨーロッパ企画第42回公演『切り裂かないけど攫いはするジャック』 9月20日(水)~10月8日(日) 東京・本多劇場 作・演出/上田誠 出演/石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、藤谷理子、金丸慎太郎、早織、藤松祥子、内田倭史、岡嶋秀昭 一般7000円 U25シート2500円(前売りのみ) 平日割一般6500円 サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(平日12:00~15:00) https://www.europe-kikaku.com/e42/ 滋賀、京都、高知、福岡、広島、大阪、神奈川、愛知、富山でも上演。

劇団結成25周年。四半世紀にわたり人気を継続し続けるヨーロッパ企画とは?

人気の理由1:ユニークな設定

押し入れ1間程度の超々狭小集合住宅に暮らす人々の工夫を凝らした日常を描いた『Windows5000』など、劇構造や設定のユニークさで魅せるのがヨーロッパ企画。「まだ世の中で劇になってないものを見つけて、どうしたら劇にしていけるかを考える」(上田さん)そうで“企画性コメディ”と呼ばれる。見たことのない世界を舞台上に具現化させる、凝った美術セットも興味深く見応えあり。「設定だけ聞くと、演劇として成立するの? と思うけれど、どう劇化するかを聞くと、毎回、それ面白そうって思えるんです」(諏訪さん)

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『遊星ブンボーグの接近』 地球に降り立った身長数cmの宇宙人たちが、デスクの上を旅し、巨大文房具と戯れる。普段見慣れたカッターナイフや消しゴムが、巨大化して劇場に置かれている状況からすでに楽しく、自分も小人になったような気分に。撮影:清水俊洋

人気の理由2:笑いのセンス

ヨーロッパ企画のコメディは、大爆笑というより、ユル~い会話の中から生まれる、ちょっとトボけたクスッとした笑いが特徴。じつはこれ、稽古場で上田さんが提示した設定で俳優たちがエチュード(即興劇)を繰り返し、その中で生まれたものが取り入れられている。「自分たちがやった場面だから、すでに笑いとして出来上がっている」(上田さん)ゆえのリアルさも絶妙。「設定はトリッキーだけど、誰もが感じるようなことを取り上げていて、そのへんのリアリティが多くの人に楽しんでもらえている理由かも」(永野さん)

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『来てけつかるべき新世界』 通天閣を擁する大阪・新世界を舞台にしたSF作品。狭い路地をドローンが行き交い、野良犬ならぬ野良のロボットがうろつき、売れないお笑い芸人がAIを相方にするなど、未来も新世界らしさは変わらずなところが面白い。撮影:清水俊洋

人気の理由3:個性あふれる劇団員

稽古場でのエチュードから生まれた笑いが作品に反映されていることは書いたけれど、その面白さも、リアルな生っぽい空気感がそのまま舞台上に再現されるからこそ。しかもそれを演じる面々は、どこにでもいそうなのに佇まいや風貌に、それぞれの個性が滲み出て、それが作品の面白さにも繋がっている。「僕は劇作の中身と同じくらい、作品を立ち上げる中で起きる実際のドラマを大事にしていますが、それは劇団員やスタッフに対しても同じ」(上田さん)。「その蓄積が、物語に生かされているんだと思います」(永野さん)

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『ムーミン』 世界的に有名なトーベ・ヤンソンの同名童話をモチーフに、谷で寝たり食べたり、ひたすら遊び暮らす男たちを描いた作品。設定はトリッキーながら、シンプルな劇構造だからこそ、出演者それぞれのキャラクターの面白さが生きた作品。

※『anan』2023年9月13日号より。写真・土佐麻理子 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)