坂口涼太郎、木ノ下歌舞伎『勧進帳』に出合い「自分の表現したいものが明確になった」
「歌舞伎は、梨園の方が代替わりしながら長く受け継がれていますよね。この現代版『勧進帳』も、100年後に古典と呼ばれるようになるまで続けるべき作品だと思っています」
そう話すのは、2016年から富樫を演じてきた坂口涼太郎さん。
「木ノ下歌舞伎は稽古序盤にキャスト全員で歌舞伎を完コピして、その後に現代語訳の稽古に入っていくんですが、稽古を重ねれば重ねるほど、これが現代に通じる話なんだと実感するんです。敵同士が関所というボーダーラインを挟み、暴力ではなく知性で応戦する話ですが、いつしかそれが国境だったり人種だったりジェンダーだったり、いろんな事柄に置き換えて見えてくるんです」
義経の家来の弁慶を米国人のリー5世さんが、義経をトランスジェンダーの高山のえみさんが演じている。
「今、世界で大きな戦争が起こっていますが、この作品では両者は言葉で戦い、殺し合いません。暴力に代わる一番の人間の武器は、理性や知性だと思っています。実際にはすごく難しいことだけれど、理想が描かれているからこそ、いつの時代にも誰の心にも響く。その理想の世界を叶えるには知性が必要で、その学校では教えてくれない部分を教えてくれるのが劇場だと思うから、僕は生きている限りやり続けたいなと」
この作品に出合う前と後で、俳優としての意識が大きく変わったとも。
「自分のやりたいこと、表現したいものが明確になりました。役を通すことで、自分とは違う環境や境遇で生きている人たちの気持ちが身に染みることがあって。僕は、毎日を必死に生きる市井の人が、日々慰められたり元気になれるような作品がやりたいんだと自覚できた。そんな作品に出合えたうえに、たくさんの方たちに喜んでもらえているなんて、嬉しいし幸せですよね」
映画『ちはやふる』や連続テレビ小説『らんまん』などの個性的な役柄で存在感を発揮している坂口さん。
「誰しも、こんな自分でいいのか、こんな感情になっていいのかと悩んだ経験があると思います。それを肯定してくれるのが、エンターテインメントの役割なんじゃないのかな」
木ノ下歌舞伎『勧進帳』 兄・源頼朝から追われる源義経とその一行は、奥州に落ち延びる途中、安宅の関に差し掛かる。関守・富樫の追及を逃れるため、家来の弁慶は一計を案じ、富樫に焼失した東大寺再建のための勧進だと伝えるが…。9月1日(金)~24日(日) 池袋・東京芸術劇場 シアターイースト 監修・補綴/木ノ下裕一 演出・美術/杉原邦生[KUNIO] 出演/リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉 一般5500円ほか(各種割引あり) 東京芸術劇場ボックスオフィス TEL:0570・010・296 www.geigeki.jp/performance/theater331 沖縄、長野、岡山、山口、茨城、京都公演あり。
さかぐち・りょうたろう 1990年8月15日生まれ、兵庫県出身。映画『ちはやふる』のヒョロ役などで注目される。現在、ドラマ『らんまん』(NHK)、『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系)に出演中。
シャツワンピース¥49,500(SHAREEF) パンツ¥18,000(room.13) サンダル¥29,700(AIVER) ネックレス¥440,000(SHINGO KUZUNO) 以上Sian PR TEL:03・6662・5525 その他はスタイリスト私物
※『anan』2023年9月6日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・東 正晃(Masaaki Azuma) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)