101歳の現役染色家・柚木沙弥郎の作品展。創作に影響を与えた“仲間”にもフォーカス

2023.9.5
今年で101歳を迎える今もなお、染色家として多くの作品を作り続ける柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)。染色家、工芸家、絵本作家とマルチに活躍し続けてきた彼の作品は、どれも愛らしい。そんな彼の創作を語る上で欠かせないのが、同時代を共に歩んできた仲間たちの存在。『柚木沙弥郎と仲間たち』では、柚木の染色作品を中心に、一緒に切磋琢磨してきた陶芸家・武内晴二郎や舩木研兒(ふなき・けんじ)、工芸家・鈴木繁男らの作品も展示。柚木の師である染色家・芹沢銈介(けいすけ)を中心に結成された染色家の団体「萌木会」の仲間たちも取り上げる。

仲間がいたから極められた、作る楽しみと生きる喜び。

東京帝国大学(現・東京大学)で美術史を学んだ柚木は、倉敷にある大原美術館の売店で目にした芹沢の型染カレンダーに感銘を受け、染色に関心を持つように。日本民藝館の創設者・柳宗悦(むねよし)の紹介で芹沢に弟子入りした柚木は、彼に勧められ静岡県由比の染物屋・正雪紺屋(しょうせつこうや)で住み込みの修業を始める。厳しい修業時代にも交流を重ねたのが陶芸家の武内だ。彼とは初対面の日から急速に親しくなり、生涯の友に。同じく陶芸家の舩木は島根県松江市にある布志名(ふじな)焼舩木窯の5代目で、柚木と親交を深めたひとり。英国の伝統的な技法に倣った舩木の動物文様の作品は、スポイトを使って描かれることでも有名。また柳宗悦唯一の内弟子であった工芸家の鈴木は、柚木に民藝の本意を伝え、それは柚木の創作に大きな影響を与えた。

誰にとっても想いを分かち合える仲間の存在は大きい。柚木はその後、師匠が主宰した「萌木会」の活動にも精力的に取り組むように。萌木会が制作した浴衣は「萌木浴衣」と呼ばれ広く支持を集めた。芹沢は当時人気を博していたテキスタイルデザインに負けるな、とメンバーを叱咤激励したとか。彼らはそんな固い結束力のチームでもあった。

そんな彼らが切磋琢磨して作り上げた作品は、どれも創作を楽しんでいる様子が伝わる名作ばかり。改めて「成長する人の陰に、いいライバルあり」は事実だと納得させられる。

切磋琢磨した仲間たちとの日々。

芹沢に弟子入りする契機となった型染カレンダーに、武内晴二郎や舩木研兒、鈴木繁男の作品も紹介。民藝作家の個性にも注目したい。

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《注染水玉文布》柚木沙弥郎 1950年代 510.0×91.0cm(部分)日本民藝館蔵

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《黄釉鳥文鉢》舩木研兒 1952年頃 11.5×40.0cm 日本民藝館蔵

生活を彩る柚木作品。

量産化できる注染という技法で作られた柚木の布は、洋服や帯だけでなく服地やカーテン、タペストリーなど様々な用途に用いられた。

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写真右
《型染爪文帯地》柚木沙弥郎 1991年(部分)日本民藝館蔵

写真左
《型染飾布「メキシコ人物」》柚木沙弥郎 1970年代(部分)日本民藝館蔵

協業で広まる、萌木会の活動。

師匠の芹沢が主宰した萌木会は個人ではできない幅広い仕事の場。カレンダーやカードなど布以外の制作も、萌木会として行った。

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《沖縄笠団扇文着物》芹沢銈介 1960年頃 日本民藝館蔵

柚木沙弥郎と仲間たち 日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール 東京都中央区日本橋2‐4‐1 9月6日(水)~25日(月)10時30分~19時30分(最終日は~18時。入場は閉場の30分前まで) 会期中無休 一般1200円ほか TEL:03・3211・4111(代)

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柚木沙弥郎 1922年東京生まれ。染色家。型染による染布、染絵などの作品を制作し、国内外で数多くの個展を開催。絵本の仕事や立体作品、グラフィックの仕事にも取り組む。女子美術大学名誉教授。2021毎日デザイン賞受賞。

※『anan』2023年9月6日号より。文・山田貴美子

(by anan編集部)