古典から現代文学まで…10代でデビューの作家・青羽悠と日比野コレコが影響を受けた小説

2023.8.8
昨今、さらに活気づいている文学界。若くして評価を受け、第一線の作家として書き続ける青羽悠さんと日比野コレコさん。“今”を生きながら、物語を紡ぎ続けるふたりが語り合う、物語を生み出すこと。そして、影響を受けてきたものを紹介します。
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青羽悠:日比野さんと僕は3歳違いですよね。僕が2000年生まれで、日比野さんが2003年生まれなので。

日比野コレコ:今、大学院生ですか?

青羽:そうです。歳は近いけれど、触れてきた文化は違うかも。僕は中高生の頃は現代小説ばかり読んでいたので、より広い文化を摂取するようになったのは大学に入ってからなんです。日比野さんのデビュー作の『ビューティフルからビューティフルへ』は、自分が触れてきた小説や音楽やいろんな文化を全部ぶち込んでいて、「かっけー!」って思った。

日比野:私は青羽さんの小説を読んで、めっちゃ客観的に自分を見ている人だなと思いました。私はあまり自分に対して客観的な見方ができていなくて。今の自分の小説は“自分まみれ”だと思う。もっと進化しなくちゃ駄目だなって。

青羽:そこは書いているものが僕はエンタメ系、日比野さんは純文学系という違いもあるかも。僕はもともと構造を作るタイプだけど、日比野さんみたいにもっと人間性を出さなきゃなと思っているところです。でも『ビューティフル~』も、ちゃんと構造と展開がありますよね。3人の主要人物がいて、それが入れ子のようになっていて、最後に「そういうことだったのね」というものも提示される。

――おふたりはどういう作品に影響を受けたのでしょう。

日比野:現代文学が好きですか。

青羽:僕はエンタメを読んできたんです。最初に「小説って面白いな」と思ったのは伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』で、構造も言葉も好きでした。次に衝撃を受けたのが東山彰良さんの『流』。そのふたつが高校時代強く心に残ったかな。大学に入ってからはもう少し広がって、ジョン・アーヴィングの『ホテル・ニューハンプシャー』の、出会いにしろ別れにしろ日常で僕らが劇的に感じるものを煮詰めることで現実を超えるところが、めちゃくちゃいいなと思ったりして。そのあたりから構造以外のところにも目がいくようになりました。去年読んだ本では町屋良平さんの『ほんのこども』がすごく良かった。「小説は本当の嘘だから本当に似るけれど、現実は嘘の本当だから本当じゃない」みたいなことを言っていて、そうだよなと思って。

日比野:私も現代文学は読むんです。乗代雄介さんとか。でも今まで積み上げられてきた古典の文学がめっちゃあるから、それを先に読まないと、って思ってしまうんです。

青羽:分かる。僕は小説の形は出尽くしていて、今の時代の自分たちはそれを改良していくことしかできないんだろうなとは思ってる。そこは意見が分かれるかもしれないけれど…。

日比野:確かに出尽くしているけれど、それでも私は新しいものがないとは思ってなくて。

青羽:文体の発明は増えているのかな。島口大樹さんの『遠い指先が触れて』の三人称がぐるぐる混ざっていく感じはあんまり見たことなかったし。日比野さんが好きな古典ってなんですか。

日比野:フリオ・コルタサルの『石蹴り遊び』、アンドレ・ブルトンの『ナジャ』、ジョルジュ・バタイユの『空の青み』、ヘンリー・ミラーの『北回帰線』。それに最近加わったのが、ハインリヒ・ベルの『道化師の告白』、ジョイス・マンスールの『充ち足りた死者たち』。詩だと『ルバイヤート』とか。

青羽:『ルバイヤート』はそれこそ古典だ(笑)。読書遍歴が分厚いなあ。

日比野:分厚くないですよ。図書館で面白そうなものを選んでいるだけで、体系的な知識もないし。

青羽:いま挙がった本は何か共通点があるわけではなく?

日比野:ただただ好きな作品です。でもどれも言葉が好き。私は小説の構造を読み解くのはあまり得意じゃなくて、言葉に惹かれる部分が大きいんです。友達と小説について話していても、「誰々が死んだ場面でさー」と言われてもいまいちピンとこなくて、「何々って比喩があったところ」と言われたほうが分かる。

青羽:言葉や表現単体で「いい」と思うのか、それとも、その言葉にたどり着くまでの文脈も含めて「いい」と思うのか。

日比野:ものによるかも。詩とか小説だと文脈でも読むし、短歌とか俳句とか都々逸とか川柳とか広告コピーやったら、その言葉一つで見ることが多いし。

青羽:僕は段落とかの単位で読んで、そこに滲む熱量を感じたいのかも。そういう読み方をしていると、書き手が明らかにゾーンに入っているエリアがあるのが分かる。僕も自分の小説に意図的にそういうエリアを入れようとしています。

日比野:私もそういうエリアを広げようと頑張ってます。

青羽:『ビューティフル~』はまさに冒頭からそうだった。主要人物たちがどういうキャラクターか提示されてないのに、ぐんぐん読めたのは、熱量があったから。

青羽さんの新作『幾千年の声を聞く』

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千年単位で人々の営みを描いた力作。
舞台は巨大な〈木〉がそびえる伝説の土地。村の少女、学者、旅人など章ごとに主人公が替わり、また、章が進むたびに数百年単位で時が進み、宗教の誕生、科学の進歩、他国との争いや政治的混乱が描かれていく。やがて、〈木〉にまつわる、驚くべき真実が明かされて…。一人一人の人生の物語を浮かび上がらせながら、文明の興亡を俯瞰する大作。

日比野さんの新作『ビューティフルからビューティフルへ』

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言葉の力で絶望を希望に変える3人の高校生。
学校で自分を偽りながら受験勉強に精を出すナナ、ナナとは別の学校に通う恋愛体質の静、静の同級生で、反骨精神を内に秘めたビルE。日常に息苦しさを抱える3人が、ひょんなことから「ことばぁ」と呼んでいる老婦人の家に通い、奇妙な宿題を出されては提出するように。言葉を自在に操りはじけさせ、独自の世界を広げた一作。

あおば・ゆう(写真右) 2000年生まれ。高校在学中の’16年、『星に願いを、そして手を。』で第29回小説すばる新人賞を歴代最年少で受賞。他の著作に『凪に溺れる』『青く滲んだ月の行方』『幾千年の声を聞く』。現在、京都大学大学院に在学。

ひびの・これこ(写真左) 2003年生まれ。’22年、高校在学中に書いた『ビューティフルからビューティフルへ』で第59回文藝賞を受賞。ペンネームは「日々是好日」をもじったもの。『文藝』2023年秋季号で第2作「モモ100%」を発表。現在、大学1年生。

※『anan』2023年8月9日号より。写真・仲尾知泰 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)