シスターフッド、LGBTQ、格差社会…今の時代を知る“ドラマ”5選

2021.1.7
社会問題や新しい価値観など、時代の声を知りたいときには、親切で等身大に自分ごと化しやすいエンタメに触れるのがぴったり。エンタメ通のライター・小川知子さんに、まさに今の時代性に気づくきっかけとなる、チェック必須のドラマ作品をセレクトしていただきました。

フィクションだからこそ自分ごとに転換しやすい。

ジェンダー問題や多様性、ブラック・ライブズ・マターなど、世界的に大きなトピックとなっているこれらのキーワード。一人ひとりがよりよく生きるために、それぞれの本質を理解したい。そのための一助となるのがエンタメ作品。

「近年は単純に楽しめる娯楽作品の中にも、多様性や平等性といった社会的なテーマに目配せをしているものが主流となっています。こうした作品を観たり、読んだりすると、無意識の偏見や価値観の違いを自覚できる。自分の中の“当たり前”を壊すことが生きやすさにつながるかなと」(小川さん)

意識してみると、最近のエンタメには社会の大きな流れが反映されていることが多々。なかでも当事者の立場を察することができたり、自分との関連に気づけたりする作品を小川さんがセレクト。

「今回はフィクションから選びました。というのも、シビアな現実を見せるノンフィクションは、自分ごととして咀嚼しづらい場合も。一方フィクションは、ある意味、安全に、主人公の辛い状況を想像したり、おもんぱかったりすることができる。より自分だったら…と問いかけやすいと思います」

ハラスメントへの各人のスタンスがリアル!

『ザ・モーニングショー』…女性のエンパワーメント、シスターフッド

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朝の人気情報番組「ザ・モーニングショー」の男性アンカーが、セクハラで解雇されるところから物語が始まる。

「彼と組んでいた女性司会者・アレックスは、保身のために型破りな地方キャスター・ブラッドリーを担ぎ出し、女性2人の二枚看板で番組を仕切ろうとします。興味深いのは、#MeTooや男女平等に対する意識が、世代や立場によって違うという現実を見せていること。男性対女性という単純な図式でもない、多角的な視点から考えさせられます」。Apple TV+で配信中。
©Apple

国柄の違う女性同士、時に対立し、共闘する。

『エミリー、パリへ行く』…女性のエンパワーメント、多様性

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シカゴのマーケティング会社で働くエミリーは、パリの子会社へ出向することに。

「英語しか話せず押しの強いエミリーを、フランス人の女性上司は受け入れられずにいますが、それでも仕事で必要なときはお互いに協力し合うという関係。一方、クライアントが制作したあるCMをエミリーは性差別的と否定し、フランス人の同僚はセクシーだと肯定。対立しますが、どちらかが100%正しいというわけでもない。やや極端な文化摩擦を横目に、自分のスタンスを再認識できます」
Netflixオリジナルシリーズ『エミリー、パリへ行く』独占配信中

Z世代の性の揺らぎと、前時代的な価値観の狭間に。

『ユーフォリア/EUPHORIA』…多様性、ラベリング

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ソーシャルメディアが蔓延する、アメリカのティーンたちが抱える闇や、希望を求めてもがく姿が描かれる。主演は注目の若手女優・ゼンデイヤ。

「Z世代は、ジェンダー自認を完全な異性愛者と位置づけている人が約半数だそう。それほど性の揺らぎを当たり前としている自由な世代であっても、社会には“女性らしく”といったラベルがまだあるし、多様な在り方に対応するシステムも整っていない。その現実に苦しむ彼らの姿は、無自覚なラベリングを防ぐための戒めになる」
「BS10 スターチャンネル」で3月放送予定 ※インターネットTVでも視聴可能 ©2020 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

学歴がなくても成功できる! 今の時代の働き方の提示。

『スタートアップ:夢の扉』…キャリアデザイン、格差社会

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能力はあるものの、高卒を理由に正社員になれないソ・ダルミが、起業をしようと奮闘する。

「これまで韓国では学歴や家柄が就職に有利に働いてきましたが、映画『パラサイト』やBTSなど韓国のエンタメが世界を席巻しているように、実力があれば夢は叶うという風潮に変わってきている気も。このドラマもその一つ。しかも、視覚障害者に向けた画像認証システムの開発など、社会的な意義はあっても、ビジネスにならないとされてきた分野で成功しようとする姿に励まされます」
Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ:夢の扉』独占配信中

男子で描かれがちだった青春物語の女子版が登場。

『私の“初めて”日記』…LGBTQ、多様性

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高校1年生では車いす生活を送っていたインド系アメリカ人のデービー。2年生で再び歩けるようになり、イケてる男子とのロストバージンを目論むが…。

「ベースは王道の青春ラブコメディ。ただ、これまでと違うのは、主要キャストにアメリカ的な白人がいないこと。主役はインド系だし、親友はアジア系、もう一人もアフリカンアメリカンとメキシカンのミックスでレズビアン。キャラクターの背景から多様なんです。脱童貞の物語は多数あるけれど、移民二世の女性が主役なのは新鮮」
Netflixオリジナルシリーズ『私の“初めて”日記』独占配信中

キーワード

女性のエンパワーメント…女性が抑圧されることなく、自分の力を発揮すること。リーダーシップなど。

シスターフッド…女性同士の連帯を指す。姉妹的な絆もあれば、目的を同一とした共闘も含まれる。

多様性…性別、年齢、人種、ハンディキャップなど、さまざまな性質の人が存在すること。

ラベリング…人や物事に対して「こうだろう」と周囲がレッテルを貼り、決めつけること。

キャリアデザイン…自分の経験やスキル、性格などを考慮して、職業を主体的に設計すること。

格差社会…富裕層と貧困層の間で生じる経済や所得の差。近年は先進国の格差が問題に。

LGBTQ…セクシュアルマイノリティの総称のひとつ。LGBTQIA、LGBTQ+とも。

小川知子さん ライター。映画宣伝・配給会社、『ecocolo』 編集部を経てフリーに。現在は『GINZA』『花椿』などで執筆。共著に『みんなの恋愛映画100選』(オークラ出版)。

※『anan』2021年1月13日号より。取材、文・保手濱奈美

(by anan編集部)