仕事や結婚、何を優先するか…出版社で出会った女性3人の人生

2019.5.23
「ずっと女の一代記を書いてみたかったんです。一人の人ではなく、立場の違う3人の人生について書きたいなと思っていました」 窪美澄さんの話題の新作『トリニティ』は、1960年代に創刊された新雑誌編集部で出会う、3人の女性の人生を濃密に描く長編。
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50年前、出版社で出会った3人。生き方を模索した女性たちの物語。

「女性が生まれ育ちに関係なく、才能があれば働いていける時代の始まりが、‘60年代くらいからという気がします」

ただ、物語は現代から始まる。就職したが挫折した奈帆という若い女性が、祖母の知人で元ライターの登紀子から来し方を聞く。売れっ子だった登紀子、新雑誌の表紙挿画に大抜擢されたイラストレーターの妙子、編集部で雑務を担当したのち結婚退社した鈴子。出版社で出会った3人の人生がひもとかれていく。

「登紀子や妙子は当時活躍された実在の方と重なる部分もありますが、小説に書いた人生は私の創作です。鈴子はフィクションの人物で、女性は24歳までに結婚しろという風潮があった時代、専業主婦を選んだ人も登場させたかったんです」

鈴子が順調に家庭を築く一方、登紀子や妙子は忙殺されながらも仕事や恋や結婚、出産の何を選び優先するかという問題に直面する。

「妙子は全部手に入れたがる自分に罪悪感を抱いている。今の女性はそうした罪悪感は薄いかもしれませんが、周りを見ると35歳前後で出産する女性が多くて。ある程度仕事ができるようになるまで子育てする気になれない状況があると思う。自分の人生自分で選んでいるつもりでも、時代ごとの社会的な要因に左右されているなと感じます」

印象的なのはデモの場面。騒乱にまみれ、3人は男性たちへの不満を叫ぶ。「女を馬鹿にするな!」と。「編集者に“ここは女性たちの祝祭の夜にしてください”と言われて。私自身、今まで男性に馬鹿にされたといっぱい思い出して、かさぶたをめくられる気持ちでした(苦笑)」

登紀子たちの苦悩は、今もあまり変わらないのかもしれない。でも、「彼女たちは、その後の女性たちが生きていく線路を少し敷いたと思う。奈帆という現代の女性を登場させたのは、そのバトンは繋がっていくんだ、と書きたかったからです」

バトンはあなたにも渡されている。

『トリニティ』 ‘60年代に出版社で出会った鈴子、登紀子、妙子の3人。仕事、恋、結婚、子育て―欲しいものを求めてあがき、生き抜いた彼女たちの人生とは。新潮社 1700円

くぼ・みすみ 1965年生まれ。‘09年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞受賞。‘11年『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞、‘12年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞受賞。

※『anan』2019年5月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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