書名とは逆だけど…三浦しをんが“愛に溢れる”世界を描く

2018.11.26
ののとはなというふたりの女性の、約30年にわたる絆を書簡形式で綴った『ののはな通信』が5月に。そして9月は、『愛なき世界』が。2018年は、三浦しをんさんの傑作長編が2冊刊行され、ファンにとっては当たり年だ。
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『愛なき世界』は、植物学の研究にいそしむ女子院生・本村紗英と料理人見習いの青年・藤丸陽太が淡い交流を深めていく恋愛小説といえるが、読みどころは“恋愛”だけにあらず。

「東京大学大学院の塚谷裕一先生から『辞書作りが小説になるんだったら、きっと植物学の院生も小説になると思うんです』とお声がけをいただいたんです。研究室にお邪魔してみて感じたのは、先生や院生のみなさんの知りたい気持ちの強さです」

作中に、本村がシロイヌナズナの細胞を光らせ、それを藤丸が顕微鏡でのぞき込む場面がある。

「私も見せてもらったんですが、本当にキレイで宇宙みたいでした。ヒトも植物も同じ地球上でそれぞれが進化を遂げた結果、共通した仕組みも全然違うところも持っているけれど、同じように細胞は活動し、一生懸命生きている。そんな植物のことを彼らはもっと知りたいんだなとわかって、私はそんな彼らのことをもっと知りたくなったんです」

本村がのめり込む葉っぱの発生遺伝子を調べる実験には、塚谷教授ら研究室のみなさんが全面的にバックアップ。研究者の日常なども参考にしたそう。好きな研究に打ち込みすぎて、本村と藤丸の恋模様など見えていない院生像も何だか好もしい。

「でも、恋の空気に鈍感なのは、むしろ私なんですよ。周りは気がついているのに私だけわかっていなかったとか、よくあります(笑)」

タイトルは、植物が〈愛なき世界〉を生きていることに由来する。

「『植物には感情や思考がないのです』と言われたとき、はっとしたんですね。私たち人間はついつい人間の感覚に引き寄せて彼らの様子を解釈しようとしてしまうけれど、愛とか恋とか言わないと繁殖できない人間の方が、地球上では圧倒的少数派です。面白いのは、植物たちを研究している研究室の彼らは、めちゃめちゃ植物愛に溢れているということ。言葉で説明するならば、やはり世界は愛に溢れた場所だとしか言いようがないなぁと感じますね」

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『愛なき世界』青井秋さんの植物の挿画に、胞子や実験器具などが箔押しされた、うっとりするほど美しいカバーデザインにも注目! 中央公論新社 1600円

みうら・しをん 1976年、東京都生まれ。2006年、『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、’12年、『舟を編む』で本屋大賞、’15 年、『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。

※『anan』2018年11月28日号より。写真・土佐麻理子(三浦さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)


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