「俺たち、夫婦生活を送ってるんだよ…」|12星座連載小説#101~魚座8話~
【12星座 女たちの人生】第101話 ~魚座-8~

前回までのお話はコチラ。
「通信講座って……まぁ別にいいけど、占いの仕事はどうするの?」
『続けるつもりよ。もちろんシフトは減らさなくちゃいけないけど……』
「で、家事は?」
『家事もちゃんとするし、育児も……』
「それで心理の資格を取る、と」
『う~ん……』
「花、かなり厳しいと思うよ、それは」
ぴしゃりと言われてしまった。てっちゃんは、現実的だ。反論の余地がない。
「そもそもどうして心理の資格が欲しいの? 占い師としても結構人気出てきてるんだろ?」

―――私は、麗蘭先生から今日相談を受けたこと、占い師として漠然とした不安を抱えていること、そして、お客様の人生を預かるプレッシャーについて、夫に打ち明けた。
「言いたいことはわかるし、花の一生懸命さも分かる。でも……」
『でも?』
「身体はひとつしかない。独身なら何とかなるかもしれないけど、俺たち夫婦生活を送ってるんだよ。しかも子供も二人いるし、夢叶は来年小学校に上がるんだ」
『………』
「お客さんの人生も良いけどさ、まずは家族なんじゃないかな。……お金のことなら俺が稼ぐから心配するな」
返す言葉もない。
とことん正論。それがてっちゃんだ。この話はここで“おしまい”になった。
「ごちそうさま~」
「ごちそうさまぁ」
長輝と夢叶は満足してくれたらしく、ニコニコ顔だ。作った甲斐がある。
……家族、か。
私は今のままでも十分幸せだし、これで良いのかもしれない。この幸せが、私のワガママで壊れてしまうのは嫌だもん。
「洗い物は俺がやるから、お風呂入ってきたら?」
てっちゃんが、気を遣ってくれている。やっぱり優しい。
『ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。入らせてもらうね』
お風呂はちょうどいい湯加減。身体を洗って、ゆっくりと肩まで浸かる。
でも、何かいい方法はないものかしら。占い・家事・育児・資格取得をバランスよくできる方法。
ふぅ……。私って、欲張りだなぁ。

欲張り……欲張り……。
ん!
方法があるかも!
昔、ギリシアの数学者・アルキメデスがお風呂に入っている時、浮力の法則を発見して「エウレカ!(分かったぞ!)」と叫んで、裸で走り回ったように、私もバスタオル一枚で飛び出した。
『てっちゃん、てっちゃん!!』
「うわ! 何だよ! 裸じゃないか」
『私、分かったの! 仕事も家のことも両立させながら、勉強する時間を確保する方法!』
「ええっ?」
『電話鑑定を始めるの!』
「は?」
てっちゃんがポカーンとした顔で私を見ている。そりゃそうだ。てっちゃんは占いのことを全然知らないからな。
『えっとね、占いには直接お店でお客様を占う“対面鑑定”っていう方法以外に、電話で占う“電話鑑定”と、お悩みをもらって文章にして返す“メール鑑定”、あと“チャット鑑定”っていうのがあるのね』
「うん」
てっちゃんが反論せずに聞いてくれている。良い流れだ。
『それで、私はパソコン打つの遅いから、メールやチャットは無理だけど、電話鑑定ならやれると思って。そしたら、占いの館に行かなくても自宅でできるわ!』
「つまり、ずっと家にいていいってこと?」
『うん、実際そうすることもできると思う』
「しょっちゅう電話がかかってきたらどうすんの?」
『自分で決めた時間でスケジュールを組めるから大丈夫!』
「へぇ」
『実際に、自宅で主婦をしながら、月に30万円近く稼いでいる人もいるくらいだから、需要もあると思うし』
「なるほど」
『ね! これならいいでしょ?』
「そうだな……でもさ、それって“当たる”の? 相手の顔見えないんでしょ?」
ウッ……! 流石てっちゃん、痛いところを突いてくる。
確かに電話鑑定の場合、対面鑑定と違って圧倒的に情報量が少ない。相手の表情が見えない分、声のトーンや速度で相手の気持ちを判断しなくちゃいけないし、時間内に占いを終わらせないと、強制的に切れちゃうところもある。
―――だけど、基本は同じ。
お客様の声に耳を傾けてヒアリングすることから始まり、求めているものに対して占いの理論に基づいて的確に回答する、そこは変わらないわ。
『大丈夫。最初は勝手が違うと感じるだろうけど、基本は同じだから』
「わかった。花がそこまで言うなら良いよ。通信講座やってみなよ」
『わぁあ! てっちゃんありがとう! 大好き!』
愛する夫に思い切り抱きついて、タオルがはだけそうになる。
「おいおい、夢叶が見てるって!」
そんなことは、少しも気にならなかった。
明日、早速色々調べて資料を取り寄せよう。占い館に連絡して、電話占いサイトにも登録しなくちゃ。
その日の夜は、長輝と夢叶を早めに寝かしつけ、てっちゃんと二人甘い夜を過ごした―――
私だって占い師である前に、妻だし、女だもの。幸せに包まれながら、眠りに落ちた。
【今回の主役】
和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師
既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。
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