【欲望・誘惑・裏切り】悪魔に囚われた女|12星座連載小説#58~魚座4話~
【12星座 女たちの人生】第58話 ~魚座-4~

前回までのお話はコチラ。
『……うまくいくことを願っていますね』
「先生、有難うございます」
本日、3人目の鑑定が終わった。お客様が帰ったのを確認し、思い切り“伸び”をする。今日はみっちりスケジュールだけど、問題なくスムーズに終えられそうね。
「フレイア先生、お疲れ様でした」
受付の藤本さんだ。
「あとは、15時半に須藤様のご予約が入っていますね」
『はい、了解です』
須藤さん……。何とも言えない雰囲気、というか空気をまとった人……。
あれからどうしているだろう。
――前回の占いで“悪魔”のカードが出た時のことを少し思い返した。
彼女の太陽星座は“蠍座第2デーク”、月星座は牡牛座。とにかく様々なものを抱え込んで、我慢して我慢して誰にもそれを言えない人、といった印象。
アセンダントと併せて見ても、セクシュアルな容姿に、肉感のある肢体に恵まれる魅惑的な女性……。
だけど、それだけに男女のトラブルというか……、“業”のようなものを背負わされる宿命。夜の銀座で働いているというのも、納得できる。
彼女の相談内容は、「今の状況はどんな感じか?」という、至ってシンプルなものだったわ。何も情報がない中、ただそれだけ。
仕事は上手くいくし、恋も願えば手に入れることができる。少し婦人科系の病気が心配だけど大事には至らない、となかなか良い内容だったのに、彼女の周りを取りまく環境に“悪魔”のカードの正位置。

“悪魔”のカードは、山羊の顔をした悪魔が裸の男女2人を鎖で繋いで逃れられないようにしている、禍々しい見た目のカード。
人間の欲望や誘惑、堕落といった本性や心の闇、猜疑心、裏切りといった暗黒面を表す、まさしく業の深いカードね。
一時は、甘い蜜を吸うことができるかもしれないけど、このままだといずれ破綻してしまう……。
そんな暗示が出ているから、考えを改めて、負の鎖を解き放たないといけないのよ……。
私はあまりお客様に深く干渉しない主義だけど、何だかとても気になる女性。それが須藤さんだった。
……約束の時間まであと15分ね。お手洗いにでも行っておこうかしら。
席を立ち、トイレに移動する途中、麗蘭先生とすれ違った。
麗蘭先生は、有名な先生に師事し、手相や四柱推命を学び、横浜の中華街で何千人もの人をみてきた、まさにベテラン占い師ね。
聞くところによると、母方の祖父が台湾の血筋らしい。この“フォーチュン・ハウス”の看板占い師と言われている。
『お疲れ様です』
一言声を掛ける。
「お疲れ様」
すれ違ったとき、突然
「フレイア先生、この後……お時間ある?」
少しビックリした。麗蘭先生のような方が、こんな中堅占い師に何の用があるのだろう。
一瞬考えて、
『これから鑑定なので、それが終われば……』
「そう……じゃあ、5時に私も上がるから、もし時間があれば少しお話しない?」
ますますよく分からない。そもそも占い師同士が仲良くおしゃべりしている図なんて、あまり想像できないんだけど……。
でも、こんな機会、滅多にない。私の中で、好奇心の方が勝った。
『ええ、分かりました。そしたら、私も鑑定を終えたら様子を見てお声掛けしますね』
「有難う。じゃあ、お互い鑑定頑張りましょ」
彼女はニコッと微笑んで自分のブースに戻った。
う~む、何だったのだろう。ついOKしちゃったけど……。今日も夢叶のお迎えに行けなくなりそうだ………哲ちゃん、ゴメン!
そんなことを考えつつ、自分のブースに戻る。
さて、そろそろ鑑定の時間ね。深呼吸をして“占い師モード”に切り替える。
数分待っていると、
「お待ちしておりました。フレイア先生のご指名ですね。こちらへどうぞ」という、藤本さんの声が聞こえ、須藤さんが入ってきた。

「先生、こんにちは。昨夜はメールを有難うございました」
ミニマルシックなファッションにほぼノーメイクの状態。
サングラスを外して、少しはにかんで話す彼女。この姿だと、とても夜の仕事をしているようには見えない。
『いえいえ、とんでもないです。須藤さんが元気にしていらっしゃるか気になったものだから。今日はご予約有難うございます。』
「ちょっと落ち込んでいた時に、先生からご連絡を頂いたものだから……また先生にみて欲しくて」
『ええ、分かりました。では、今回はどのようなご相談内容ですか?』
一瞬、躊躇したようだけど……須藤さんの口から、彼女が今抱えている悩みが語られ始めた。
【今回の主役】
和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師
既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。
(C) Maksim Toome / Shutterstock
(C) Aila Images / Shutterstock