「欲」に流された哀れな女子アナ|12星座連載小説#89~双子座8話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.2
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第89話 ~双子座-8~

前回までのお話はコチラ


男に連れられ、ホールからロビーへ。廊下を進むと少し小さめの、でもしっかりとした作りのドアがある。

「どうぞ、こちらですよ江崎さん」

男がドアを開け、中に入るよう促す。大丈夫なのかしら……。

一瞬不安がよぎったが、“VIPルーム”という特別感と好奇心に負け、足を踏み入れる。

そこには、先ほどとは違う蠱惑的な空間が広がっていた―――

ホールの4分の1ほどの広さの部屋の床には、真っ赤なベルベットが敷かれ、バーカウンターと革張りソファが設置されていた。そこに座る男女数名の顔を、キャンドルがゆらゆらと照らしている。

そして、一番奥の壁がマジックミラーになっており、ホールの様子が手に取るように分かる。“あちら側”からは“こちら側”を見ることはできないが、その逆は可能、というわけね……。

「驚かれましたか?」

『え、ええ……』

「ここはね、私どもが厳選した、特別なお客様だけが入ることのできる空間なのです」

そう言えば、HPの料金項目に、プラチナ会員のさらに上「よりハイグレードな会員様のための特別プランもご用意しております」と記載してあったわ。これがそうなのかしら。

「お察しのとおりです」

私の顔を覗き込むように、その男は言った。

「大物タレントや政治家、プロダクション会社の社長といった、“一般のお客様”とは異なる方々がご利用できるのです」

なるほどなぁ……と思う。この社交パーティーが“会員制”で、“銀座”を拠点としている意味が私にも理解できた。

私がさっきまでいたあのホールは、この“ダイヤモンド会員”の人たちの“指名小屋”ということなのだ。

……悪趣味だけど、嫌いじゃないわ。

「ささ、江崎さん、あちらの席へどうぞ」

促されるまま、席に着く。横にはヒゲをたくわえたスーツ姿の男がニッコリと微笑みながら座っていた。眼鏡の奥は笑っていない。

男はそのまま奥へと消えていった。

私の直感が、“ヤバイ”と知らせてくる。

「やあ、こんばんは」

『……こんばんは』

「そんなに緊張しないで。僕があなたをこちらに招待させてもらったんだよ」

『そうでしたか、私のような者は場違いかと……』

「君は嘘が下手だね」

『えっ』

背中に冷たい汗が流れる。

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「本当は“私にこそ相応しい場所”だって思ってるでしょ? 僕は君みたいな女の子を何人も見てきたから分かるんだよ。そして、そういう子が好きなんだ」

まさに、“蛇に睨まれた蛙”状態だった。心の内を見透かされたようで、私は何も言えなかった。

この男は、これまで出会ってきた男たちとは何かが違う。物腰こそ柔らかいけど、こちらに選択権は何もないと言わんばかり威圧感を放っている。

「君のことは知ってるよ。若手女子アナとして頑張ってるよね」

『いえ、私なんてまだまだ』

「ほら。またウソをつく」

『あっ……』

グラスの中の氷が溶け、カラリという音が響いた。

「図星でしょ」

この男には、“私のやり方”が通じないんだ―――

「君は若手の中では、“自分が一番”だと思っている、そういう目だ。」

『……はい』

「素直で良いねぇ」

男の顔が少し明るくなる。

「だけど、そのステップアップのチャンスがまだ、ないんだろぅ? ……僕はね、君のような“ダイヤの原石”をほんのちょっと磨く力を持っているんだ」

――ッ

息を飲む。ゴクリと喉が鳴った音が、男にも聞こえたかもしれない。

「はっはっは、良いね、その顔。好きだよ」

この男は、一体何者なんだろう。“こちら側”に座っているところを見ると、ハッタリを言っているわけでもなさそうだ。

『あの……、どういったお仕事をされているんですか?』

質問した瞬間、男は瞳がぬるりと光らせ、笑顔で、

「君、余計な詮索はしない方が良いよ」

とだけ答えた。

ミスった……。

「僕のことは“ケイゴ”と呼んでくれたら良いよ」

『ケイゴさん、すみません。失礼なことを聞いてしまって……』

「あ、別に怒ってないからね。大丈夫。中年オヤジからのアドバイスさ」

一歩間違えれば、確実に業界から干される。えも言われぬ緊張感に、襲われる。

「ところでさ、江崎さん」

『……はい』

「この後、時間あるかな? 良ければ“二人きり”にならない?」

“二人きり”って……、“そういうこと”よね。この返答次第で、私の運命が変わる。

義久さん、ごめんなさい。
あなたが返信をくれてたら、私はここへは来なかった。
あなたが悪いのよ。……でもごめんなさい。

『ええ、良ければご一緒させてください』

ケイゴさんは、何も言わず口元に微笑みをたたえ、席を立った。私も彼の後について行く。

もはや、私に選択権はなかった。

―――それから朝まで、私がスマホを確認することはなかった。

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【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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