【12星座連載小説~双子座3話~】不倫の情事。男と女の逢瀬#6

文・脇田尚揮 — 2017.1.30
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第6話 ~双子座-3~


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食事の後、伝えられた番号の部屋へ。

彼が先、私はその少し後で。
別に初めてというわけではないけど……、いつもこの瞬間はドキドキする。
悪いことをしているという背徳感、二人だけの秘密を共有しているという高揚感が入り交じる。

不倫は相手の家族を傷付け、家庭を壊すと言うけれど、そもそも知られることがなければ別に悪いことでも何でもないわ。
泥沼の愛憎劇なんて私はゴメン。そう、慎重にやれば問題はないのだもの。

カードキーを使って部屋に入る。スーツを脱ぎネクタイを外し、シャツを第2ボタンまで開けた彼が、少し緊張した面持ちで立っていた。

「おかえり、ゆり。」

と、ニッコリ微笑んでくれた。

どうして「おかえり」なのか、一瞬よく分からなかったけど、なぜかその言葉にはホッとする響きがある。
まるで全てを許されているような、受け入れられているような、そんな気持ちに一瞬でなる。

こういうことを、自然に言うあたり義久さんは憎いわ……。

『ただい……』

言いかけた途中で、抱きしめられた。仕事で見せるのとは全く違う、“男”としての彼。多分、こんな彼を知っているのは、私と彼の……。

優越感と嫉妬がごちゃ混ぜになりつつ、でもどこか冷めている私はそのまま彼と唇を重ねた。ふと目を開けると、彼が一生懸命に私の唇を吸っている。
少し眉間にしわを寄せ、まぶたをしっかり閉じている。切れ長のまぶたからのぞくまつ毛が、ライトの光を反射し艶っぽい。

彼が私の身体をまさぐろうとする。

『ダメです。シャワーを浴びなくちゃ……イヤ』

「あっ、ああ、ごめんね。」

本当、子供みたい。でも、嫌いじゃない。愛おしい。

そのまま、私はシャワーを浴び、バスローブに着替えた。

『義久さんもどうぞ。』

「うん……ありがとう」

彼は悪いことをした後の子供のように、伏し目がちにシャワールームに入っていった。

私はピルを飲んでいる。もちろん避妊のためという意味合いもあるけど、一番は生理の痛みが和らぐから。
でも、ゴムをつけずにセックスできるなんて、男からしたらとても希少な存在みたい。発情期なの?ってくらいにしきりに私を求めてきた……、これまでの男たちは。

でも、義久さんは違ったのよね。私の身体のことを一番に考えてくれて、それが何だか私には新鮮で逆に恥ずかしかったなぁ。
まぁ、奥さん以外の女を妊娠させたら困るというのもあったのかもしれないけど。

お互いバスローブに身を包み、ベッドの上で横になる。ただヤリたいだけの男たちと違って、義久さんは余裕がある。私の髪を撫でてくれて、優しくキスをしてくれるわ。

私は自分の気持ちが分からなくなる。本当は恋に落ちているのに、それを認めたくないのかもしれない。分からない……。

『あっ……』

彼の指が私の身体をなぞる。こわばる気持ちがやわらいでいく。

「ゆり、好きだよ」

そうして私たちはお互いの身体を重ねた。

鈍い痛みから、だんだん痺れるような刺激に、そして快感に変わっていく。
自分が女性として求められている悦びを、このひと時は感じていたい。

『義久さん、来て……』

彼の動きが早くなっていく。頭の中に霧がかかったような曖昧な感覚。いろいろと考えるのも、疲れちゃった。私はこの人を手離したくない。

そうして、彼は私の中で果てた。

どうして射精した後の男性は、みんな子供のようになるのだろう。そんなことを考えながら、私は彼とまどろみの中に落ちていく――――


ピピピッ
ピピピッ

スマホのアラーム音が、頭の中で響く。二人の時間を引き裂く合図だ。

『この音、嫌い。』

本音が出た。

「ご、ごめん」

義久さんが慌ててアラームを止める。

『お帰りの時間ですね』

意地悪く言う。わざとではなく、本当に恨めしいの……。

「ゆり、一緒に過ごせて本当に幸せだったよ」

彼が顔を曇らせながら、支度を始める。

私は鬱陶しい女が嫌い。だから、引き止めるようなことはしないわ。何だか自分が惨めな気持ちになるもの。

バスローブを羽織り、髪をとかす。こういう時に女は、手持ち無沙汰でタバコを吸ったりするのね。あいにく私はスモーカーじゃないから、こうして髪をとかすフリをするのが精一杯。

「ゆり、また連絡するね。……送るよ」

スーツ姿の彼が、何とも言えない表情で立っている。ライトが暗いせいか、まるで陽炎……。

今からあなたは消えていくのね。

『義久さん、大丈夫です。私、ここでもう少しゆっくりしてから帰りますから。ほら、他の人に見られたら色々とマズイですし。義久さんは、朝の顔なんですから、ね。』

心にもないことを流暢にしゃべる女。我ながら嫌になる。

「うん……ごめんね。ゆりちゃんも早めに帰るんだよ。必ず連絡する」

私はニコリと微笑む。

そうして彼は部屋を出る直前に、もう一度だけ私の方を振り返り、そして去って行った。

『なんで、最後だけ“ゆりちゃん”なのよ……』

別に深い意味はないんだろうけど、彼の中で、“二人の時間”から“家族の時間”に切り替わったように感じられて私は少しだけ泣いた。

夜景が涙で滲んで、悲しいくらい綺麗だった。


双子座 第1章 終

次回、“第7話 「唯一無二の私だけのブランド。美しき女経営者の孤独」”は1月31日(火)配信予定。


【これまでのお話♡】
【牡羊座1話】チャンスを手にした「女ディレクター」
【牡羊座2話】今、明かされる私のキャリアの原点
【牡羊座3話】私を惑わせる…年下ダメ彼氏
【双子座1話】若きの女子アナの野望
【双子座2話】「完璧な男」との不倫に溺れ始める

【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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