私、上司と後輩にハメられた…!?|12星座連載小説#39~牡羊座6話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.17
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第39話 ~牡羊座-6~


前回までのお話はコチラ

『ええと……如月さん、だったっけ? 知ってると思うけど、今回、私は貧困女子の実態を明らかにするドキュメンタリーを制作するの。そこで、まずは取材のためにアポをとって、インタビューをしなくちゃいけないのね』

「はい~」

何だこの返事……。気が抜ける。今回の企画にこの三つ編みメガネが似合わなさすぎて、どうしていいか分からない。

でも、2週間後という締切がある以上、猫の手も借りたいというのがホンネだ。

何が何でも手伝ってもらうわよ。

『そういう訳で、私がつくったこのリストに片っ端から電話して、アポをとってくれる?』

さっき作ったリストを彼女に渡す。これくらいのことができなくちゃ、これ以降もついていけないでしょう。

「分かりました~」

彼女はリストをもとに、そそくさと電話をかけ始める。

……どう考えても心配だ。でも、私は私でやらなくちゃいけないことが山ほどある。任せるしかないわ。

インタビューのアポ取りは、セールスと同じ。断られてナンボ。特に今回のような取材内容だと、100件当たって1件OKしてくれれば良い方よ。

確実に心が折れるわね、あの子。厳しいこと言われるのに免疫なさそうだし。まぁ、お手並み拝見といきましょうか。

そうして、私はインタビュー内容をまとめ始める。今日の夜までには完成させて、木田さんに連絡しなくちゃ。

……時折、如月の焦った声が聞こえる。

手助けしないわよ。それはあなたの仕事なんだから。

デスクから窓の外を見てみると、夕陽がビルの谷間に沈み込んでいる。

『こりゃあ、今日は残業だな……』

大体のインタビュー内容は決まった。あとは、いかに相手を不愉快な気持ちにさせずに取材できるかだ。

三人くらいいてくれたら、番組としても助かるんだけど……。この短い期間にそんなには集まらないだろう。一人への密着になっちゃうかな。

『さて、と……』

私の方は、これであらかたOK。木田さんへの報告もあるし、そろそろ如月の様子が気になるな……声を掛けてみようか。

あの三つ編みメガネ、リストの半分も消化しきれていないはずよ。おそらくアポ設定もまだ0件なんじゃないかな。はあぁ……頭が痛いわ。

『如月さん、調子の方はどう?』

結果は分かっているけど、敢えて聞いてみる。男だらけのこの世界で生きていくには強くなくちゃいけないの。こうやって洗礼を受けながら一人前になっていくのよ。

「はいぃ、あと5件で終わりです~。現在、2件アポが確定していて、3件が保留となってます~」

なっ……! この子、あの数時間で200件近くのリストを捌いて、しかも“確定”まで決めたっていうの!?

彼女の手元のリストには、赤ペンでバツ印とコメントが丁寧にびっちりと書き込まれていた。

……やるじゃない! 単なる興味や好奇心からこの業界に飛び込んできたわけではなさそうね。いいわ! ADとしては合格ね。これなら安心して私のサブを任せられるわ!


意外だった。

人は見かけによらないものね。この一見要領が悪そうな三つ編みメガネっ子、とにかく実務能力が高い。

電話で手順通り相手方に取材依頼をお願いしながら、リストに詳細を書き込んでいく。それだけじゃない。押すべきところはキッチリ押して、引くとこは引く。そして、見極めの判断もかなりのもの。余計な時間を取られてない。

なにより電話しているとき、口では低姿勢だけど、悪びれた様子は全く感じさせないのが気に入ったわ。けっこう図太い神経してるわね、この子。

「よぉ、進んでっか?」

『うわあっ!』

……っ! 振り向くとそこには、木田さんが!!

「んだよ、そんなお化けでも見たような顔して。しっかりしてくれよ“竹内ディレクター”」

『あっ、すすすいません!』

慌てて自分のデスクの資料をまとめる。

「終わりましたぁ~」

間髪入れずに如月の終了コール。

い、いかん! 突然の木田さん登場に面食らっちゃったわ。ちと落ち着かんと……。

「どうだ、竹内? なかなかのモンだろ、こいつ?」

木田さんが親指で如月を指す。

「如月は某有名国立大を卒業してな、議員秘書を3年やってたんだぜ。秘書検定1級に、簿記、ビジネス実務法務取得の上に、マナー講座もあらかた受講してるスーパーADだ。おまけに茶道のお家元ときたもんだ」

ニタァと意地悪く笑う木田さん。その横で照れくさそうに如月が俯く。

なんなのよこの二人、ハメられた気分! うわ、木田さんのこの笑み……してやったり感満載。

しっかし、確かに頼りになるわ、この子。そういう背景があったのね。

『確かに、如月さんはとても優秀ですね。驚きました。ありがとうございます!』

「竹内ぃ、お前感謝しろよ~。俺が引っ張ってきたんだぜ。これ“貸しイチ”な」

横で三つ編みメガネがニコニコ。

「じゃぁ、この資料、目ぇ通しとくから、今日はこれで上がっていいぞ」

何、この負けた感じ! 何かちょっと屈辱! 何なの!?

『お疲れ様です……』

「おう、お疲れ~」

木田さんは、開いたドアの隙間に吸い込まれるように消えた。

何なのこの気持ち……何か、ヤダ。

「竹内先輩~? 他に何かできることありますかぁ?」

如月だ。うわっと、いかんいかん。

『あっ、ああ、そうね。じゃあ明日までにインタビュー内容に目を通して、今日確定した人たちのプロフィールをまとめてもらえる?』

「承知しましたぁ」

私も『キュートキッチュ』の中野さんにメールをしなくちゃいけないんだった。

呆けてる場合じゃないや!

やっぱり今日は残業だ。

―――祐也にメールすることすら、忘れていた。

牡羊座 第2章 終



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【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。
かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。

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