【12星座連載小説~獅子座1話~】美しき「女経営者」の孤独#7

文・脇田尚揮 — 2017.1.31
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第7話 ~獅子座-1~


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どこにでも通用する、唯一無二のブランドにしてみせる――――

ここからの景色はいつ見ても超一流。

レストランバーから見る夜景はサイコーだ。
うん、打ち合わせにはもってこいの夜だね。あぁ、早くお酒が飲みたい。

私が女性向け下着ブランドを立ち上げてから、今年でもう6年。初めは恥ずかしいくらい小さな規模からのスタートだった。それでも、いつか自分のブランド名を日本中に轟かせようと、躍起になって働いて今の地位を築いたんだよな。

そう、それこそ、こういうロケーションでビジネスの話をするのを目標にね。

今日はうちの会社の顧問税理士との、月一ミーティング。顧問契約を結ぶようになったなんて、私も偉くなったもんだ。

私は今、お台場の夜景を一望している。

東京というステージで戦い、勝利した者だけが味わえる至福のひと時。私はうっとり悦に入る。今宵は日々の喧騒を忘れ、勝利の美酒に酔いしれるのだ。

早く茂木センセ来ないかな。先に頼んじゃおうかな。

ん? 入口から歩いてくる男に見覚えがある。うーん、あれって……朝のニュースキャスターじゃない。
マスクをしてるけど、私の目はごまかせないよ。へー、連れている女はだいぶ若いわね。何だかワケアリって感じ。
ちょっと違和感のある美男美女カップル。ま、あんな小娘にはうちのブランドは5年は早いわ、おほほ。

私はいつだって自分の仕事に誇りとプライドを持ってやってきた。高飛車だと言われようが何と言われようが、自分の意に沿わないことは断固拒否するのが私スタイル。
それが今のブランド『アリアンロッド』を創ってきたんだもの。間違ってなかったってことだね。これからもこの路線で突っ走るっきゃないわ。

「黒木社長、遅くなってすいません」

お、きたきた。

『茂木センセ、待ちくたびれたわよ。先に頼んじゃおうかと思ったわ』

「いやぁ、申し訳ありません。前の仕事が押しておりまして」

何ていうか、真面目が服を着て歩いているみたいな人。タイプじゃないけど好感がもてるのよね、茂木ちゃんは。

『まぁまぁ、座って。ね、センセ、何飲む?』

「いや、私はお酒はちょっと……」

『なによ、ちょっとぐらいいいじゃないの。飲みなさいよ。あ、すいませーん!モエ2つ』

飲まない男は、つまんないじゃんねぇ。

「黒木社長、それで今期の決算についてなんですけど……」

『茂木センセ、私、先生を信頼してるから、全部お任せするわ。交際費についてだけ、こちらから出しておくわね』

「いや、そういう訳には……」

カタブツの茂木ちゃんをよそに、シャンパンが届いた!

『センセ、細かいことは任せておくわ。まぁ、飲みましょうよ。もうセンセとも3年のお付き合いなんだし』

そうして私は乾杯をした。

グッグッ……プハー

『あー美味し! センセも飲めばいいのに』

「いえ、私はこの後もあるので。」

『相変わらずつまんないわね』

ホント、つまんないの!

それから私はいつものお決まりの、“管巻きタイム”のはじまりだ。
自分でも良くないって分かってはいるんだけど、一生懸命頑張ってるんだから、誰かに褒めて欲しい。認めて欲しいんだ。
内輪には言えないんだから……、たまにはイイじゃない。

『でさ、茂木センセ、うちのブランド名の“アリアンロッド”ってね……』

『アリアンロッド』というブランド名は、学生時代に読んだ北欧神話の中に登場した女神からきている。

『彼女は魔法の杖に跨がされるの。処女でありながら。たまったもんじゃないね、実際。しかも、跨いだ瞬間に双子の男の子を産み落としちゃうから、さぁ大変。でも、処女でありながら次の世代を創っていけるなんて、考えようによっちゃあ凄くない? しかも、彼女すげー美人なのよ、これが。まぁ、いろんな禁忌やルールの中で、女性らしさを体現していった女神なのさ。そんな“アリアンロッド”のような、いつまでも強く美しく、そして、社会に縛られた女性たちを解放するための下着を作ろう!ってスタートしたのよ。』

「黒木社長、その話はもう13回目ですよ」

こいつ、覚えてんだ。へー。やるね。

「すみません、社長、そろそろ私、帰らないといけないもので……」

茂木ちゃんの資料はいつも完璧。次の日、ちょっと目を通すだけでウチの内情をほぼ把握できる。だから私は、この月1ミーティングでも、のんびり飲んでいられるんだ。

でも……、茂木ちゃんには会社の状況を報告して欲しいわけじゃなくて、愚痴を聞いて欲しいというのが、正直なところ。

『え~。もう一件行きましょうよ、センセ』

「いや、すみません。次回必ず埋め合わせしますので」

ちぇ、つまらん。そう言って彼は、私の分まで支払いを済ませ席を立った。

「それでは、失礼します」

私は軽く手を振った。

『はぁ~あ、男が欲しいなぁ』

そう言いながらも、仕事のことしか考えていないことを私は自覚している。他所では真似できない商品を、これからも作っていくんだ。

ただ、やっぱり……、話を聞いてくれる人が欲し~!!!

いつもこんな感じで、私のプライベートタイムはお終いなわけ。

次回、“第8話 「いつもの朝の風景と、そして…ハプニング!?」”は2月1日(水)配信予定。


【これまでのお話♡】
【牡羊座1話】チャンスを手にした「女ディレクター」
【牡羊座2話】今、明かされる私のキャリアの原点
【牡羊座3話】私を惑わせる…年下ダメ彼氏
【双子座1話】若きの女子アナの野望
【双子座2話】「完璧な男」との不倫に溺れ始める
【双子座3話】不倫の情事。男と女の逢瀬

【今回の主役】
黒木真利子 獅子座31歳 経営者
女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。

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