【キュレーターいちおし!】#4 村山留里子さん 展覧会「Nous ぬう」女性アーティスト紹介

文:高橋律子(金沢21世紀美術館) — 2016.9.20
金沢21世紀美術館のキュレーターであり、乙女カルチャー分析の第一人者、高橋律子さんによる女性アーティストと作品紹介です。現在開催している展覧会「コレクション展1 Nous ぬう」展への参加依頼やアーティストとのやりとり、作品への愛。高橋さんならではの視点が満載です!

【キュレーターいちおし!】vol. 4

「ぬう」展が始まった5月21日の前夜、作品の設置が終わり、誰もいない展示室でカメラマンの方に展示風景の撮影をしてもらいました。いつもなら展示室のなかで撮影をお願いするのですが、展示室の外から眺めていて、ふと目に飛び込んできた光景。

展示風景 photo : YAMANAKA Shintaro(Qsyum!)
展示風景
photo : YAMANAKA Shintaro(Qsyum!)

真っ白なはずの展示室の周辺がぼんやりとした闇に包まれていくにつれ、展示室のなかから発光するかのように、きらめく色たち。静寂のなかで、きらきらと瞬く音が聞こえてきそうなほど。こんなふうに作品との特別な時間を共有させてもらえるのが学芸員の特権だとしみじみ感じながら、この印象を留めておきたくて、最後に撮影をお願いしました。
みなさんにはご覧いただけない夜の風景だけれど、この村山留里子さんの«無題»という作品にはこんな静ひつな佇まいもあることをお伝えしたくて、「ぬう」展のウェブサイトには夜の写真をあげてもらいました。

というのも、この«無題»は、展示室に入ると「うわぁ」と思わず歓声をあげたくなるパワーのある作品。無数の小さな色の光がきらきらと輝くこの作品のサイズは8.6メートルというダイナミック・スケールです。

展示風景 村山留里子«無題»2005 photo : YAMANAKA Shintaro(Qsyum!)
展示風景
村山留里子«無題»2005
photo : YAMANAKA Shintaro(Qsyum!)

パッチワークといえばパッチワークなんだけれど、ここまでのスケール感と、本来パッチワークにはありえないで無秩序さ。この無秩序で自由な感じが心地よく、色彩のなかを漂っているような感覚になります。

そして反対側は、小さな布と布を縫いとめる、果てしない無数の白い糸の軌跡と、立ち上がってくる布端。

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村山留里子«無題»(部分)2005
Photo: NAKAMICHI Atsushi / Nacása & Partners

どちらが表ですか、とよくたずねられます。
縫い目が見えないほうを表として制作されてはいますが、圧倒的な手仕事の量を見せながらも軽やかで即興的なリズムを感じさせる裏側の魅力は表以上かも知れません。

村山留里子さんは、ご自身で布を染められ、その染められた布を引き裂き小さな布片として、そしてミシンで縫っています。染められた色はむらもあったはずなのだけれど、小さなひとつひとつの色片には色の濃淡は見えず、逆に作品全体にちりばめられた無数の色のバリエーションとなっています。薄いシルクの布は光を透過すると、ステンドグラスのように輝きだします。美しい色たちがぎゅうぎゅう詰めにされた作品。「美しい」の一線をはるかに超えてしまった「存在感」の塊に圧倒されます。

この作品に代表される「色」シリーズのほかに、村山さんは「奇麗の塊」シリーズも作られています。ビーズや羽やマリア像といった「奇麗」なものたちがびっしり敷き詰められた作品は、果てしなく「綺麗」なんだけれど、やはりその先にあるなんともいえない感覚が充満します。清々しさ、軽やかさ、濃密さ、怪しさ、忌々しさ、猥雑さ。矛盾するようでいて共存している感情と感覚の数々は、美しい女性の内側を覗き見ているかのようです。

村山留里子«愛のドレス»2004、高橋コレクション 撮影:広川智基、提供:山本現代
村山留里子«愛のドレス»2004、高橋コレクション
撮影:広川智基、提供:山本現代

先日、作品に再会するため、村山さんがご主人と「ぬう」展を見に来てくれました。この作品を前に、ご主人が「この人のやっていることは、布を裂いているんだけれど、つなぎとめることなんだよな」とぽそり。さすが本質をついている、と思いました。村山さんにお会いしたのは初めてだったのですが、まっすぐで明るく、感じていることを率直に語られる人柄がまた素敵でした。奇麗なものが放つ、美しさも楽しさも猥雑さも醜悪さもまるごと引き受けて、どこまでもつないでいく村山さん。村山さんの生き方そのものが作品になっているような、そんな気がしてきました。

作品はすべて©Ruriko MURAYAMA


Information

展覧会情報
金沢21世紀美術館「コレクション展1 Nous ぬう」
会期:2016年5月21日(土)〜9月25日(日)

金沢21世紀美術館