【キュレーターいちおし!】#1 沖潤子さん 展覧会「Nous ぬう」女性アーティスト紹介
【キュレーターいちおし!】vol. 1
今回から、いま開催している展覧会「コレクション展1 Nous ぬう」展のアーティストをご紹介いたします。「縫うこと」と「アート」をテーマにした展覧会で、女性アーティストばかりを集めました。小難しいことは抜きにして、ひたすら縫われている作品に圧倒されてください!
まずご紹介したいのは沖潤子さん。
『PUNK』という作品集にノックアウトされ、もう絶対出品してくださいとお願いしました。
何がすごいってその緻密で濃密な縫い目の軌跡。刺繍糸ではなく、ミシン糸で手縫いされています。
5ヶ月ほどかけて制作された«midnight»。縫い目が今にもうごめき出しそうな気配すら感じます。
そして、«つばめ»と«ひばり»。
アンティークのヴィクトリア・ジャッケットの両袖に刺繍されています。
鳥の羽のようだとつけられたタイトルですが、縫い留められて、はばたけそうではばたけない、もがいている翼のようにも見えてきます。
沖さんは元会社員のシングルマザー。商品企画の会社に勤められていましたが、なかなか企画が通らないこともあって、自分らしい表現がしたいと思っていました。
そんなとき、12歳のお嬢さんが、沖さんのお母さんの遺品の古いリバティプリントの布で手提げバッグを作りプレゼントしてくれました。大切に残してきた布が切られ縫われ作られたそのバッグの自由な表現に触発され、ふっきれた沖さん。遺品の布にどんどん自己流の刺繍を施すようになっていきます。それがすでに34歳。そして現在のような作品を作り始めるのがなんと46歳です。
沖さんが最初に始められたのは刺繍のネクタイ。ブランド名は世界一周の旅にもでたというおしゃれなおじいさんのアーティスト名「woky shoten」。サラリーマンの方々ももっとはみ出したネクタイで通勤電車に揺られてほしいと思ったそうです。
ネクタイから道を外れたネクタイたちの評判はたいへんよかったのですが、やはり自分の表現がしたいと、今の表現に行き着いた沖さん。渦巻き状につらなって終わることのない縫い目は、生きることそのものであるように感じます。
緊張感のある作品の印象とは違って、沖さんご自身はおっとりゆったりと語られるとてもかわいらしい方。着ていたワンピースの袖に刺繍があったのでお聞きすると、「昨日、眠れなかったから縫ったの」とのこと。自分らしい表現ってそんなところから始まるのかもしれません。そしてそのスタートは、30代だって、40代だって遅くはないんですね。
作品はすべて©OKI Junko
Information
展覧会情報
金沢21世紀美術館「コレクション展1 Nous ぬう」
会期:2016年5月21日(土)〜9月25日(日)
金沢21世紀美術館