池松壮亮「全部かわいい」佐藤浩市の息子・寛一郎に対する特別な想い

写真・幸喜ひかり 文・田嶋真理 ヘア・NORI TAKABAYASHI(YARD/寛一郎さん)ヘアメイク・ネモト(ヒトメ/池松さん) スタイリスト・坂上真一(白山事務所/寛一郎さん) — 2023.4.27 — Page 1/2
今回、ご紹介するのは、映画『せかいのおきく』。つらく厳しい現実にくじけそうになりながら、それでも心を通わせることを諦めない若者たちを描く青春物語です。主人公のおきくと偶然に出会い、下肥(しもごえ)買いの相方となる中次と矢亮を演じた、寛一郎さんと池松壮亮さんにお話をうかがいました。

「壮亮さんの演技を間近で見ることができて幸せでした」


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左から、寛一郎さん、池松壮亮さん


【イケメンで観るドラマ&映画】vol. 140

映画『せかいのおきく』の舞台は、日本が世界の大きな渦に飲み込まれていった江戸末期。

主人公は、寺子屋で子どもたちに読み書きを教えているおきく。彼女は、ある雨の日、厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次、下肥買いの矢亮と出会います。

武家育ちでありながら、今は貧乏長屋で質素な生活を送るおきくと、古紙や糞尿を売り買いする最下層の仕事、汚穢屋(おわいや)に就く中次と矢亮。

やがて心を通わせていく3人ですが、ある悲惨な出来事に巻き込まれたおきくは、喉を切られて声を失い、心を閉ざしてしまいます。

メガホンを取ったのは、日本映画界を長年にわたり牽引してきた阪本順治監督。監督 30 作目にして、初のオリジナル時代ものです。

とはいっても、髷姿の侍たちが斬り合うような活劇ではなく、社会の底辺を生き抜く庶民の若者たちを中心に、その恋や青春を軽やかに描いた、阪本監督の新境地と言える内容となっています。

主人公のおきくを卓越した演技力で高い評価を得ている黒木華さん、彼女と心を通わせる中次と矢亮を実力派俳優の寛一郎さんと池松壮亮さんがそれぞれ熱演。

さらに、眞木蔵人さん、佐藤浩市さん、石橋蓮司さんら、阪本作品に主演してきたベテラン俳優たちが長屋に集う人々に扮し、絶妙なアンサンブルを見せています。


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ーーこの作品に魅力を感じたところを教えてください。

寛一郎さん 日本人が本来持っている、資源を大切にする美徳を下肥を通して描くユニークな視点に惹かれました。そして、こういう方々がいたということを知っていただく良い機会になれば良いなと思いました。後日、壮亮さんが参加すると知ったときは嬉しかったですし、撮影がとても楽しみになりました。

池松さん 惹かれたところがたくさんあります。現在の日本映画界では難しい、モノクロで撮ると聞いたときは、ひとつ夢が叶ったようでものすごく嬉しかったです。あとは何よりコンセプトが素晴らしかったこと。自然との共生や循環をテーマに捉え、時代劇というフォーマットを使い、汚穢屋という貧困層を通して世界を見つめるという試みも素晴らしいと感じました。利益追求、資源をエネルギーや生活で消費し続けてきたこの世界へ、この映画がひとつの提案になると感じました。


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寛一郎さん


ーー役作りについて教えてください。

寛一郎さん 江戸時代と汚穢屋について、一通り調べました。ただ、彼らが持つ時代精神性のようなものは、本質的には現代を生きる僕らと変わりはないように感じて、自然体で演じました。

池松さん 寛と一緒に、何でもない日常を、情緒を転がしながら、貧しくも情けなくも、生き生きと演じていけたらいいなと思いました。

ーー映像美にあふれる本作の中で、おふたりが特に印象に残っているシーンは?

寛一郎さん 雪が降っているシーンです。3年前の冬に撮ったもので、美術担当の原田満生さん(本作では、企画とプロデューサーも兼任)がこれ以上ないほど美しい雪を降らしてくださり、雪映えしているなと思いました。

池松さん 冒頭の雨のシーンから、ぜんぶが好きですが、敢えて挙げるなら川を小舟で渡るシーンです。僕が本作に参加して、最初に撮ったのがこのシーンで、空と人と水があって流れているというシンプルなシーンですが、まるで水墨画のようで、あまりに美しくて好きです。


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池松壮亮さん


ーー本作に出演して、初めて知ったことはありますか?

池松さん 江戸時代に循環型社会が出来上がっていたことに驚きました。命を巡らせるということが生きるということとつながっていたのかなと。

寛一郎さん 汚穢屋について調べるうちに、どこの職業の糞尿が高いか、ということを知りました。当時の日本の循環型社会は、ヨーロッパの方々が驚くほど、完成されていたようです。

ーーおきくを演じた黒木華さんの印象はいかがでしたか?

池松さん 黒木さんは前半と後半で違った悲劇を背負うセンシティブな役で、大変だったと思います。現場では二度ぐらいしかご一緒していませんが、完成した本編を観て、黒木さん以外におきくを演じることができる方はいないと思いました。黒木さんご自身も楽しく撮影されている様子でした。この映画のおきくの眼差しが、観客との、せかいとの温かいつながりを作ってくれると感じました。

寛一郎さん 黒木さんはおきくをとてもチャーミングに演じていらっしゃいました。モノクロであれだけ着物が似合って絵になる方は、ほかにいないと思いました。


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ーー劇中、中次と矢亮として、軽妙なやり取りを繰り広げているおふたりですが、お互いの印象を教えてください。

寛一郎さん 僕が10代でまだ役者を始める前に、壮亮さんと初めてお会いしました。その後、お会いする機会があるたびに「調子はどう?」と聞いてくれて。壮亮さんの演技の素晴らしさは知っていたので、共演が決まったときは嬉しさと同時に緊張感も抱きました。

池松さん 僕は佐藤浩市(寛一郎さんの父親)さんとは共演回数が多く、いつもたくさんのことを教えてもらいながら育ってきたような感覚があるので、寛に対する想いはどうしても特別なものがあります。まるで親戚の子と共演しているような感覚です。

もともとの関係値を利用しながら、かけがえのないパートナーを愉快に作り上げていけたらいいなと思いました。ゴドー(劇作家サミュエル・ベケットによる戯曲『ゴドーを待ちながら』の登場人物。ふたりの浮浪者が、ゴドーという人物を待ち続ける物語)みたいになったらいいなと思っていました。

寛一郎さん そのことは壮亮さんが最初に言ってくれました。これはゴドーだと。壮亮さんはいで立ちから素晴らしくて、大きく柔らかく魅せる方だなと思っていました。だからこそ、役者としては怖さも感じましたが、壮亮さんの演技を間近で見ることができて幸せでしたし、楽しかったです。劇中、僕が壮亮さん演じる矢亮に呼びかける、“あにい”というセリフもしっくりきました。

ーーファンの方々は、ほかの作品では見ることのできない、おふたりの演技を堪能できますね。本日はありがとうございました。

インタビューのこぼれ話

寛一郎さんと池松壮亮さんにお互いの好きなところを聞くと、こんな答えが。「ぜんぶです。本当にピュアなんですよ。隠してますけど。朝、撮影に向かっているとき、隣でバナナを食べている姿もかわいかったです」(池松さん)。「僕はかわいくしているつもりはないのですが(笑)。壮亮さんの度量の深さは素晴らしいと思います。僕が自分の素を見せることができる数少ない方のひとりです」(寛一郎さん)。

Information


【メイン】せかいのおきく

映画『せかいのおきく』
2023 年 4 月 28 日(金)GW より、全国公開
脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
製作:FANTASIA Inc./YOIHI PROJECT
制作プロダクション:ACCA
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
©2023 FANTASIA
公式サイト:http://sekainookiku.jp/

写真・幸喜ひかり 文・田嶋真理  ヘア・NORI TAKABAYASHI(YARD/寛一郎さん)ヘアメイク・ネモト(ヒトメ/池松さん) スタイリスト・坂上真一(白山事務所/寛一郎さん)