志村 昌美

北村有起哉「やりたいじゃなくてやる。なりたいじゃなくてなる」目標を実現する秘訣

2022.12.14
映画やドラマにおいて人気の高いキャラクターのひとつと言えば、私立探偵。裏社会で躍動する姿には惚れ惚れしてしまうところですが、まもなく公開の注目作『終末の探偵』でも、誰もが魅了されること間違いなしの新たな主人公が登場しています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

北村有起哉さん

【映画、ときどき私】 vol. 541

本作で主演を務めているのは、幅広い役どころで数多くの話題作に出演している北村さん。劇中では、ギャンブルとお酒が好きで、女に弱くて情にもろい型破りな探偵・連城新次郎を演じています。今回は、役に込めた思いや男の色気とは何か、そして目標を達成するための秘訣について語っていただきました。

―まずは、出演が決まった際のお気持ちと役作りで意識したことを教えてください。

北村さん いままでいろんな役をやらせていただきましたが、探偵は初めてだったので、それだけでうれしかったです。ただ、どの時代にもいろんな国で探偵が主人公の作品はたくさんあるので、それをなぞることなく、令和の時代の探偵とはどんな人かを考えました。というのも、探偵というのは、その時代を映す鏡のような職業だと僕は思っているので。だから、探偵モノって滅びないというか、人気があって自由なんでしょうね。

―具体的に、いまの時代ならではの部分を表現するためにしたこともあったのでしょうか。

北村さん 男臭さみたいなものだけを先行するのではなく、仕方ないなとため息をついているような感じも出せたらいいなと考えました。そこで提案したのは、「もういいよ、こういうのは」という口癖です。

憂いながらも期待を持っているイメージで役を作った

―そのフレーズを選んだのはなぜですか?

北村さん いわゆる決めゼリフみたいなものですが、こういうぼんやりとした言葉のほうがいまの時代ではみんなに当てはまるんじゃないかなと思ったからです。それと、この言葉は憂いから思わず発してしまうものですが、その裏にはまだ願いが残っているんじゃないかなとも感じました。

というのも、人は諦めたら「もういいよ」という言葉すら言わなくなるものですから。そういったこともあって、連城は仕方ないなと思いながらも人とつながっていき、憂いながらも「もしかしたら光が差し込んで来るかも」と期待しているようなイメージにしました。

―なるほど。物語が進むにつれて傷だらけになっていきますが、それによって逆に色気が増していく様子はさすがだなと思いました。

北村さん ケガをして血が出て、痛みを伴うことでアドレナリンが出てくるので、それがそう見えるのかもしれないですね。連城というのは、決してケンカは強くないのに、「俺が悪かった」と相手が言うまで諦めないタイプ。ボロボロになりながらも相手のことを絶対に離さない厄介な人なので、一番嫌なタイプですよ(笑)。

ただ、僕としては、鮮やかでキレキレな動きをするよりも、そんなふうにしぶとくて、ずるい人物像のほうがやりやすいというのはありました。どんどんダメージを負いながらも、それでも目標に向かっていくほうがリアルな気がしています。

厳しさと優しさを同居させている人に色気を感じる

―北村さんが思う“男の色気”とは何ですか?

北村さん ベールに包まれているというか、私生活が見えなくて、何を考えているかわからないような人が持っているものじゃないかな。そういう人は、怒るのか泣くのか笑うのか、次にどういう表情をするのかわからないですからね。昔、ある現場にいたのが、「まさに顔面凶器」というようなものすごい怖い顔をした小道具のおじさん。でも、一緒に飲みに行ったら仕事中はつり目だった目が一気にたれ目になってて、「何なんだ、この人!」と驚いたことがありました。

でも、そんなふうに厳しい部分と優しい部分という2つを同居させている人は色気や深みがあるなと。あとは、何かを我慢しているような人も独特な雰囲気がありますよね。男の色気というのは女性だけが感じるものじゃなくて、同性からも慕われるような人にあるもの。俳優のなかでわかりやすい例を挙げると、佐藤浩市さんが圧倒的にそういうタイプですよね。同業者の後輩が憧れるような色気がありますが、本人はそんなことは意識していないですし、だからこそ素敵なんだと思います。

―確かにそうですね。とはいえ、北村さんもミステリアスな印象があり、普段の様子が見えないと思っている方は多いのではないかなと。

北村さん みなさんと一緒で、家ではいつも掃除機をかけたり、洗濯したりしていますし、子どもの幼稚園の送り迎えもしています。でも、洋服の畳み方が違うといつも怒られていますが(笑)。

大事なのは、遠くの目標と近くの目標を立てること

―それは意外な一面ですね。来年で俳優デビューから25年となりますが、キャリアを続けていくなかで、貫いてきたことはありますか?

北村さん 僕は、なるべく遠くの目標と近くの目標の両方を立てるようにしてきました。たとえば、10年後の自分と半年後の自分とそれぞれ2つの目標と立てたら、いまの自分を含めた3点を結びつけておく。そうすると、まず少し先の目標をクリアするために具体的に何をすればいいのかがわかってきます。

もちろん、ビジョンを打ち出すのは非常に面倒なことですが、それがあるかないかで分かれるので、これはどんな職業でも年齢や性別を問わずやってみたほうがいいことかなと。ビジョンなんてわからないと感じるかもしれないですけど、「かっこいい車に乗りたい」とか「結婚したい」とか「バリバリ仕事したい」とか、本当に何でもいいんですよ。

―まずは、自分のしたいことを明確にするということですね。

北村さん 夢みたいな目標でも、そのためにどうしようかと考えることが大事ですから。僕の場合は、「やりたいじゃなくてやる」「なりたいじゃなくてなる」と思ってやってきました。もちろん、そこに向かうのはしんどいですし、難しいです。でも、思うのは自分の自由というか、自分をどう追い込んで、どこまで解放できるかは、すべて自分の判断ですから。そんな感じで、いちいち立ち止まってやってきた気がしています。

転機を迎えるときというのは、だいたい自分のビジョン通りに行ったときなので、それができたらまた次を打ち出す、その繰り返しです。これから先はどんどんサバイバルになるので、息の長い役者になるために、「60歳でも現役でいる」とか「健康に気をつける」とか、そういうことを意識していこうかなと考えています。時間というのは意外とないものなので、20代のうちにどこまで自己投資できるかも大切なことかもしれません。

妻に笑顔でいてもらうための努力をしている

―ちなみに、ご自身が20代のときにしておいてよかったことは?

北村さん 仲間とのつながりはもちろんですが、人の意見を聞くなかで、ケンカもして、仲直りもするというのがあればあるほど素敵なことだと思います。最近はそれも面倒くさいとなっているかもしれませんが、やっぱりそういうのがあると面白い。いろんな出会いや別れを経験して、影響を受けたほうがいいんじゃないかな。

「絶対にコイツとは無理だ」と感じるくらいむかつくヤツがいてもいいんですよ。それによって、逆に自分のことがわかる場合もありますから。

―では、仕事がオフのときの楽しみ方についてもお聞かせください。

北村さん 好きなお酒を飲むことが多いですが、いまは子どもといる時間が一番ありがたいですね。こういう職業をしているせいか、昔から死生観について意識しているというのも大きいかもしれません。まだカウントダウンするには早いですが、「あとどのくらい時間が残っているのかな?」と考えると、子どもたちとの時間は限られているんだなと感じます。

僕は家庭を顧みないで飲み歩いたり、役者バカみたいなことをしたりするのかなと自分のことを思っていましたが、全然そんなことはなくて、意外と普通のお父さん。コロナ禍になる前から、仕事が終わったらまっすぐ家に帰っています。僕の父が忙しい人だったこともあり、父親との思い出がほとんどないので、僕はなるべく一緒にいてあげたいなと。あとは、少しでも妻には笑顔でいてほしいので、そのために努力してサポートしているつもりです。

いくつになっても必要なのは、ときめくこと

―素敵ですね。それでは最後に、ananwebを読む女性たちに向けてメッセージをお願いします。

北村さん 最近、ある女優さんとの雑談のなかで、「いい男の見分け方はありますか?」と聞かれたので、「いいなと思う人の友人関係を見てみたら?」とアドバイスをしました。どんな人とつるんでいるかで、その人がわかることもありますからね。それが読者のみなさんにも役立つかわかりませんが、とにかく臆することなくいろんな人と積極的に出会うことは大切だと思っています。

あとは、「ときめいていきましょう!」ということでしょうか。ときめきというのは、いくつになってもできることですし、真剣な恋だけじゃなくて、誰かのファンになるのでもいいですよね。そういう気持ちになるだけで健康にもなると言われているので、目がキラキラするようなことをたくさんしてほしいです。

インタビューを終えてみて……。

劇中ではアウトローな魅力全開でしたが、とても穏やかで優しい笑顔が印象的な北村さん。撮影時には20年以上前にこれからブレイクする俳優としてananで取材を受けた際、うれしくてがんばろうと思ったというエピソードまで聞かせてくださいました。本作では、ぜひ泥臭くて色気に溢れる北村さんのかっこよさにしびれてください。

型破りな魅力に、惚れずにはいられない!

昭和の匂いを漂わせながら、令和ならではの要素も加え、新たな探偵映画として誕生した本作。多くの人が生きづらさを抱え、閉塞感に包まれている現代だからこそ、見事なまでの暴れっぷりには誰もが虜となり、爽快感と共感を覚えるはずです。


写真・安田光優(北村有起哉) 取材、文・志村昌美
ヘアメイク・石邑麻由 スタイリスト:吉田幸弘
ジャケット¥31,900、パンツ¥15,400/ともにクラウデッド クローゼット(クラウデッド クローゼット 越谷レイクタウン店 048-930-7224)、インナー¥17,600/ディスティンクション メンズビギ(メンズビギ リミテッド 有楽町マルイ店 03-6738-3801)、その他スタイリスト私物

ストーリー

とある街に流れ着き、しがない探偵業を営んでいる一匹狼の中年男・連城新次郎。闇の賭博場で起こしたトラブルの代償として、顔なじみのヤクザである笠原組の幹部から事務所でボヤ騒ぎを起こした犯人を突き止めるように言われる。

そんななか、新たな依頼人として連城のもとを訪ねてきたのは、若い女性ガルシア・ミチコ。突然消息不明になった親友のクルド人女性を捜しているという。こうしてふたつの厄介な依頼を背負い込むことになった連城だが、行く先で次々と緊迫の事態が巻き起こることに……。

胸が高鳴る予告編はこちら!

作品情報

『終末の探偵』
12月16日(金)より、シネマート新宿ほかにて公開
配給:マグネタイズ
https://syumatsu-tantei.com/
©2022「終末の探偵」製作委員会