志村 昌美

イ・ドンウク、カン・ハヌルが恋に落ち…高級ホテルを舞台に描かれる14人のピュアな愛【映画】

2022.12.7
いよいよ今年も残すところ1か月を切りましたが、これから迎える最大のイベントといえばクリスマスと新年。楽しみな反面、恋愛に対して心残りがある人もいるのでは? そこで、あと1歩踏み出す勇気が出ない人にオススメの恋愛映画をご紹介します。

『ハッピーニューイヤー』

【映画、ときどき私】 vol. 538

クリスマスと新年を前に、ホリデームードに包まれている高級ホテル〈エムロス〉。そこにいたのは、男友達への告白を15年間もためらっているホテルのマネージャー、イケメンで優秀なのにちょっとクセのあるホテルのCEO、ミュージカル女優の夢に破れた新米のハウスキーパー、ビジネスウーマンとなった初恋の相手と40年ぶりに再会したドアマン。

そして、公務員試験に落ち続けたうえに恋人にもフラれた就活生、下積みを経てついにスターとなった人気アーティストとマネージャー、超スピード婚へと突き進もうとするラジオプロデューサーとピアニスト、ホテルのラウンジで毎週お見合いをする整形外科医、告白チャレンジゲームに巻き込まれた高校生カップルたちも次々とホテルにやって来る。ドタバタが繰り広げられるなか、あと数時間で彼らはハッピーな新年を迎えることができるのか……。

ハン・ジミンやイ・ドンウク、カン・ハヌル、少女時代のユナをはじめとする豪華なキャストが一挙に集結し、話題となっている本作。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

クァク・ジェヨン監督

『猟奇的な彼女』や『ラブストーリー』など、数々の恋愛映画を生み出してきたジェヨン監督。今回は、初の群像劇に挑戦し、同時に展開されるさまざまな恋愛の様子を描いています。ストーリーやキャラクターの構成におけるこだわりや人気俳優たちの素顔、そして恋愛において大事にしてほしいことなどについて語っていただきました。

―本作のきっかけは、弘兼憲史さんのコミック「黄昏流星群」を読んだことでもあるそうですが、どういったところに惹かれたのでしょうか。

監督 これまで私は若い人たちの恋愛を手掛けてきましたが、「黄昏流星群」では中高年の人たちの恋愛が描かれていたので、そんなふうに私自身の年代に合うような作品を作ってみたいと思うようになりました。特に、ある程度年齢を重ねたあとにもう一度経験する恋愛のなかでどんな風に愛情を感じるのか、といった点について研究してみたいと思ったのです。

いろんな事情があって「黄昏流星群」の映画化は叶いませんでしたが、ドアマンのサンギュとビジネスウーマンのキャサリンは登場人物のなかでも少し上の年代なので、「黄昏流星群」のことを頭に浮かべながら2人を描きました。

恋愛には、国境も年齢も関係ない

―本作にはとても幅広い年代の男女が登場しますが、キャラクターを設定するうえでこだわったことがあれば、教えてください。

監督 今回は、高校生から60代までさまざまなカップルが出てきますが、私は恋愛に国境がないのと同じように、年齢も関係ないと思っています。そういったことから、一番年上のカップルが高校生よりも子どもみたいにはしゃいで遊んでいる姿を見せることにしました。いろんな経験をしてきた2人には少年少女のような恋愛をしてほしいと思いましたし、いくつになっても誰でも恋愛できるということを表現したかったのです。

そのほかに、恋愛ではなく歌手とマネージャーという男同士の友情やカップルの周りにいる家族や友達、ホテルの人たちの物語も散りばめて構成しています。そんなふうに、キャラクターの年齢も状況もさまざまですが、今回意識したのは、ラブストーリーには付き物である性的な部分を排除すること。純粋に人を愛する姿を描きたかったので、気持ちだけでもハッピーな恋愛ができるのだという思いを込めてシナリオを書いています。実際、俳優たちにも「とにかくピュアな愛を表現してほしい」とお願いしました。

―その舞台に、新年を選んだのはなぜですか?

監督 新年を迎える前に解決できていないことがあると、少し怖い気持ちもあると思ったので、その点も描きたくてそのような設定にしました。誰もが希望に満ちた新年を迎えたいと考えるはずですから、解決できないことを一緒に悩んでくれる人や自分のことを気遣ってくれる人たちを見つけられるのが何よりも幸せなことなのではないかなと。新年を前にすべてを解決し、そして恋愛も叶えてほしいという思いで作りました。

イメージと実際が違う人もいておもしろかった

―そんな監督の思いを体現しているのは、豪華俳優の面々ですが、現場でのみなさんの様子を教えていただけたらと。まずは印象に残っている方はどなたですか?

監督 私がこれまで一緒に仕事をしたことがあったのは、イ・ジヌクさんとチョン・ジニョンさんの2人だけで、あとはみなさん初めての方ばかりでした。そのなかでも意外だったのは、イ・グァンスさん。テレビで見ているとすごくおもしろくて活発なイメージですが、実際は非常におとなしい方で、余計なことは一切言わず、自分が演じるマネージャーの役について本当に真剣に考えてくれました。

ただ、あまりにも何もしゃべらないので、思わず「無口なんですね」と言ったら「はい、そうなんですよ」と自分でも答えていたほど(笑)。でも、逆にそういうところがおもしろいと感じました。

―ほかにも、イメージと違った方はいらっしゃったのでしょうか。

監督 あとは、キャサリン役のイ・ヘヨンさんですね。彼女は強そうな印象がありましたし、役としても強烈なキャラクターでしたが、撮影の初日に「すごく緊張している」と携帯にメッセージが送られてきたのです。ただ、そういうところは見せないようにしていたのか、いざ演技が始まったらガラリと変わりましたが、いままで私が知っていた彼女の性格とは違う部分もあるのだなと驚きました。

相手役のチョン・ジニョンさんはほかの方より少し年齢が上で重厚感のある俳優ですが、みなさんを笑わせてくれるような方なので、とても親しみやすかったです。

―では、現場をリードしていた方はいらっしゃいましたか?

監督 姉御肌タイプなので現場を引っ張っていってくれたのは、ハン・ジミンさん。劇中のキャラクターもホテルのマネージャーでしたが、実際も同じような感じで立ち振る舞ってくれました。

―いろんなキャラクターが出てきますが、監督にとって思い入れのある登場人物といえば誰ですか?

監督 カン・ハヌルさんが演じたジェヨンは、自分と同じ名前なので、とても親しみを感じていました。しかも、ほかはみんなかっこよくてステキなキャラクターばかりなのに、彼だけが現実的で負け犬のような役どころ。それだけに、シナリオを書いているときから一番愛着を持っていました。ユナさんともお似合いのカップルでしたし、2人ともすごく上手に演じてくれたと思います。

観客の記憶に残るような楽しいシーンを作りたかった

―また、驚かされるようなこともありましたか?

監督 今回、ソ・ガンジュンさんには歌手の役を演じてもらいましたが、本当に多才な方なので、劇中で披露している曲は用意されていた歌詞をご自身で脚色して書いたものを歌っています。一生懸命練習してくれたおかげで歌唱力は歌手レベルでしたし、ダンスも非常にうまかったので、何をやらせてもうまくできる方なんだろうなと思いました。

あとは、高校生カップル役のチョ・ジュニョンさんウォン・ジアンさんは映画の出演は初めてだったにもかかわらず、萎縮することなくしっかりと演じてくれたので、私が監督デビューした80年代頃の若手とは違うんだなと。昔は、アフレコする前提で演じていたので、多少未熟なところもありましたが、最近の方は初めてでもうまいですよね。

―そして何と言っても、スペシャルゲストとして登場するクォン・サンウさんには、日本のファンもびっくりするのではないかなと。

監督 クォン・サンウさんが登場するシーンは、シナリオ上では「ホテルのレストランでセレブが食事をしている」くらいの描写しか当初はありませんでした。でも、みなさんがよく知っているクォン・サンウさんが出てきたらおもしろいんじゃないかなと。あとは、本作の製作会社が手掛けた別の作品に彼が出ていたことと、私が以前エグゼクティブプロデューサーを務めた中国の作品に出演されていたというご縁があったのでお願いをしました。

ただ、そこは絵コンテも何もなかったシーン。「できるだけ観客の記憶に残るような楽しくておもしろいシーンを作ろう」と2人で相談をして作り上げました。その結果、有名人であるにもかかわらず気づかれず、自分を知らない人がいることにすねて帰るという設定にしたのです。でも、彼に尋ねてみたところ、「実際の僕は違いますよ!」とは言っていました(笑)。

いまは世の中も恋愛の仕方も変わってきたと感じる

―そのシーンは、ぜひ注目ですね。また、本作を制作する過程では、日本の映画『マスカレード・ホテル』や『THE 有頂天ホテル』などもご覧になったそうですが、監督にとって日本映画とはどのような存在ですか?

監督 この作品を撮る前に、ホテルを題材にしている日本の映画を参考に観ましたが、あとで真似していると言われてしまうことがないように自分の映画との違いを確認する意味も込めて観ました。私は黒澤明監督をはじめとする有名な過去の作品はよく観てきましたが、それらは私が映画監督をするうえで素養を磨いてくれたもの。私にとって日本映画というのは、自分を映画監督にしてくれた大きな柱のひとつだと考えています。

―それでは最後に、恋愛映画を得意とする監督から恋愛に悩む日本の女性たちに向けて、いい恋愛をするためのアドバイスをお願いします。

監督 私の娘たちもなかなか恋愛がうまくいかないようで、彼女たちにすらいいアドバイスができずにいるところではありますが(笑)。でも、まずは積極的になることがやはり一番大事ではないでしょうか。実際、結婚をする前、私は妻に対してとても積極的でしたから。とはいえ、いまは昔と違って本当にいろんな出会いがありますし、自分の意志でいろんな選択ができる世の中になっていると思います。

今回のシナリオができたときに娘たちとも話し合いましたが、いまの世代は恋愛の仕方も変わってきたと感じました。ですから、私の考えをアドバイスとしてお話しするのではなく、映画を通してさまざまな恋愛の姿を見ていただき、「自分だったらこういうタイプの人が合うかな?」とか「ここは避けたほうがいいかな?」とか、そんなことを考えながら楽しんでいただけたらうれしいです。

今年最後の行動が来年の幸せにつながる!

恋愛において大事なのは、年齢や立場ではなく、自分の気持ちに素直になること。シンプルだけどつい忘れがちなことだけに、そんな気持ちを思い出させてくれるハッピーな1本を観て、最高の新年を迎える準備を整えてみては?


取材、文・志村昌美

幸せの予感が詰まった予告編はこちら!

作品情報

『ハッピーニューイヤー』
12月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/happynewyear/
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