田代 わこ

衝撃レベルの美しさ…! 日本が誇る金魚絵師、深堀隆介の超絶技巧アートが上野に集結

2021.11.28
生きているように見える金魚のアート作品を手がける現代美術家の深堀隆介さん。メディアでも数多く紹介され、その美しい作品を見たことがある人も多いと思います。そんな深堀作品約300点が、東京の美術館に集結。12月2日から上野の森美術館で、『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』がはじまります。今回、展覧会を直前に控えた深堀さんに取材を実施。アトリエにお邪魔し、さまざまなお話を伺ってきました!

金魚がいっぱい!

アトリエで飼われている金魚たち

【女子的アートナビ】vol. 226

今回の取材で訪れたのは、横浜にある深堀さんのアトリエ「金魚養画場」。まさに名前のとおり、金魚を養って描く場所で、生きている金魚がいっぱいいます! 深堀さんがご自身でエサをやったり水を替えたりしながら、大切に育てているそうです。

アトリエでは、いくつか作品も見せていただきました。こちらの画像、「生きた金魚」にしか見えませんが、“絵画”なのです! 詳しい技法は後ほど紹介しますが、はじめてご覧になった方はリアルさに驚かれると思います。

私も、かなりの至近距離で見せていただいたのですが、本物の金魚が泳いでいるようにしか見えず、鳥肌が立ちました。特に尾鰭の繊細さには目を見張るばかり。衝撃レベルの美しさです。

このような超絶技巧アートを手がけている深堀さんのご出身は、愛知県。1973年に生まれ、幼少期には日本一の金魚産地で知られる弥富市の金魚を見て育ったそうです。愛知県立芸術大学を卒業後、会社勤めを経てアーティストに転身。2000年から金魚をモチーフにしたアートを制作され、作品は国内だけでなく海外でも高く評価されています。

今回、深堀さんに作品制作の詳細や展覧会への思いについて、語っていただきました。

絵が動き出した…!

深堀隆介さん。後ろに見えるのは、深堀さんが描いた平面の金魚作品。

――深堀さんの作品は、本当に驚くほどリアルです。樹脂の上に少しずつ絵を描く独自の技法“2.5Dペインティング”(積層絵画)を使われているとのことですが、なぜ従来の絵画ではなく難しい技法にチャレンジされたのですか?

深堀さん 僕は平面でも描きますが、自分だけの技法が欲しいと思っていました。芸術の世界は群雄割拠しているので、自分の十八番のような芸がないと生き残れません。

実は以前、樹脂工房で働いていたことがあるので、役に立つかもと思い、余っていた樹脂を器に半分入れて固め、その上にアクリル絵具で絵を描いてみたのです。でも絵具が樹脂に溶けて、失敗すると思っていました。

一晩待ってみたところ、絵がきれいに残り、しかも水面ができていたのです。絵が自分の手を離れて水面の向こうに行ったようで、絵が動き出したような不思議な感じがしました。

アトリエの様子。手前には制作中の作品があります。

――水面ができたのがポイントなのですね?

深堀さん 平面であれば、金魚と自分が同じ世界にいるように感じます。でも水面ができたとたん、彼らは向こう側の違う世界に行くのです。金魚と僕の間に水面ができるのが重要なのです。

子どものころから魚釣りが好きだったのですが、なぜ魚が陸にくると死ぬのか不思議でした。水面を越えてくるから死ぬのです。逆に、人間は水の中では暮らせません。水面は生と死の境界線。水面の向こうの世界にずっと興味と畏怖の念がありました。この技法があれば、水面ができる。この中で、自分の描いた金魚を泳がすことができるのです。

死んだときだけ金魚を描く…!?

――アトリエでたくさんの金魚を育てていらっしゃいますが、この仔たちが作品のモデルになっているのですか?

深堀さん 僕の作品は、よく写実といわれていますが、そうではありません。僕の品種、心の中にいる金魚、脳内にいる架空の金魚を描いているのです。「こんな金魚が生まれました」という感じ。

最近、金魚を育てるブリーダーさんのなかに、僕の描いた金魚を品種改良でつくってみたいという人が出てきているんですよ。逆転現象です(笑)。絵が先で、そこから新しい金魚が生まれるかもしれません。

――では、育てている金魚たちは見ているだけなのですか?

深堀さん 死んだときだけ描きます。彼らを埋める前に姿を見させていただいて、その特徴を描く。デスノートと名付け、今回の展覧会でも展示しますが、どんな仔だったかという記録を残しています。

動いている金魚は、暮らしのなかで見て観察しているだけ。泳いでいる金魚を捕まえて描くのはかわいそうですよね。写真でもだめです。克明に描けるのは止まったときだから、死んだときしかないのです。

僕が描くのはフォトリアリズムではなく、あくまでも空想の理想の金魚。だから背びれがなかったりするので、「こんな金魚いない」といわれたこともあります。全部、自分が今まで飼ってきた金魚の集合体なのです。そんなふうに空想できるのが、写真やコンピューターに唯一人間が対抗できる能力だと思います。

――すごくリアルなのに、現実にはいない金魚。おもしろいです。

深堀さん 江戸の絵師たちも、想像しながら襖に虎や龍を描いていますよね。脳でビジョンが見えているから、あたかもそこに龍がいるように描けるのです。彼らの絵は泥臭くて、そんなにリアルではないかもしれないけど、龍が生き生きと魂をもっているように見える。それがおもしろいし、僕も魂が宿っているように描きたいのです。

昔、展覧会をやったとき、僕の作品のことを詳しく知らないお客さんから、「餌をあげなくていいんですか。口をパクパクしていたわよ」といわれたことがあります(笑)。「あれは絵ですよ」といったら「動いていたじゃない」と。

うれしかったですね。その人には動いて見えたのです。CGのようなものを使わなくても、人間には心の中で金魚を動かせる能力が備わっています。ほんの少しなら動いているように見える、僕のはそんな作品なのです。

なぜ金魚を描き続ける?

――深堀さんは、放置していた水槽で生き残っていた1匹の金魚の美しさに魅了され、金魚を描き始めたとのことで、この体験をご自身で「金魚救い」と呼ばれています。ずっと金魚だけを描き続けているのですか?

深堀さん 20年前に金魚を描き始めたときは、アーティストをやめようと悩んでいたころでした。祭りの金魚すくいでとってきて以来何年も一緒に過ごし、大きくなった金魚の背中を見ながら、この仔は自分みたいだなと思ったのです。

僕の金魚は、この水槽で一生を過ごし、誰とも会えない。当時、自分は部屋にこもって、もんもんと悩んでいたのですが、僕はこの仔と一緒で、まだ誰とも会っていないのではないか、と思ったのです。この仔から「自分の代わりにお前が行け。外はもっと広いぞ。海があるんだぞ」といわれたような感じがして、描き出したのです。

20年経って、ようやく描き続けている理由がわかりました。金魚のいる水面に自分の顔が映り、金魚の中に自分が見えたのです。だから、タイやヒラメではなく、金魚に執着して描き続けられたのです。今の自分を描けばいいのですから。自分自身を描くのは照れくさいので、金魚を使って自分を出しているのです。

地球と金魚鉢は一緒!?

――展覧会についてお尋ねします。『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』というタイトル、地球鉢というのがユニークですが、どのような思いがこめられているのですか。

深堀さん コロナだからこそ、この名前になりました。コロナのせいで人間は室内に押し込められ、外に出られなくなりました。小さな、目に見えないウイルスに翻弄されて、苦しめられている。

金魚を飼っていて、一番大事なのは水替えです。1週間に最低1回は取り替えないと水槽の水がよどみ、金魚は病気になり、死んでしまいます。

地球も水槽と一緒。地球の空気が汚れると、我々人間も免疫が弱まり病気になりやすくなるし、コロナのようなウイルスにも弱くなる。この地球を地球鉢と考えて、汚れた金魚鉢と同じ状況としたら、いろいろなことがわかってくると感じています。

人間がこのまま地球を汚し続けたら、自分の子どもたちの世代はもっとひどくなる。僕はずっと金魚を描いてきたので、コロナと金魚もつながるところがあったのです。

――私も金魚が好きなので展覧会が楽しみです。日本人は、なぜこんなに金魚が好きなのでしょうね。

深堀さん なぜ金魚に惹かれるのかは、深く掘るといろいろあると思います。中国では、どんどん品種改良をして金魚を変えていくのですが、日本はひとつの品種を大切に守っています。日本の金魚は、細かいところまで神経が行き届き、鱗の並び方とか泳ぎ方にまで審査基準があり、すごいのです。

でも、原点は金魚すくいかもしれませんね。あれは、ほかの国にはないらしいですよ。みんな、いい思い出になっているのだと思います。僕自身、最初に描いたのは金魚すくいの金魚でしたし、あの仔が僕の究極の金魚。僕を救ってくれましたから。今回のインスタレーションも、金魚すくいの屋台にしてあります。

――展示も楽しそうです。いろいろお話いただき、ありがとうございました。

深堀さん ananの読者さんに、今日の話が少しでも響いたらうれしいです。

インタビューを終えて…

言葉の端々に金魚愛があふれていた深堀さん。常に水面下にいる金魚たちを慈しみ、その水槽を取り囲む人間社会、地球の未来にも問題意識をもちながら、作品制作をされているようです。

深堀さんの熱い想いがこめられた作品は、日本だけでなく世界でも愛され、美しい金魚アートたちが地球のあちこちで泳いでいます。金魚に救われたという深堀さんが、アートの力で人の心を動かし、いつか地球の危機を救ってくれるかもしれません。

会場では金魚飴やおみくじも登場!

『深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」』では、樹脂を使った積層絵画(2.5Dペインティング)作品のほか、平面の絵画やインスタレーション、映像作品も展示。さらに、ミュージアムショップでは深堀さん描き下ろしの「金魚飴」やオリジナル金魚おみくじも登場します。

縁日みたいに楽しそうな展覧会、ぜひぜひ足を運んでみてくださいね!

(アトリエ写真撮影・提供:フジテレビ)

Information

会期    : 12月2日(木)~ 2022年1月31日(月)※休館日=12月31日(金)、1月1日(土)
会場    :上野の森美術館
開館時間  :10:00~17:00(入館は16:30まで)
観覧料   :
■前売券【一般】¥1,400【高校・大学生】¥1,100【小・中学生】¥600
■深堀隆介描き下ろし 金魚飴付き前売券
【一般】¥2,200【高校・大学生】¥1,900【小・中学生】¥1,400
■当日券【一般】¥1,600【高校・大学生】¥1,300【小・中学生】¥800

公式サイト: https://www.kingyobachi-tokyo.jp/index.html