志村 昌美

デヴィッド・ボウイの真実…成功の裏に抱えていた苦悩と家族との葛藤

2021.10.6
ロック界のスーパースターにして、稀代のアーティストでもあったデヴィッド・ボウイ。この世を去ってから5年が経ついまなお、多くの人の心で生き続け、各方面でさまざまな影響を与えています。そんななか、新たに誕生した映画『スターダスト』で描かれているのは、若き日のボウイ。そこで、こちらの方々に本作の見どころについて、お話をうかがってきました。

主演ジョニー・フリンさん & ガブリエル・レンジ監督

『スターダスト』メイキングより

【映画、ときどき私】 vol. 417

劇中でデヴィッド・ボウイを演じた俳優でミュージシャンのジョニーさん(写真・中央)と、ドキュメンタリー作品やTV映画を数多く手がけて高く評価されているレンジ監督(左)。今回は、ボウイの熱狂的なファンでもあるというおふたりに、ボウイの魅力や日本に対する印象について語っていただきました。

―まずは、デヴィッド・ボウイのファンになったきっかけから教えてください。

監督 10代の頃、多くの人たちと同じように彼の大ファンになり、そこからすべてのアルバムを聴くようになりました。最初は音楽から入りましたが、大人になってから興味を持ち始めたのは、ボウイの人間的な部分。特に、自分をつねに生まれ変わらせようとする姿には、心をつかまれましたね。

なかでも驚いたのは、あれだけ有名な人物であるにもかかわらず、彼の人生の初期段階についてはあまり知られていないところ。兄との関係や精神的な病を持ちやすい家系であること、病気に対する恐れを持ち続けていたことなど、ファンでも知らない方は多いのではないでしょうか。本作では、ボウイがたどっていたかもしれない悲劇的な影として兄の存在を描いていますが、そういった部分には、引き込まれるものがありました。

演じるうえで興味深かったのは、ボウイと家族との関係

デヴィッド・ボウイを演じたジョニー・フリン

―では、ジョニーさんがボウイに惹かれたのは、どのようなところですか?

ジョニーさん 監督が話したことと重なってしまうんですが、僕にとっても興味深かったのは、家族との関係。ボウイも70年代にはあまりそういったことは語っておらず、自らその話題に触れ始めたのは、90年代くらいからだったと思います。この映画のなかでも描かれているように、彼はメンタルヘルスに対する恐怖があまりにも強かったため、語ることすらできなかったのです。そういった彼の姿は、僕にとっては準備の段階で重要なカギのひとつでもありました。

当時は心の病には汚名を着せられている部分がありましたが、段々と理解をしようとする気持ちが世の中で高まってきているので、そういう意味ではいまの時代だからこそ響く物語になっていると感じています。

ボウイのことを神のように慕っている人は多いと思いますが、そういった人でもこれほどのもろさを持っていたというのを知れることは大事なことかなと。それが彼のモチベーションとなっていたからこそ、あれだけの美しい音楽やアートを作れたんでしょうし、だからこそ私たちの心を動かすんだと思います。

―なるほど。デヴィッド・ボウイといえば、親日家としても知られています。劇中でも装飾や衣装に日本の要素が垣間見れましたが、ボウイと日本との関係をどうご覧になりましたか?

ジョニーさん この作品のために監督とニューヨークで会ったとき、ちょうどボウイの展示会が開催されていたので、観に行ったことがありました。そこで目にした衣装から感じたのは、ボウイのなかに日本の影響がいかに色濃くあるかということ。彼は日本に対して本当に鋭い視点を持っていたんだと思います。僕はまだ訪れたことがありませんが、日本は行きたい場所のナンバーワンです。

映画にもボウイが受けた日本の影響は取り入れている

『スターダスト』のガブリエル・レンジ監督

―ありがとうございます! ちなみに、劇中では浴衣のようなものを羽織っていらっしゃいましたが、着てみていかがでしたか?

ジョニーさん ほかの衣装もすべて気に入っていましたが、なかでもあの衣装はすごく着心地がよくて解放感があったので大好きな1着でしたね。俳優という仕事がおもしろいと思うのは、服を着ることで他人の人生を経験することができるところ。今回も素晴らしいドレスから女性用のブラウス、ヒール、そして日本の衣装までいろいろな服を着ることができました。

それらを身につけているだけで、その人物が何をどう感じていたのかが肉体を通して感覚的に理解することができますからね。そういう意味でも、今回の衣装はどれも着るのが楽しいものばかりでした。

―監督は演出するうえで、意識していたことがあれば、教えてください。

監督 確かに、当時の彼は熱狂的に歌舞伎にハマっていたこともあるくらいですからね。日本からは大きな影響を受けていたと思います。それは今回の映画のなかにも、取り入れているので注目していただきたいです。

決められた物差しで自分を測らないのが魅力

―劇中で、記者が本人に「デヴィッド・ボウイとは何者か?」と聞くシーンが非常に印象的でした。では、おふたりにとってデヴィッド・ボウイとは何者ですか?

ジョニーさん おそらくボウイ自身も、この質問の答えはわからなかったんじゃないかなと思います。それくらいつねに自分を再生し続けていましたからね。あれほどまでに自分を見つめ、好奇心と探求心を持ち続けたアーティストは、ほかにはいないんじゃないかなと感じるほど。でも、そのおかげで私たちは彼からたくさんのレガシーをもらうことができたのです。

さらに、彼がすごいのは新しいものや自分をワクワクさせてくれるものにもつねに敏感であること。亡くなる直前まで、いろいろなタイプの音楽に挑戦していましたよね。そんなふうに、彼は決められた物差しで自分を測ることをしなかったので、「デヴィッド・ボウイとは何者か?」という質問に自分でも混乱してしまったんでしょうね。

でも、そのあとに「変化し続けることこそが自分である」と気がついたんじゃないかなと考えているところです。僕にとってもこの質問に答えるのは不可能ではありますが、だからこそ素晴らしい質問であるとも言えると思います。

監督 ジョニーがしっかりと答えてくれたので言うことはないけれど、唯一付け加えるとしたら、いまの問いに対する“謎”が少し明かされている部分こそがこの映画の見どころではないかなと。正直、この問いの答えを難しくさせているのは、何度も自分を変えている彼の生きざまそのもの。実際、彼はアルバムごとに新しいバージョンのデヴィッド・ボウイを発表していました。この作品では彼の“分身たち”が登場する前のデヴィッド・ボウイを描いていますが、それこそが何よりもおもしろいところだったと思います。

大スターの内面を多くの人に見てほしい

―最後に、日本で映画の公開を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

監督 劇中で描いているのは、みなさんが知っている曲が世に出る前、つまりボウイが有名になって名声を手に入れる前ですが、それは彼のキャリアにおいては重要なターニングポイントのひとつでもありました。僕にとっても、彼の人生における大きな一章を描けたことは本当におもしろいことだったと思います。

さまざまなマスクや人格を作り上げる前のボウイを見ることができる貴重なチャンスでもありますし、誰もが知る大スターの内面をとても親密に描いた映画に仕上がっているので、ぜひアイデンティティが確立する以前のボウイをみなさんにも見ていただきたいです。

インタビューを終えてみて……。

ひと言ひと言に、デヴィッド・ボウイに対する熱い思いが伝わってくるレンジ監督とジョニーさん。本作には、そんなおふたりの情熱も込められているのだと感じました。劇中では、ジョニーさんが自ら作った楽曲も披露されているので、こちらにも注目です。

華やかな舞台裏の孤独と苦悩に心が動かされる!

才能あふれる世界のトップスターとして、いまなお名をはせるデヴィッド・ボウイ。成功を手にするまでの苦悩や知られざる一面に触れることで、彼のアーティストとして、そして人間としての魅力をより深く感じることができるはずです。


取材、文・志村昌美

ストーリー

1971年、「世界を売った男」をリリースした24歳のデヴィッド・ボウイ。イギリスからアメリカヘ渡り、初の全米プロモーションツアーに挑もうとしていた。しかしこの旅で、自分が全く世間に知られていないこと、そして時代がまだ自分に追いついていないことを知るのだった。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやアンディ・ウォーホルとの刺激的な出会いがあるいっぽうで、つねに悩まされていたのは兄が抱える病。そして、いくつもの殻を破り、ついに彼は世界屈指のカルチャー・ アイコンとしての地位を確立する最初の一歩として、デヴィッド・ボウイの最も有名な別人格“ジギー・スターダスト”を生み出すきっかけとなった瞬間を迎えることに……。

惹きつけられる予告編はこちら!

作品情報

『スターダスト』
10月8日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:リージェンツ
http://davidbeforebowie.com/
©COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED. WILD WONDERLAND FILMS LLC
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