志村 昌美

柳楽優弥「心が落ち着き元気をもらえる。出会えてよかった」好きな人を告白

2021.3.2
ドイツで開催されたマンハイム・ハイデルベルク国際映画祭で二冠に輝いたのをはじめ、海外の映画祭で高く評価されている映画『ターコイズの空の下で』。今回は、日本・モンゴル・フランスによる合作としても注目を集めている本作の魅力について、こちらの方にお話をうかがってきました。

主演の柳楽優弥さん

【映画、ときどき私】 vol. 364

劇中では、裕福な家庭で自堕落な生活を送っていた青年タケシを演じた柳楽さん。本作は、タケシがモンゴル人男性アムラとともに、生き別れた祖父の娘をモンゴルの草原へと探しに行く旅を描いたロードムービーとなっています。そこで、モンゴルでの忘れられない思い出や30歳となったいまの心境などについて語っていただきました。

―まずは、モンゴルに到着したときの印象はいかがでしたか?

柳楽さん 最初に飛行機で5~6時間かけて首都のウランバートルに行ったんですが、そこから遊牧民の移動式住居であるゲルがある場所に行くまで車で9時間。まずはその移動時間の長さに、一番びっくりしてしまいました。こんなに遠いんだなと。

しかも、途中で運転手さんが砂漠で道に迷うこともあったのでかなり不安になりましたが、「あっちの木のほうかな?」みたいな感じでなんとか到着した感じでした(笑)。

―いきなり映画と同じような経験をされたんですね。撮影はどのように進められましたか?

柳楽さん 台本にはあまり詳しく書かれておらず、その場に合わせて即興的に変わっていくようなタイプの現場でした。20代はキャラクターっぽい役柄が多かったので、今回はいい意味で自分自身と向き合えるような作品だなと。そのなかで、自分の弱点に気づかされることもあったので、どうしたらもう少し理想に近づけるのかについて考えるように意識していました。

―今回は、どちらかというと事前に作り込めない役どころだったと思いますが、柳楽さんとしては演じやすいものでしたか?

柳楽さん 僕はガチガチに決まっているよりも、その場で演出していただけるほうが好きですね。デビュー作の『誰も知らない』がそういう演出で、それを最初に経験したからかもしれませんが。KENTARO監督もカメラの横からセリフや動きを指示してくださる方だったので、僕としてはすごく心地よかったです。

20代で築き上げてきたものや考え方を一旦置いて、10代の頃のいい感覚を思い出せたように感じました。自分が好きだったものを改めて振り返ることができる時間になったと思います。

この作品で前よりも少し大人になった

―モンゴルでの撮影を経て、ご自身で変化を感じる部分があれば教えてください。

柳楽さん 何週間も携帯をまったく使えない場所で自分と向き合うしかなかったので、新しい挑戦でしたね。いままでとは少し違う角度から物事が見れたこともあり、視野が広くなったような気がしています。なので、モンゴルに行ったあとは、前よりも少し大人になったかもしれません。

―今回は、ご自身にとって初の海外合作となりましたが、いかがでしたか?

柳楽さん とにかくモンゴルに行ってみたくて参加しました。キャストやスタッフが5か国くらいから集まっている現場は初めてでしたし、いろいろな言語が飛び交っていて興味深かったです。

監督が商業的な作品にしたくないとずっとおっしゃっていたので、僕も力まずに自然体でいることができました。最近は演技をしない感じを求められることはあまりなかったので、そういう意味でも楽しかったです。今回の現場で僕にとって一番大きかったのは、やっぱりKENTARO監督との出会いだと思います。

―その監督は柳楽さんのことを「ソルジャー」と呼んでいるのだとか。

柳楽さん そうなんですよ、監督は僕のことを「ソルジャー」とか「アニマル」とか言ってますね(笑)。監督は本当におもしろい方で、僕のツボにハマっているので、ぜひみなさんにも知っていただきたいです!

KENTARO監督は信頼できる大好きな人

―KENTARO監督は、海外育ちで4か国語を操る国際派俳優としても活躍されている方ですが、柳楽さんにとってはどんな存在ですか?

柳楽さん 頭がよくて、たくさん引き出しを持っていらっしゃる方なので、現場でもいろいろなこと教えていただきました。いまでは違う現場にいても、相談してしまうくらい頼りにしています。

この前も「恐怖心があるのは当たり前のことだよ。だから、現場に行くときは剣を持って行くんだ! その剣がズタボロになっても、血だらけになっても、立ち向かわないといけないんだよ」と熱いアドバイスをいただきました。そんな感じで励ましてくださるので、話をしていると心が落ち着きますし、元気をもらえます。

―いまでは作品を超えて相談できるお兄さんのような方なんですね。

柳楽さん これまで監督にそういうことを相談することはあまりありませんでしたが、KENTARO監督は俳優をされていることもあり、的確なことを言ってくださるので、本当に信頼しています。

嫌なものは嫌だとはっきりしていている方ですが、オープンでもあるので、今回の現場でもいろいろと話し合いをさせていただきました。リーダーとしても心強かったですし、尊敬もしていますが、とにかくおもしろいので大好きです。

―監督から影響を受けていることがあれば、教えてください。

柳楽さん 自分の意見をきちんというところや前向きなところは、見習いたいなと思っています。あとは、マメ知識がすごいんですよ。たとえば、乾杯するときに監督は目を見ないと絶対に嫌な人なんですが、昔のフランスでは割れないコップで乾杯をしていたので、強く乾杯してしずくを飛ばし、「お前は毒を入れてないよな?」と確認するために、お互いに目を合わせていたそうです。僕の目を見ながらフランス語で乾杯という意味の「サンテ!」を何度も言ってたのがおもしろくて……。

そういうたぐいの話をたくさんしてくださったり、ダライ・ラマからもらったオオカミの爪をお守りに持っていたり、とにかく謎だらけの人です(笑)。実は年齢も本名も知らないんですけど、あえて聞かないのもおもしろくなってきているので、本当に独特な関係性だと思います。

日本で当たり前のことも、当たり前ではないと知った

―(笑)。では、共演したモンゴルの俳優陣からも刺激をもらったことはありましたか?

柳楽さん 日本とは違うな、と感じることはたくさんありました。モンゴルの俳優たちは、セリフで説明するよりも、表情だけで感情を表現する演技をされる方が多いです。そういうところは僕も憧れる部分なので、学ばせていただきました。日本では当たり前と思う感覚も、当たり前ではないと知ることができたので、それは合作映画ならではだと思います。

そのほかに印象に残っているのは、みなさん体が大きくて、すぐにお相撲を取り始めること(笑)。あとはずっとウォッカを飲んでいることと、女性が強いことですね。今回共演したツェツゲ・ビャンバさんはモンゴルでは有名な女優さんですが、とにかく強くてかっこいいんです。僕がご飯屋さんで怖い人に絡まれていたとき、彼女が後ろからひと言発しただけで、体の大きな男たちが「すみません!」と言って、いなくなりましたから(笑)。

―すごいですね。旅を一緒に続けたアムラ役のアムラ・バルジンヤムさんは、ハリウッドに進出されている俳優でもあります。何かアドバイスをもらったこともありますか?

柳楽さん 彼は「この人に言えば何でも解決する」と言われているほどモンゴルの映画界を背負っている存在で、みんなから「兄貴」と慕われていました。僕はモンゴルの歴史や馬の乗り方を教えていただいたことが印象に残っています。

モンゴルでは絶対に負けたくないという気持ちが全面に出ている方が多くて、「ケンカの強い人が偉い」みたいな感じなので、そういうところもおもしろかったです。ただ、みなさん語学は堪能ですし、頭のいい方が多いので、勉強をすごくしているんだなと感じました。

―撮影中に衝撃を受けたことといえば?

柳楽さん バイクが爆発するシーンですね。本当に爆発させているので1回しかできないですし、破片が飛んで来たりして怖かったです。でも、そのときに監督を見たら、葉巻を吸いながらクレーンに乗って自分でカメラを回していて……。その姿がとにかくおもしろかったです。

あとは、本物のオオカミと対峙するシーン。「それじゃあオオカミ逃げちゃうんじゃないの?」みたいな細い糸でオオカミを繋いでいたので、それも怖かったですね。どれも日本ではなかなかできないことばかりだったので、すごく新鮮でした。

海外には挑戦できるならこれからもしたい

―モンゴルに滞在中は、どのような生活をされていましたか?

柳楽さん ゲルで過ごしていましたが、大きなネズミやプレーリードッグが出入りしていましたね。あと、共同シャワーは3つあるけど、ひとりが使っているとほかの2つは使えないとか……。なかなか行けない場所ではありますが、1回で堪能できたと思うくらいの経験をさせていただきました。

―食事も日本とは違うものだったと思いますが、いかがでしたか?

柳楽さん プレーリードックを食べたときは衝撃的でしたが、縁起のいい食べ物で、お客さんを招いたときなどに食べる習慣があるそうです。ただ、首を切ったあとに内臓を取り出して、熱した石をなかに入れてジューッと焼く調理法が斬新で、最初は少し怖かったですね……。でも、「これを食べたら仲間!」みたいな感じだったので、おいしくいただきました。

―ちなみに、味はどのような感じだったのでしょうか?

柳楽さん 少しけものっぽくてクセがありましたが、普通においしかったです。今回は、アムラさんの知り合いのシェフが現場にずっといてくださったので、毎日おいしいご飯をいただくことができました。

―海外でさまざまな経験を積んで、今後も海外の作品に挑戦したい気持ちが強くなったのでは?

柳楽さん ハリウッドに対する憧れはありますけど、日本や海外に関係なく、今後もKENTARO監督のようなかっこいい人とこれからも出会っていきたいです。とはいえ、もちろん挑戦できるならぜひしたいとは思います。

―30歳を目前に自分探しをする劇中のタケシに共感する部分もあったと思いますが、ご自身も30代に突入してみていかがですか?

柳楽さん 20代までは仕事を立て続けにやることが“正義”だと思ってましたけど、30歳になったのが2020年で、強制的にいろいろなことが中断されたので、改めて自分と向き合える時間を持つことができました。その間に食事の資格や船の免許を取ることもできたので、それはそれでいい時間になったといまは思っています。

ひたむきさを持ちつつ、余裕のある俳優になりたい

―そういう時期だからこそ、いままでできなかったことができたんですね。

柳楽さん そうですね。家族と過ごしたり、資格を取ったりした以外にも、俳優としてもいろいろな欲が出てきたので、大切な時間だったんだなと。この作品のように、旅に出ることで出会いや学びを得ることもありますが、休みのなかからも意外と学べることは多いんだなと考えるようになりました。

あと、いまは釣りにハマっているので、釣竿を買って、早く釣りに行きたいですね。共演者の方にも釣りをする方は多いので、一緒に行けるようになったらいいなと思っています。釣りは時間の使い方がぜいたくなところがいいですよね。

―数年前にお話をうかがった際に、30代になったら自分に向いたものを多くやりたいとおっしゃっていましたが、30歳を迎えてその思いは強くなっていますか?

柳楽さん 20代の頃のようにすべての作品に同じようにエネルギーを注ぐというよりも、30代は好きな作品により集中できるようにしたいなとは思っています。トニー・レオンが好きなので、『花様年華』みたいな映画にも出てみたいなとか。30代だからこそ、演じられるような役と作品に出演したいですね。

―この1年は、環境的にも大きな変化を感じたと思いますが、支えになってたものは何ですか?

柳楽さん やっぱりエンタメですね。『愛の不時着』や『HUNTER×HUNTER』にハマってしまって、ワクワクしながら観てました。これだけひとつのワードが世界中で使われて、同じレベルでいろいろなことを感じている時代なんて、ここ最近ではなかったことなので、いまはみんなで一緒に乗り越えていくしかないのかなと思っています。

―そのなかで柳楽さんの作品に救われた人もたくさんいると思いますが、俳優としてできることについても考えたことがあれば、教えてください。

柳楽さん やっぱり俳優としてのあり方みたいなものはすごく考えました。もうすぐ31歳になるので、20代の頃のようなひたむきさを持ちつつ、余裕のある俳優になりたいです。そのなかで、僕が出た作品をみなさんに観ていただき、それがみなさんの支えになったらうれしいなと思います。

インタビューを終えてみて……。

どんな質問にも、気さくに優しく答えてくださる柳楽さん。モンゴルでの思い出とKENTARO監督について、とにかく楽しそうに話す姿に、こちらまでたくさん笑わせていただきました。本作の裏側を思い浮かべながら、柳楽さんと一緒に旅を体感してみてください!

圧倒的な自然と熱演に引き込まれる!

モンゴルならではの壮大な自然のなかで繰り広げられる唯一無二のロードムービー。言葉も文化も世代も超えて生まれた絆が、新たな気づきを与えてくれるはず。タケシとともに、“未知の自分”を探しに行ってみては?


写真・角戸菜摘(柳楽優弥) 取材、文・志村昌美

ストーリー

資産家の祖父に甘やかされ、自堕落で贅沢三昧の暮らしを送っていたタケシ。そんなある日、祖父によって、モンゴルに送り込まれることとなる。目的は、第二次世界大戦終了時にモンゴル人女性との間に生まれ、生き別れてしまった祖父の娘を探すことだった。

タケシはガイドで馬泥棒のモンゴル人男性アムラとともに、モンゴルの草原へと向かうことに。言葉も通じない、価値観も異なる2人の旅が始まろうとしていた……。

魅了される予告編はこちら!

作品情報

『ターコイズの空の下で』
新宿ピカデリーほか全国順次公開中
配給:マジックアワー、マグネタイズ
http://undertheturquoisesky.com/

© TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFI PRODUCTION / KTRFILMS