
日本を溺愛! ハリウッド屈指の二世俳優「山下達郎さんと銭湯が好き」
主演のマイルズ・ロビンスさん

【映画、ときどき私】 vol. 354
主人公である内気で繊細な青年のルークを演じたマイルズさん。劇中では、“空想上の親友(イマジナリーフレンド)”であるダニエルに翻弄され、思いがけない狂気の世界へと引きずり込まれていく様子を見事に演じています。
初主演にして、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭で男優賞を受賞したマイルズさんですが、ティム・ロビンスとスーザン・サランドンという名優を両親に持つ“サラブレッド俳優”としても注目の存在。今回は、ダニエルを演じたアーノルド・シュワルツェネッガーの息子であるパトリック・シュワルツェネッガーさんとの現場での様子から日本にまつわるエピソードまで幅広く語っていただきました。
―最初に脚本を読まれたとき、どのあたりに惹かれましたか?
マイルズさん いまは多くの人、特に若い男性が暴力的に振舞ってしまうようなことがあります。でも、それは悲しみから来るもので、他人には見えていないトラブルを抱えていて、そこから生まれてきているんじゃないかなと僕は感じていました。この作品は、そういったことについても触れている物語だと思ったので、その部分がとても興味深いと思ったところです。
言い換えれば、この作品では表面化していない、内なる闇みたいなものを2人のキャラクターとして描くことによって視覚化しているんですよね。それもすごくおもしろいなと。あとは、ホラーというジャンルだからこそ、大きな社会問題について描いていても上から目線になることなくメッセージを伝えられますし、同時におもしろさも持ち合わせた作品にできるので、そういうところにもすごく惹かれました。
映画作りでは“ムービーマジック”を愛している

―実際に完成した作品を観て、ご自身ではどのように感じましたか?
マイルズさん 正直言って、僕は自分のことはどうでもいいので、自分の演技については、まったく気になりませんでした(笑)。それよりも、僕が映画作りで心から愛しているのは“ムービーマジック”。今回だとVFXのシーンにすごくワクワクしました。それがなければ、舞台や演劇でいいのかなと思ってしまうので。そういったトリックのようなことができる“魔法”がある映画は観ていて楽しいですよね。
僕が一番好きなホラー映画というか、一番好きな映画と言っても過言ではないのが、大林宣彦監督の『HOUSE ハウス』。この作品はちょっとサイケデリックで奇妙で、本作ほどシリアスではないけれど、視覚的にワクワクさせられる楽しい作品ですよね。
―『HOUSE ハウス』がお好きとのこと、うれしいです。
マイルズさん (日本語で)一番大好き! まだ下手ですが、ちょっとだけ日本語を話せます。
―とてもお上手です! どのように勉強されたのですか?
マイルズさん 学校でも少し学んだことはありますが、基本的には独学。18歳の頃にバックパックで日本に行ったことがあって、そのときは下北沢のイケてるレコード屋さんに行ったり、DJもやっていたのでアメリカに山下達郎さんのレコードを持ち帰ったりしていました。日本のシティ・ポップとかにもハマったので、僕は日本でレコード屋さんに行って、日本の新しい音楽を探して、銭湯に行くのが大好きなんです。
日本へは、2年前の夏に僕のバンドと一緒にライブをしに訪れたのが最後。そのときに覚えたのは、「おかわり」と「この音楽ヤバいね」だけです(笑)。
―(笑)。では、今回共演されたパトリック・シュワルツェネッガーさんについてもおうかがいします。ananwebでは以前パトリックさんが来日された際に取材をしており、とても好青年の印象を受けましたが、マイルズさんにとってはどのような俳優ですか?
マイルズさん まずパトリックは本当にいい人だし、寛大で努力家。何よりも仕事に向かう姿勢がすばらしいんですよね。今回は、リハーサルで彼と一緒の時間をたくさん過ごすことができたので、彼の動きをよく観察して、いろいろなことを吸収させてもらいました。
パトリックは何でもシェアしてくれるすばらしい役者

―演じるうえでお互いに意識したことはありましたか?
マイルズさん 今回彼が演じたのは、僕のキャラクターのイマジナリーフレンドだったので、僕のなかから生まれる何かが重なっていなければなりませんでした。同じ人物を2人で2つの側面から表現するため、お互いに居心地がよくなるまで何度も練習しましたよ。今回はそこに一番時間をかけたと思います。
役者のなかには、自分のことしか考えていない人も多いですが、彼は何でもシェアしてくれる人。それこそ、彼がいい役者だと言える理由でもありますが、そんなふうに僕たちはずっと“わかちあう練習”というのをしていました。彼と一緒に仕事ができて、本当にうれしかったです。
―ルークは1人2役のようなキャラクターで難しいところもあったかと思いますが、苦労したことがあれば、教えてください。
マイルズさん パトリックの手助けもありましたし、しっかりとリハーサルの時間もとれたので実は結構簡単だったんです。というのも、僕がしなければならなかったことは、パトリックと時間を多く過ごすことだけでしたから。
そのなかで、彼の言動をじっくりと見聞きすることができたので、彼を演じることはそんなに難しいことではなくて、むしろ楽しかったくらい。それに、イケてるクールなダニエルというのは、僕にはないところだと思うので演じていておもしろかったですね(笑)。
―ただ、後半に向かって、精神的に追い込まれるような部分もあったかと思います。撮影中に役と自分自身を切り替えるために、何かされていましたか?
マイルズさん その部分は、すごく大変でした。自分の人生と演技をわけなければいけない練習でもありましたから。でも、だからこそ役者としてそこに大きな学びがあったと思います。切り替えにしていたのは、普段からよく行っている鍼治療、あとはお風呂に入ることも重要ですね。日本で一番好きな場所も銭湯ですから。(日本語で)銭湯大好き!
共感性と社会を変えたいという思いを抱いて作った

―銭湯いいですよね。本作に登場するイマジナリーフレンドについておうかがいしますが、アダム・エジプト・モーティマー監督も幼いころにいたそうですね。何か実体験に基づく演出などもありましたか?
マイルズさん 監督の経験については、特に教えてもらうことはなかったです。ちなみに、僕自身にイマジナリーフレンドがいたことはありません。ただ、勝手に友人だと思っていたけど、友人じゃなかったというような体験は何回かしています。けっこうつらい発覚でしたけどね。
―それは悲しい経験ですね……。子どもはときどき見えないものが見えたりして両親を驚かせたりすることがありますが、そういうこともなかったですか?
マイルズさん 実は、10歳くらいのときに一度だけ幽霊を見たことがあって、ワクワクしたことはありました! 夜中に目覚めたら男の人の幽霊がいて、「Hello!」と声をかけてみたんです。でも、どうやら言葉が通じなかったみたいで。しかも、その後はまったく現れなくなってしまったので、僕のことを好きではなかったのかもしれません。
―(笑)。今回、監督は本作の重要なキーワードとして「共感性」という要素をあげています。作品を作り上げる過程で、どのようなことを話し合われましたか?
マイルズさん 僕にとっても、「共感性」というキーワードは非常に重要なものだったと思います。特に、僕が演じた役は寂しくて孤独だからこそ、簡単に周りからの影響を受けてしまう若い男性でしたから。
最初に、アメリカでは周りの影響で暴力的になってしまう人が多いとお話しましたが、それはインターネットの掲示板やアングラな部分に触れているうちに、ミソジニスト(女性差別主義者)になったり、レイシスト(人権差別主義者)になったりする人が増えているという意味です。
だからこそ、そういった若い人たちに対して、共感しながら理解できる手立てとしてこの作品を作りたかったし、それによって社会を変えていきたいという思いもありました。リサーチをするなかでいろいろなニュースやインターネットの掲示板も見ましたが、心配になってしまうような書き込みもけっこう目にしましたから。その過程で彼らの現実を少しでも理解できたと思うので、共感力を持って演じたつもりです。
理想は、日本に住んで演技をすること

―ちなみに、ご両親で俳優のティム・ロビンスさんとスーザン・サランドンさんも作品をご覧になりましたか? おふたりから役者として学んでいることがあれば、教えてください。
マイルズさん 作品はすでに観てもらっていて、きっと誇らしく感じてくれていると思います。ほかのどんな仕事も役者も変わらないということは学んだかもしれませんが、役者であることに対して、両親から特別に教えてもらったことはありません。それに僕が役者になったのは、“アクシデント”みたいなものであって、彼らから「役者になれ!」と言われたことは一度もないですしね(笑)。
ただ、彼らの存在があったからこそ、役者という仕事に対して恐れがないというのは言えるかもしれません。でも、僕が楽しんで仕事をしていれば、それがどんな職業であっても、両親はきっと同じように応援してくれていただろうなとは思いますよ。
―素敵ですね。ちなみに、本作の製作には『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで知られる俳優の先輩イライジャ・ウッドさんも入っていますが、アドバイスをもらうようなこともありましたか?
マイルズさん 僕も彼もレコードコレクターなので、現場では映画の話はあまりせず、実は音楽の話ばかりしてました(笑)。彼はすごくいい人で、音楽の趣味も最高ですよ! 僕の夢は、いつか日本のレコードバーに彼と一緒に行くことです。
―落ち着いて旅行できるようになったら、ぜひ実現してほしい夢ですね。そのほかにも、今後挑戦したいことはありますか?
マイルズさん 役者としてこうなりたいというような細かいプランがあるわけではありませんが、理想としては日本に住んで、日本でも演技をしてみたいです。バカな外国人の役を演じるのもいいなと(笑)。いまは、高円寺にある大好きな銭湯に行けなくて、本当に悲しい思いをしているので、日本でキャスティングがあればぜひ声をかけてください!
―最後に、大好きな日本の観客へメッセージをお願いします。
マイルズさん この作品を観てもらって、怖くて楽しい思いをしてくれたらうれしいです。あと、いまはコロナで大変だと思いますが、十分に気をつけてくださいね。みなさんいろいろなことがあると思いますが、(日本語で)がんばって! ありがとうございました。
インタビューを終えてみて……。
最初から最後まで“日本愛”が止まらないマイルズさん。とにかく気さくでチャーミングで、癒し系の笑顔が印象的でした。劇中のマイルズさんとあまりにかけ離れていて驚かされましたが、まさに役が憑依しているかのような迫真の演技には注目です。将来的に、日本で活躍する日も近いかも⁉
心も体も支配されて抜け出せない!

予測不可能なストーリー展開だけでなく、若手の実力派が繰り広げる迫真の演技合戦に引き込まれる本作。味わったことのないゾクゾク感と底知れぬ狂気の世界を存分に体感してみては?
取材、文・志村昌美
ストーリー

心に大きな傷を抱えて孤独な幼少期を過ごしていたルークにとって、唯一の心の支えは自分以外には見えない“空想上の親友”のダニエル。ところが、ある事件をきっかけに、母親からダニエルと遊ぶことを禁じられ、自ら彼を封印してしまう。
その後、ルークは大学生になっていたが、目立った才能はなく、人付き合いも苦手だったことから、うつうつとした日々を送っていた。そんななか、カウンセラーにイマジナリーフレンドの存在が助けになる可能性があると助言され、ダニエルを呼び起こすことに。久しぶりの再会に友情を取り戻した2人だったが、徐々にルークはダニエルに“浸食”され始めていた……。
心がかき乱される予告編はこちら!
作品情報
『ダニエル』
2月5日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント、グランドシネマサンシャイン(池袋)ほか全国公開!
配給:フラッグ
https://danielmovie.jp/
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