精神疾患の兄を持つ私…「異性と深い仲になりたくない」その理由 #16

文・心音(ここね) — 2018.5.22
“私の兄は、障害者”。見て見ぬ振りして、直視できない現実を避けるように生きてきた、妹目線の連載です。 女子大へ進学した私は、自分の関心があることに夢中になる日々。恋愛からどんどん遠ざかっていきました。

【兄は障害者】vol.16

深くなる関係を恐れて、恋愛を避けていた

バイト先が同じで、毎日のようにバイクで送り迎えをしてくれた元彼の前では、素直な自分でした。いつも私のことをサポートしてくれていた、頼れる年上彼氏。しかし、支えてくれることが、少しずつ大人になる私にとって逆に辛いことでもありました。

彼のことが、嫌いになって別れたわけではありません。「もう、これ以上踏み込んで欲しくなかった」。これが、本音です。恋愛は、絆が深まるほど、お互いの生活に溶け込むことになります。家が近いから、一緒にいて楽しいから、見た目がかっこいいから。そんな小さなきっかけで始まった幼い恋は、月日が経つにつれて妙なプレッシャーへと変わっていったのです。

両親の理解から、好きな分野を学ぶ

……地元での青春はそろそろ終わり。自分の進路に向き合って、大学を選ぶ時期には、すっかり彼のことは頭からなくなっていました。

両親に進学の相談を持ちかけたときのこと。「就職先は安定したところに」「将来性のある大学を」「結婚をして早く家庭を持ったほうがいい」など、子どもの将来を応援したい気持ちから出てくる言葉を親が子どもに言うことはよくあります。しかし、私の両親は、一度もそういったことを言いませんでした。背景には、心の病を抱えた兄の存在があります。毎日元気で笑顔に過ごしてくれたら、お母さんとお父さんはそれだけで嬉しい。いつもそう言いながら、「心音の好きなように生きなさい」と、私の気持ちを大切にしてくれたのです。

私は大好きな音楽を専攻することにしました。一般的に、音楽や芸術関係の大学に進もうとすると、両親から止められるケースが多いのです。なぜなら、将来それを生かした仕事に就きにくいから。音楽や芸術は、目指してもゴールがある世界ではありませんし、学校で専門的に学んでも道が開けるかどうかはまったくの別問題。たとえ技術が高くても、周囲の評価が低ければ仕事にはなりません。当事者は、一生懸命勉強していても「趣味の世界」「お金がかかる遊び」だと、言われることもありました。

興味関心が同じ、女友だちが心地よかった

音楽という、不安定で先の見えないといわれがちな分野にも関わらず、私の両親は「やりたいことをやりなさい」と背中を押してくれました。それこそ、兄の時と同様に、世間の目はさまざまだったと思いますが、それでも私の味方でいてくれたのです。私は、県外に通う女子大生になりました。

その大学は演奏だけでなく、楽器を修理したり、指導したりするなどのユニークな授業が評判で、遠方から学生たちが集まっていました。私は、その新しい環境に出会えたことで、居心地の悪い地元の生活から解き放たれていったのです。学校にいる男性といえば、先生のみ。同級生、後輩、先輩とすべて女子だったので、意識的に男性と交流しなければ恋愛に発展することもない環境は、私にとっては気持ちが楽でした。

恋愛? めんどくさい……。たまにご飯くらいなら

大学の進路が決まったと同時ぐらいにお別れした彼とは、2年近くはまじめに交際していたと思います。しかし、心の距離が近くなるにつれて苦しくなっていきました。好きな人だからこそ、家族のことが言えない。それを経験した私は、“うわべの恋” が得意になっていきました。

合コン? デート? たまに、ご飯……。「華の大学生」とも言いますが、出会いや誘いも多くあるなか、特に本気になることもなく、たまに息抜き程度に遊ぶだけ。早い同級生は、大学在籍中から付き合っていた彼氏と、そのまま結婚というパターンもありましたが、兄のことが心に引っかかっている私にとって、恋人に自分の境遇を理解してもらって “結婚” するなんてことは、想像すらできなかったのです。


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