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好きでもない男に抱かれる「夜の蝶」|12星座連載小説#13~蠍座1話~

文・脇田尚揮 — 2017.2.8
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第13話 ~蠍座-1~


前回までのお話はコチラ

人生は白か黒か。それを決めるのは自分の覚悟ひとつ―――

私の名前……そうね、色んな名前で生きてきた。
陽菜、桜子、マリア、そして…絢芽。多過ぎて、どれが本当の私だか分からないわね。

親から貰った、ただ一つの名前は『須藤由紀』。

電車の窓から見える夕陽が、とても美しい。

しかし今は、“逢魔が刻”。
昼間は影を潜めていた、妖怪・幽霊・悪魔など怪しいものが出てきて……、人々が不吉な出来事に遭遇する時間帯と言われている。

そう、何事にも表と裏がある……。

私はクラブホステス。

今でこそ“銀座のママ”として働くようになったけど、これまで本当に色んなことがあったわ。

美しい夕暮れを見ていると、いろんなことを思い出す。

幼い頃の貧しい生活。子供時代に見た赤とんぼと田畑の風景。父親の失踪。そして、私を女手一つで育ててくれた母親のこと……。

高校を中退して秋田から上京した時も、こんな綺麗な夕暮れだった記憶がある。

……人生は本当に不思議なものだ。

スナック勤めの母は私にいつも言っていた。

「由紀、お前はこんな仕事に絶対就くんじゃないよ!」

「おまえは、普通に働いて普通に幸せな結婚をしな」

「あたしは父ちゃんのことを、嫌いに思ったことは一度もないよ」

この言葉は、今でも私の頭の中でリフレインする。

でも、私は……夜の世界に生きている。もしかしたら、夜でしか生きられないのかもしれない。母が最も望まなかったであろう仕事に就いて、もう十数年が経つのだ。

―――ガタンゴトン、ガタンゴトン

本当にいろんなことがあった。

母から勘当され、二人の弟を進学させるために仕送りし続け、……そして、好きでもない男に抱かれた。

でも、それらはすべて私が選択してきたこと。悔いはない。

沢山の男たちが、私の身体の中を通り抜けていった。はじめは嫌悪感と罪悪感で一杯だった私も、次第に慣れ、これも仕事だといつしか自分を殺すようになって……。

私に名前が沢山あるように、感情も沢山生まれてしまったのだろうか。いつの間にかそれが当たり前になってしまった。

―――ガタンゴトン、ガタンゴトン

あっ……! 子供が転んだ。

『大丈夫? ボク』

「うう。……うん」

『えらいね。泣かなかったね』

子供を起こし、ホコリを払う。

「ありがとう、お姉ちゃん」

『気をつけてね』


私にも、あんな風に純真無垢な時代があったのだろう。

本当はずっとそのままで在りたかった。でも、大人になるということは、それと相反することなのだろう。

綺麗な心のまま大人になるなんて、自分を騙しているか、よほど脳天気に生きているかどちらかだろう。

私は悟った。結局、男は女を支配したいだけの生き物だということを。

地位、名誉、お金……それらはすべて、女につける枷のようなもの。“愛”という言葉で繕って身動きできないようにするくせに、飽きたら人形のように捨てる……。

バカな私でも、同じようなことが続けば分かる。そしてその度に、心のどこかに歪みが生まれ、見えない傷がついていく。

―――ガタンゴトン、ガタンゴトン

夕日がもう完全に見えなくなった。私の時間がやってくる。

……少しだけまどろむ。

―――おかあさん、ごめんね。

……ゴトンッ、プシュー

乗り換え駅に到着した。

ホームに立ち、次の電車を待つ。

……あれ、あの子―――

“麗華ちゃん”。昔一緒に働いていた恭子ちゃんね。

彼女は確か…佐々木恭子。クラブの女の子達の中でも、ひときわ輝いていたわ。羨ましいくらいに可愛らしくて、自分の欲しいと思うものに真っ直ぐ向かっていける子だったわ。私も彼女くらい、何にも囚われない心を持っていたら、また違った人生を歩んでいたのかもしれない。

……そう、まるで“お姫様”のような。ふふ、ガラじゃないわね。

『あら、恭子ちゃん?』

好奇心から、私は彼女に声をかける。

「ああ! マリアさん!」

見たところ、夜の仕事は卒業したみたいね。賢明。いつまでも続けていると、抜け出せなくなるの。私みたいに。

『やっぱり恭子ちゃんだった。元気?』

「はい!変わらずです。私は今、アパレルやってます」

身に着けているものから、彼女の頑張りが伝わってくる。
昔からセンスが良い子だったから、アパレルとは彼女らしい選択ね。

『そうなんだね、私はまだ夜やってる。今はマリアじゃなくて、“絢芽”としてね』

私は自嘲気味に伝えた。『絢芽』……私にとっては呪わしい名前。

「……お店、移られたんですか?」

『まぁ、そんなものね。今は銀座なの』

そう言って私は名刺を渡す。普段はあまり渡さないんだけど、何だかこの子のことが気になる。私にないものを持っているこの子が。

「そうなんですね! すご~い! 一等地じゃないですか!」

恭子、ありがとう。

でもね、女が夜働くってことは、そんなにシンプルじゃないのよ。

心の中で彼女に言ってみる。

地下鉄のホームに無機質なアナウンスが響き渡る。

夜の帳がおりる合図だ。

次回、“第14話 「慈母としてのマリア、娼婦としてのマリア」”は2月9日(木)配信予定。


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
須藤由紀(絢芽) 蠍座30歳 クラブホステス
豊満な肉体を持つセクシーな女性。貧しい幼少期を経て、自分の身体一つを武器に若い頃から水商売の世界でトップを取り続けてきた。さまざまな男性と情事を重ねる日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ、男と女の化かし合いに疲れている。このまま、夜の世界の女帝となるか、それとも……。

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