会社を辞めて、こうなった。【第37話】 禅僧、ティク・ナット・ハン師のコミュニティ。 仏・プラム ヴィレッジで劣等感を手放す。

2016.7.30 — Page 1/2
東京からアメリカに戻る前にフランスへ行くことにした筆者・土居。いまだ劣等感を抱き、覚悟を決められないでいる自分を見つめ直すため、3年前に人生を変えるきっかけとなったマインドフルネス合宿に再び参加する。

【土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。】vol. 37

 

【第37話】禅僧、ティク・ナット・ハン師のコミュニティ。仏・プラム ヴィレッジで劣等感を手放す。

みなさん、お久しぶりです! 1か月半の日本、フランス旅行を終えてアメリカに戻り、はや4週間が経ちました。

東京ではふたつのことに気がつきました。ひとつは、もはや後戻りが出来ないということ。会社を辞めて部屋も引き払ったので、当然のことながら日本にはもはや居場所は無いのです。そしてもうひとつは、そんな自分でも支えてくれる友人たちが居るということ。実際に元職場であるマガジンハウスを訪ね、そして友達の部屋に居候し続けることでこの2点を強く実感でき、ついに腹に落とすことができました。

人生を変えた、マインドフルネス合宿へ。

3つあるプラム ヴィレッジの集落のひとつ、アッパー ハムレットにある白樺の森のなかで行った歩く瞑想。一歩、二歩とただ歩くことを楽しむためだけに歩きます。そのコツは、どこかにたどり着くために歩かないということ。ゆったりとした呼吸と歩行のリズムが調和していくのにつれて、心がさまざまな方向にさまよわなくなります。
3つあるプラム ヴィレッジの集落のひとつ、アッパー ハムレットにある白樺の森のなかで行った歩く瞑想。一歩、二歩とただ歩くことを楽しむためだけに歩きます。そのコツは、どこかにたどり着くために歩かないということ。ゆったりとした呼吸と歩行のリズムが調和していくのにつれて、心がさまざまな方向にさまよわなくなります。

会社を辞めて渡米して以来、完全に自信を喪失した私。家族、そして元同僚や元上司、友達と会うことで癒やされた半面、冷静に今の自分の状況を見ると居候生活で、元後輩にまでご馳走になっているという有り様…。そんな社会的に宙ぶらりんな状態の自分に対して “一体私は何をやっているんだろう” と劣等感を拭えません。頭では “覚悟を決めて踏み出したのだから、ウジウジ言わずに前を進め!” とわかっているのですが、その覚悟がまだ腹に落ちてはいないのです。そこで3年前に私の人生を変えたマインドフルネス合宿に参加するため、フランスにあるプラム ヴィレッジに向かいました。今一度スタート地点に戻ることで、自分の過去と今、そしてこれからを見つめなおそうと思ったのです。(約3年前に韓国で参加したマインドフルネスリトリートについてはこちら

プラム ヴィレッジはパリから南西に160キロほど行ったボルドー郊外にあります。ここはティク・ナット・ハンというヴェトナム出身の禅僧、平和活動家が始めたマインドフルネス(過去を後悔したり、未来を心配して過ごすのではなく、”今ここ” に集中して生きること)の実践の場であり、僧院・尼僧院。年に何度か一般向けに開放され、合宿形式でブラザー(お坊さんのこと)、シスター(尼さんのこと)とともに寝食を共にし、説法を聞いたり、自分の抱える悩みや疑問をシェアしながら、日常生活を瞑想的に生きる練習をします。

参加したのは、6月1日〜22日まで開催されていた “21-Days Retreat: Vulture Peak Gathering ”(21日間の合宿:霊鷲山(お釈迦様が無量寿経や法華経を説いたとされる聖山の名前)の集い)。私は二部構成となる合宿期間後半の6月11日〜22日の11日間に参加しました。合宿での実践は、基本的には仏陀の教えに基づいています。具体的には、大乗仏教、そして小乗仏教の伝統的なスタイルにプラム ヴィレッジならではプラクティス、そして西洋文化や現代心理学、生理学などによるエッセンスが加えられたもの。例えば精進料理は欧米とヴェトナム料理がミックスしたようなヴィーガン料理です。座禅に関しても、足を組んで座れない人は椅子を使ってもいいし、自由に足も崩せます。禅の教えや仏教哲学についてしっかりと頭と体の両方を使って学べるけれど、堅苦しさや “喝!” みたいな厳しさはありません。公用語は英語ですが、日本語の出来る尼さんのシスター・チャイもいらっしゃいますし、バイリンガルの参加者が自主的に通訳をしてくれたりするので安心。また ”Noble Silence(聖なる沈黙)” といって、合宿中の食事や歩く時間に会話をせず、自分の意識に集中するという練習も多いです。実際、3年前に参加したときはほぼ英語がわからなかった私ですが、“言葉から開放された安らぎや贅沢さ” を味わい、五感は鋭くなり、言語を超えた人との繋がりを感じられました。

無言のまま食事。
茶碗一杯のご飯を手に取り、幸せを感じる。

会話をせずに食事をすると、野菜や穀物の風味がより強く感じられます。最初は同じテーブルに着席しながら人と話さずに食べることに居心地悪く感じたのですが、慣れてくると深い安らぎと食べ物への感謝を感じられるように。
会話をせずに食事をすると、野菜や穀物の風味がより強く感じられます。最初は同じテーブルに着席しながら人と話さずに食べることに居心地悪く感じたのですが、慣れてくると深い安らぎと食べ物への感謝を感じられるように。
とびきり美味しいプラム ヴィレッジ流・精進料理。この日は森の中での歩く瞑想の流れで昼食を頂くということで、ランチパックスタイル。摘んだばかりのマルベリーをおやつにして。その他にもサクランボなどさまざまな果樹があり、自由に食べられます。
とびきり美味しいプラム ヴィレッジ流・精進料理。この日は森の中での歩く瞑想の流れで昼食を頂くということで、ランチパックスタイル。摘んだばかりのマルベリーをおやつにして。その他にもサクランボなどさまざまな果樹があり、自由に食べられます。

一体どういう人が来ているのかというと、年齢も国籍も社会的地位もさまざま。場所柄、ヨーロッパ諸国から来た人(フランス人、ドイツ人、オランダ人など)が一番多く、その次にアメリカ人とヴェトナム人、中国人、そして日本人…という感じでした。男女比は同じぐらいで(若干女性のほうが多い?)、定年退職者、学生、自営業者、会社を辞めたばかりの人が多かったです。小さな子どもを連れた家族や車椅子で参加している方もいました。会社で働く人が少なかったのは6月という時期的な問題も大きいと思うので、7月1日〜29日の “Summer Opening Retreat(夏の合宿)” にはもっと違うタイプの人たちが参加したのかもしれません。

一日のサンプルスケジュールは、こんな感じです。
午前5時半(ストレッチなど軽いエクササイズ。自由参加)
午前6時半〜午前7時半(座禅:座る瞑想)
午前7時半〜(朝食:食べる瞑想)
午前10時〜午前11時30分(法話)
午後11時30分〜(歩く瞑想)
午後12時30分〜(昼食:食べる瞑想)
午後16時〜(悩みや法話に関する疑問を話し合う:相手が正しいか間違っているかという判断はせずに、優しく話し、慈悲を持って聞く練習)
午後18時〜(夕食:食べる瞑想)
午後19時30分〜(歩く瞑想、座る瞑想、寝る瞑想など日によって異なる)
※スケジュール内で、それぞれ与えられた日課(働く瞑想:食材を切る、お皿を洗うなど)も行う。
午後21時30分〜( “聖なる沈黙” の開始:会話ストップ)
午後22時(消灯)

盛り沢山でマインドフルどころか、マインドがフルな感じ(忙しそう)ですか? 私がこの合宿に参加した一番の理由は、会社を辞めて言葉がわからないままにアメリカに来て以来ずっと抱いている年齢コンプレックス、そして無能でありたくないという強迫観念や、働いてお金を稼いでいないことへの恐れを解消するため。そこで最初の3日間ぐらいは “せっかく来たからにはこの問いへの答えを得なければ” と自分に鞭打って実践に励むあまりに、“ね、眠い…” と座る瞑想中に熟睡しちゃったり、あろうことか “さっさとリトリートを終えて、パリ観光したい” (えぇ~~!?)とまで考えてしまい、全くマインドフルじゃない状態に陥っていました。けれど週に一度プラム ヴィレッジに設定されている “lazy day” という、のんびり自由に過ごす日に友達とバラ園へ行ってスコーンを食べたり、近郊の街を観光する時間を持てたことで、合宿中に “頑張る” ところと “力を抜く” ところのバランスを取り戻せたように感じます。