会社を辞めて、こうなった。【第37話】 禅僧、ティク・ナット・ハン師のコミュニティ。 仏・プラム ヴィレッジで劣等感を手放す。

2016.7.30 — Page 2/2

200人の参加者の前で悩みをシェア。

私の滞在していた集落・ニュー ハムレットから歩いて40分ほどの場所にあったバラ園。個人の私有地を6ユーロの入園料で開放しています。あまりにも可愛い世界観を持つガーデンだったので、そう伝えると「だって、キュートじゃなくっちゃね」と言い切ったマダムの姿勢に感銘を受けました。
私の滞在していた集落・ニュー ハムレットから歩いて40分ほどの場所にあったバラ園。個人の私有地を6ユーロの入園料で開放しています。あまりにも可愛い世界観を持つガーデンだったので、そう伝えると「だって、キュートじゃなくっちゃね」と言い切ったマダムの姿勢に感銘を受けました。

200人ほどの合宿参加者たちは、10人ぐらいのグループ(プラム ヴィレッジでは、ファミリーと呼ばれます)に分けられ、話し合いと夕食の時間はファミリーの仲間と過ごします。自分のファミリーがどれかわからずにさまよっていた私は、プラム ヴィレッジへ向かうバスの中でたまたま隣りに座ったオランダ人の女の子・ジュールに連れられて、半ば流されるように彼女のファミリーの一員に。しかしそれが18歳〜25歳ぐらいの若い人たちを中心とした35歳以下の “Wake Up” という若いファミリーだったことが後ほど発覚。つまり、プラム ヴィレッジでもUCバークレーと同じ状況(=周りは一回り以上年下の人ばかり)になってしまったのです! そこでこれはもう真正面から年齢コンプレックスと向き合えってことだと覚悟を決めて、200人の参加者の前でブラザー、シスターたちに私が抱え続けているコンプレックスへの対処法について相談しました。

そのYoutube動画は、こちら。15分程度とちょっぴり長いアリガタイお話……。(※英語です)

プラムヴィレッジでは、音楽を大切にします。法話の前には集会用のホールに集まって、長いシックな茶色の法衣に身をまとったブラザーやシスターのヴァイオリン演奏や、合唱に耳を傾けます。
プラムヴィレッジでは、音楽を大切にします。法話の前には集会用のホールに集まって、長いシックな茶色の法衣に身をまとったブラザーやシスターのヴァイオリン演奏や、合唱に耳を傾けます。

彼等からの答えの中で特に心に染みいったのは、“考えすぎずに、もっと感じて” というメッセ―ジ。でも “感じるって一体どういうこと?” と再び頭で考えてしまった私(苦笑)。そんな私ではありますが、ある日ブラザーやシスターの歌を聞いていたときに、訳もわからず涙が止まらなくなりました。これは 私の “プラム ヴィレッジあるある” 。つまり、予想外のポイントで号泣スイッチが入ってしまうのです。ある意味、怖い! 思うにハートを囲っている鎧のような氷が溶けると、涙になって流れていくのかもしれません。どうやら私は高い波動を持つ音楽を聞いたり、人に会ったりすると心の琴線に触れるようなのです。しかしこの号泣スイッチが入った場合は、美しく涙を流す、なんて余裕のある状況ではなく、慟哭&嗚咽に! “きゃー、恥ずかしい!” “私の汚いむせび泣きで美しい音楽を台無しにしてしまう!!” と、涙でびしょびしょの真っ赤な顔を隠しながら、競歩(マインドフルネスを実践するプラム ヴィレッジでは、走る人を見かけません)でホールを後にしました。

鐘の下で泣いていると、ファミリーの最年少、ヴェトナム人のアンが同じくホールを抜けだして「ケーキを食べに行こうよ。昨日、私が焼いたんだよ」とやって来ました。彼女も私と同じようにファミリー内で年齢コンプレックスを抱いていた参加者。13歳の彼女は私とは逆に “若すぎることで相手にされない” という恐れを抱いて、自分の年齢を隠していました。だから、私たちは同じ痛みを持つ者同士、引き合ったのかもしれません。二人でヴィーガンケーキをボールに山盛りして、白樺の森のなかの彼女のお気に入りのスポットへ。BGMは私が日本人だということでアンがiPodからセレクトした、久石譲です。美しい音楽に耳を傾けながらまた私が号泣。そしてアンがリュックからティッシュを取り出して渡してくれるのです。「あなたは空気みたいな人ね。あなたの前だと私、泣いても平気だわ」。そう彼女に伝えたときから、私たちは年齢を超えた親友になりました。

ついにコンプレックスの本当の原因が発覚!

ハート型の枯葉を仏陀像の胸にのせて写真を撮るアン。彼女のお気に入りの場所で久石譲さん作曲のジブリ音楽を聞きながら、ケーキを一緒に食べました。
ハート型の枯葉を仏陀像の胸にのせて写真を撮るアン。彼女のお気に入りの場所で久石譲さん作曲のジブリ音楽を聞きながら、ケーキを一緒に食べました。

年齢コンプレックスについてプラム ヴィレッジにいる人たち全員の前で話したとはいえ、具体的な歳はまだ誰にも伝えていなかった私。「このまま逃げ切ってしまうのか」と思いながら合宿最終日の前日に鐘の下でぼんやりしていたら、アンや他のファミリーの仲間が「アヤ!」とやってきました。そのうちの1人、ジュールが「でさ、結局アヤって何歳なの?」とド直球に質問! 「まぁいっても、24歳とかそんなもんでしょ」。えぇーー?! 全然違うよ!(でも、ありがとう。ジュール…合掌)。「じゃあさ、これから私がどんなふうに今まで生きてきて、なんで年齢コンプレックスになったかを話すね。その話を聞きながら足し算をしていったら、私の歳がわかるよ。ちょっと長くなるけど、聞ける?」と言うと、3人はウンと首を揃えてうなずきました。

大学を卒業した後、14年間日本で働き、会社を辞めて2014年12月に心理学を学ぶためにアメリカに来たこと。海外で暮らすのは初めてで、英語も全然わからずにホームスティ先を突然追い出されたり、アメリカ人女性に「その歳で子どもも産まずに何をしているの!」と叱られたり。バークレーで告白してきた同級生は年齢を伝えたとたん、挨拶もしてこなくなった……。そんな話をしながら、だから今の自分がやっていることと年齢が合っていないんじゃないか。私って本当にバカなんじゃないか、そう思ってしまって自分の年齢を人に言えなくなってしまったんだと素直に話しました。それを聞いている彼女たちは、次第に大激怒!「アメリカってそんなに表面的な国なの?!」と。

「じゃあみんなはさ、この話を聞いて、私の年齢を知って、私に対する態度は変わらない? みんな、変わっていったんだよ。私はね、ただ ”土居彩“ として見て欲しいだけなの。年齢とか国籍とか社会的立場とかそういう情報を抜きにして、ただ目の前に居る “アヤ” として接してほしいの」。そう伝えたら、みんなは「当たり前じゃない!」と口をそろえて言います。「彼らはアヤのことを知るチャンスを失った可哀想な人たちだよ」。「彼らの世界観に合わせる必要は全く無い。アヤはアヤそのままで素晴らしい。だから、アヤは彼らの見るような世界を見なくていいよ」と。彼女たちからの言葉を聞いているうちに私はものすごく無防備になって、子どものように泣きじゃくってしまいました。でも、みんなの前で泣けたことが嬉しかった。そして気がついたんです。年齢とか国籍とか社会的立場とかを抜きにした、ただの “土居彩” を認められなかったのは、他でもない私だったんだなって。だからそれを強く感じさせるような出来事が繰り返し起こっていたんだなって。私って本当にどうでもいいことをず〜っとず〜っと気にしてきたんだなって。あるシスターにも言われたんです。「あなたの劣等感はおそらく年齢コンプレックスから来ていませんよ。もっと深くその痛みを見つめなさい」と。

怒りや苦しみ、劣等感を変容させ、美しい花に。

アンからお別れの日にもらった似顔絵。chigoの安全ピンスタイルのピアスをつけているので、それを忠実に描いているところも泣ける…。横でずっと見ていてくれてたんだなぁって。
アンからお別れの日にもらった似顔絵。chigoの安全ピンスタイルのピアスをつけているので、それを忠実に描いているところも泣ける…。横でずっと見ていてくれてたんだなぁって。

出発の日にアンが「アヤ、これ」と私の似顔絵を描いて渡してくれました。そこには蓮の花と一緒に私の姿が。蓮は、ティク・ナット・ハン師がよくたとえ話で使う花です。美しい蓮の花の下にはドロドロの泥がいっぱい。けれど美しい蓮の花が咲くためには、泥が必要なんですよと。無ければいいと思って抑圧したり、見て見ぬふりをしてしまう怒りや苦しみ、劣等感や嫉妬などのネガティブな感情。私たちはそんなドロドロの泥を抱えて生きている。そして蓮の花はそんな泥を変容させ、美しく咲いているのです。

アメリカに来る前は、単に鈍感なだけだったからだと思いますが、あまり人と自分を比べたり、劣等感を抱くこともなかったんです。けれども、こちらに来てからドロドロの泥ばかりにフォーカスしてしまう弱さが自分にあることを知りました。この連載を書いていても思います。こんなに包み隠さず書いたら、もう絶対日本でモテないだろうなぁとか(笑)。そして、一度決めた心や覚悟がまたあっちにいったりこっちにいったりして、本当に格好悪いなぁとか。ひょっとしたらこんな思いを書かないほうが自分をよく見せられるのかなとも思います。でもこれが私なんですよね……(苦笑)。だから、これからも未熟な自分をただありのまま、素直な気持ちを通してお伝えしながら、一歩一歩前を進んでいけたらなと思います!

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See You!

告白話の後に「で、アヤってひょっとして私の歳(13歳)の倍いってるの?(=26歳)」と聞いてきたアン。え、ひょっとして足し算できない?! まーさーかーのー!( 苦笑) そこで「そんなそんな、もっとだよ。場合によってはアンのお母さんでもありうる歳だよ♪」と言ったら卒倒していました。でも友達ネ♡
告白話の後に「で、アヤってひょっとして私の歳(13歳)の倍いってるの?(=26歳)」と聞いてきたアン。え、ひょっとして足し算できない?! まーさーかーのー!(苦笑) そこで「そんなそんな、もっとだよ。場合によってはアンのお母さんでもありうる歳だよ♪」と言ったら卒倒していました。でも友達ネ♡

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PROFILE
土居彩
編集者、ライター。14年間勤務したマガジンハウスを退職し、’14年12月よりサンフランシスコに移住。趣味は、ヨガとジョギング。ラム酒をこよなく愛する。目標は幸福心理学を学んで、英語と日本語の両方で原稿が書けるようになること。