どぶろっく「“エロすぎないか”より“行きすぎていないか”」 人を楽しませる下ネタの極意

2024.8.15
エロいことを音楽に乗せる歌ネタで多くの人を魅了する、どぶろっく。不快に感じることなく、爆笑してしまうのはなぜなのか、ご本人たちを直撃! 人を楽しませる下ネタの極意や、越えてはいけないラインを教えてもらいました。
タレント 芸人 どぶろっく

写真左・森慎太郎さん、右・江口直人さん

――「もしかしてだけど~♪」をはじめ、さまざまなジャンルの音楽に乗せて下ネタを歌い上げる芸でおなじみの、どぶろっくのお二人が、今のような下ネタ歌ネタを初めて披露したのは2008年。東野幸治さんと藤井隆さんがMCを務める『あらびき団』のオーディションで突発的に…ということですが、もともと下ネタはお好きだったのでしょうか?

江口:それまでの漫才やコントの内容も下ネタが多かったですね。僕は子どもの頃から志村けんさんのコントが好きで、“見ちゃいけない”感じがするネタやボケを面白がっていた節がありました。

森:僕は逆で、エロスに関することを誰にも話さなかったりと伏せているタイプで。だから、『あらびき団』でのネタの面白さも、よくわかっていなかったんです。

江口:しかも、『あらびき団』ではMCのお二人がツッコむことで、エンタメになっていたからよかったんですけど、ライブではまったくウケなくて。最初の頃は、すごく苦労しました。

――潮目が変わったタイミングはいつでしたか?

江口:2つあって。一つは、「もしかしてだけど」というネタを始めて、笑いが起きやすくなったことです。『あらびき団』では、ディレクターから「とにかくエロいやつを!」「もっと変態に!」「エロをサボるな!」と言われていて、本当に大変だったんです。ネタを作り慣れていない時期だったし、やっぱり、エロは強制されると嫌なんですよね。勃たせなきゃと思うほど勃たないのと同じで(笑)。このままじゃダメだと思い、少しかわいらしさがあり、振って落とすというパターンがあり、オチまで簡単にたどり着くネタを作ろう…と思って生まれたのが、「もしかしてだけど」でした。“あくまで妄想です”と前置きすることで、ウケるようになったんです。

森:それまでのネタは「女性はこう」と言い切る形で。それを嫌だと感じていた女性は結構いたと思います。明らかにウケ方が変わったことを今でも覚えていますね。漫才の賞レースでも、めちゃめちゃウケましたから。

江口:もう一つ、2019年の『キングオブコント』で優勝した時も、劇的に変わりました。でも、「もしかしてだけど」に対する、笑って許してくれるようなリアクションも次第に変わっていき…。最近は、とにかく生々しさをなくし、“そんなことない”と思える要素を強め、よりフィクションにするということを大事にしています。「○○な女」という曲は、「女」を連呼する歌詞が嫌だという方が増えたこともあり、テレビではほとんどやらなくなりました。

森:物語の主人公を自分や同性の目線にして、“こっち側”の話をするようにしています。女性のエロスを歌うのではなく、自分のエロスを晒すという感じですね。

江口:「女」を、「女の子」「女性」という表現に変えたりも。そう、一度、「おなご」にしたこともあったんですけど(笑)。

森:それはそれで違うな、となりましたね(笑)。

――OKとNGのボーダーラインを探るのに、お二人で話し合いもするのでしょうか。

江口:結構、しますね。

森:“エロいかエロくないか”より、“行きすぎているか、いないか”を話すことが多いです。わかりやすいエロスを歌っている曲の場合、言葉の数が多すぎると生々しくなるから少し減らして調整したりとか。僕はエロスというものは、表に出してはいけないものだと思って長年生きてきたので。ネタを言う時にも、嫌だと感じる人は絶対にいるから、その人たちが笑わずともOKは出してくれる内容にするにはどうすればいいか、ということを考えますね。僕が引かないものにしなければ、と。

江口:やっぱり、全員のOKが出ないところが、普通のネタと下ネタの違うところであり、難しいところです。ネタにハマらなかった時、普通のネタであれば「あんまり面白くなかった」で終わるのが、我々の場合は「嫌悪」を生み出しやすいので。めちゃくちゃ笑っている人の隣に、とんでもなく嫌そうな顔をしている人がいたりもしますから。でも、その“嫌そうな顔をしている人がいるのにネタをやっている”ということが、誰かの笑いを生んでいる場合もあるんですよね。

森:新しいネタができた時は、まずはライブで反応を見ます。

江口:ただ、単独ライブに来てくださるお客さんは甘いので、そこではウケたのに、他の場所では全然ダメだったということも(笑)。

森:音楽フェスとか、ちょうどいいですね。自分たちのファンじゃない方もいますし、ノリもいいので。知っている曲を3曲くらい歌い、少し脳をバグらせたあたりで新曲を紛れ込ませて反応を見て(笑)。うまくいけばテレビで披露するように。でも、長い持ち時間でやるとわかるんですが、エロが成功し続けることって難しくて。

江口:30~40分が限界ですね。

――曲はどのようにして作っているのでしょうか。

江口:作曲をする時、歌詞が先にできる「詞先」とか、「メロディ先」とか言いますけど、僕たちは部位を決めてから作る「部位先」が多いです(笑)。たとえば「ビーチク峠」は、これまでビーチクに特化した曲がなかったな、というところから始まり、次に「峠」という言葉が浮かんで、フレーズになって出てきました。どの曲も、できる時は、ササッとです。

――もともと作曲はされていたのですか?

江口:学生時代、バンドをやっていた時に作曲していたので、その名残で意外とできちゃうというか。でも、みんな、やればできますよ。曲が完成したらボイスメモに残しておいて、二人で一緒に聴くんです。その時に笑えたら、いいネタができたって思いますね。

――歌詞と曲調のバランスを考えることはありますか?

江口:曲を爽やかにすれば、何を言ってもいいというかね(笑)。

森:ヘビーな単語を乗せやすくなりますね。逆に、スローでねちっこい音楽にすると、歌詞の生々しさが出すぎてしまうので気をつけます。あと、ネタを理解してもらいたいからといってオチの前段をていねいに描きすぎると、気持ち悪い感じになることも。多くを語りすぎないように作り直します。

江口:タイトルも難しいよね。ネタバレになっちゃうといけないから。メロディに関しては、いい曲よりキャッチーさが大事。あくまでもネタですから。

――近年は、ミュージカル調の「農夫と神様~大きなイチモツ~」が大きな話題となりました。

江口:これは森ちゃんが作曲を。

森:BSで、アフリカかどこかの、グラミー賞みたいな音楽の祭典が放送されているのを見ていまして。そこで流れた一曲に、「農夫と神様~大きなイチモツ~」のような3拍子の曲があり、ここまでヒットするということは人に響く要素があるのかも? と思ったんです。

江口:ギターでメロディを弾きながら歌詞を考えていたんですけど。貧しい人が何かを欲しがる展開がいい、という物語までが浮かんだところで一度トイレに行って、戻ってきた時には、「大きなイチモツだ!」と決まっていました。

森:自分が大きなイチモツだったら、この曲はできなかったかもね。よかったね~。

――大きなイチモツは、そんなに手に入れたいものなのですか?

江口:電柱くらいになったとしても嬉しいですね。生活は不便だろうと思いますけど。

森:多分、マッチョな体に憧れるのと似ています。

――ご自身たちのネタの愛されぶりを、どう感じていますか?

江口:ありがたいですけど、みんなが喜んでいる実感がないというか、疑っているというか(笑)。

森:『キングオブコント』で優勝させてもらった時に、「下ネタという美学を貫き通した」みたいにおっしゃっていただいて。でも、すごくありがたいんですけど、そんなことはなくて。やり続けていたら、みなさんが男根負け、じゃなくて(笑)、根負けしてくださったという感じではないでしょうか。

――最後に、お二人が思う下ネタの魅力を教えてください。

江口:子どもがイタズラを好きなことと似ているというか。やっちゃいけないと言われているものだからこそやりたい、見たいと思うんじゃないでしょうか。

森:下ネタとかエロスって、事件とか悪いものに繋がりやすい側面も強いと思うので。だからこそ、エンタメであるべきだし、不快に感じる下ネタはエンタメになっていないんだと思います。喜ばれていない下ネタをやり続けるのはダメ。壁打ちになったら、すぐにやめたほうがいいです。

江口:あと、隣のテーブルの人に聞こえるのもダメですね。声のボリュームが調整できない人って、言うこともつまらないですけど。

森:それ、僕たちの身近にいる、10秒に一回下ネタを言うあの人のことでしょ(笑)。この間、「なんでそんなに言うんですか?」と聞いたら、「下ネタを言わなくなったら俺じゃなくなる」と言われて。こういう考え方だから言い続けるんだなと思いましたね(笑)。下ネタを自分のアイデンティティやポリシーにするのはよくないです。

江口:基本的に下ネタは言わないほうがいいですよ。下ネタでいい感じになっている人なんて、ほとんどいませんから。もし言うとしたら、自分のネタにしましょう。間違っても人のことをネタにしたり、異性を巻き込むのはよくない。

森:そして、成功した話より、自虐とか失敗談のほうがいいですね。

江口:相手に「ご無沙汰なんじゃないの?」と言うのはダメだけど、「俺、ご無沙汰だからな~」と言えば、弱みを見せるというか、腹を割った感じになるからね。

森:相手に心を開く、距離を縮めるためのエロスや下ネタなら、いいんじゃないでしょうか。

どぶろっく 2004年に結成された、森慎太郎(左)と江口直人(右)によるお笑いコンビ。『キングオブコント2019』優勝。音楽フェスに出演するなどミュージシャンとしても活躍している。

※『anan』2024年8月14日‐21日合併号より。写真・内山めぐみ 取材、文・重信 綾

(by anan編集部)