愛らしい表情やぎこちないフォルムに夢中! みちのくの“民間仏”に注目した仏像展

2023.12.6
多種多様な民間仏に込められた、人々の祈りとは? 仏像展「みちのく いとしい仏たち」をご紹介します。

みちのく いとしい仏たち

「仏」という言葉から連想される一般的な姿とは微妙に異なる愛らしい表情やぎこちないフォルム。それなのに不思議と親近感が湧いてくるこれらの仏像は江戸時代、みちのくの地で作られた“民間仏”。大工や木地師(きじし※ろくろを用い、主に木工品などを作る職人)が製作した民間仏は小さなお堂や祠に祀られ、人々の心の拠り所、そして日常のささやかな祈りの対象として大切にされてきた。

しかし、当時は上方や江戸で修練を積んだ仏師が、立派で端正な姿の仏像を製作し、全国に広がっていった時代。そんな時代に、なぜみちのくでは民間仏が浸透していた?

「立派な仏像・神像は大変ありがたい存在ではありますが、厳しい風土を生きる東北の人々は、生活のなかの小さな愚痴やちょっとした日々の心配ごとなどを聞いてもらう対象として、もっと親しみやすい存在を必要としていたのでしょう。それは必ずしも立派な姿である必要はなく、やさしい姿かたちのお像で十分だったのだと思います。むしろそうしたお像だから悩みを打ち明けやすかったのでは」(東京ステーションギャラリー学芸員・柚花文さん)

民間仏の造形は、シンプルさを追求したようなものから、装飾性のあるもの、立像から坐像までさまざま。

「立派なご本尊も目にしているはずなので、大工さんも仏像の造形の基本を知らなかったわけではないはず。その上で仏像作りのルールに忠実に従うよりも、依頼主の気持ち、たとえば疫病、飢饉、災害などで命を落とした人々への鎮魂などに寄り添い、できる技術の範囲のなかで心を込めて作った結果、生まれた造形なのだと思います」

「笑みをたたえる」「ブイブイいわせる」といったユニークな8つのセクションで構成され、約130の民間仏が展示される本展。歴史ある東京ステーションギャラリーならではのレンガ壁の展示室とマッチした風景も、見どころのひとつになりそう。

「難しい話は抜きにして、人々が民間仏にどのような祈りを込めてきたのかについて、思いを馳せながら楽しんでいただければ」と柚花さん。似ている誰かを想像したり、お気に入りのひとつを見つけたり。仏像展初心者も、ぜひ足を運んでみて。

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《六観音立像》江戸時代 宝積寺/岩手県葛巻町
良質なカツラの木に彫られたあっさり顔の六観音立像。顔とは対照的に衣のひだからは手が込んでいることがわかる。6体並んだときの祈りの静けさと装飾性を帯びた造形が秀逸。

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《山神像》江戸時代 兄川山神社/岩手県八幡平市
本展のメインビジュアルにも選ばれた、林業に携わる人々に今なお厚く信仰されている山神様。狭い肩、バランスのとれた3頭身、控えめな合掌ポーズが魅力的。

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《不動明王二童子立像》江戸時代 洞圓寺/青森県田子町
腰をくねらせた不動明王と、やんちゃそうな筋肉もりもりの童子たち。山深い土地で生まれた味わいあるトリオ。

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《鬼形像》江戸時代 正福寺/岩手県葛巻町
地獄で亡者の罪を責め苛む鬼が、左手に女性を引きずり得意満面な表情を見せる。楽しそうな表情からは、つらい現世を笑い飛ばしたいという願いも見受けられる。

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《童子跪坐像》右衛門四良作 江戸時代(18世紀後半) 法蓮寺/青森県十和田市
丸みを帯びた像の底が前後に揺れる可愛らしい仏像。十和田にはこうした武骨で優しい像が多く残されている。

みちのく いとしい仏たち 東京ステーションギャラリー 東京都千代田区丸の内1‐9‐1(JR東京駅 丸の内北口 改札前) 12月2日(土)~2024年2月12日(月)10時~18時(金曜~20時。入館は閉館の30分前まで) 月曜(1/8、2/5、2/12は開館)、12/29~1/1、1/9休 一般1400円ほか TEL:03・3212・2485

※『anan』2023年12月6日号より。写真・須藤弘敏

(by anan編集部)