兼近大樹「自己と向き合うことを続けていれば、自己肯定感なんて言葉が気にならなくなる」

2023.7.13
忙しいあの人は、失敗したり、落ち込んだ時にどうやって前向きな気持ちをキープしながら、自分と向き合っているの? そんな質問を、芸人・兼近大樹さんに伺ってみました。

意外にも「自己肯定感は低いほう」と言うEXITの兼近大樹さん。気になるその理由とは…?

みんな自分との対話が足りていないと思う。

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――EXITのネタやキャラ的にも、兼近さんは周りから、自己肯定感が高いように見られているのではないでしょうか。

でも、自分では低いと思っていますけどね。そもそも俺は、すべてのことにおいて“うまくいかない”と思って生きているんです。だからもし何かがうまくいったら、めっちゃラッキーなんですよね。あれ…高いのかな?(笑)

――低く見せて高いとか(笑)。でも毎日のように「カッコいい!」と言われているだけでも、自然と自己肯定感は高まりそうです。

メイクとかで見た目はカッコよくしてもらっているけど、自分のことをカッコいいと思ったことはないし、「カッコいい」と言われて嬉しいと思っていたら芸人なんてやってません。芸人にとってのカッコいい要素は、マイナスでしかないと思っているから。だって、カッコいい人にカッコよくない人がブチギレているほうが見ていて面白いし、共感できるはずで。

――兼近さんは“自己肯定感”をどのように捉えているのでしょう。

「自己肯定感上げてこー!」って人におすすめしている時点で“自己”じゃないし、意味わかんない言葉だと正直思っています。だからあまり興味も持てなくて。

――世の中に“自己肯定感”という言葉が浸透してきたのは、なぜだと思いますか?

比べる対象が多すぎるのかな。“自己肯定感”という文字通り、自己だけを肯定すればいいのに、何か比較対象を持ち出すから高い低いになっているんだと思います。例えばSNSのフォロワーが多い少ないとか、あの人に比べて可愛くないとか、太っているとか。最近の若者は、フォロワーを“戦闘力”として使っていますもんね。私の戦闘力53万です、みたいな。戦闘力が低いと弱いから、そりゃ悔しいでしょうね。でも、低くても、うまく戦えると思うんです。芸人の目線で言わせてもらえば、フォロワーが多い、ある意味で権力者って、自分よりもフォロワーが少ない人に向かって何か発言しても、嫌みでしかないし面白くないんです。でもフォロワーが少ない人が、権力者に何か発言すると共感者が増えたりして、いわゆるバズれたりする。よく知らない有名じゃない人の発言のほうが、いいね! したくなるんですよね。

――自己肯定感に置き換えても、そうかもしれませんね。

そうです。自己肯定感が高い人って、ただ憧れの存在なだけ。毎日のように「私はハッピー!」って言ってる人よりも「うまくいかねぇな…」って呟いている人のほうが、みんな気になりますよね。

――とはいえ、自己肯定感が低いと思っている人の多くは、ネガティブな発想になりがちな気もします。どうすればいいのでしょう。

“自己肯定感”って言葉を使わなくてもいいんじゃない? それよりも、自分がどういう人間かを理解することが大事。みんな、自分との対話が足りていないと思うんですよね。自分探しの旅に出てないで、鏡見て自分のことをまず知っとけって。自分は探さなくてもここにいるんだから。具体的には、小さい頃からこういうこと言われて嫌だったとか嬉しかったとか、だから私は求められるたびにこういうことしちゃうんだとか自己分析してみること。そういうふうに自分の幼少期から掘り返して見直しながら、自分のことを知っていくうちに、自己肯定感が高いとか低いとかどうでもよくなると思います。自分はこうなんだ、でもあの人はあの人でこうなんだ、って思えるようになる。そもそも、自分のことを知らないと“自己肯定感”を言い訳にして、人の気持ちも理解できないんじゃないかって思うんです。自分はこういうことで許されてきた、愛されてきたって部分を全部すっ飛ばしているから、寛容さを持てずに潔癖になって、ちょっとしたことで文句を言ったり、変なこと呟いて炎上したり。…俺、めっちゃ真面目な話してるけど大丈夫ですか?(笑)

愛されていたことを思い出せてラッキー。

――兼近さんは、自己とどのように向き合ってきたのでしょう。

俺も、幼少期から振り返って考えた時期がありました。ずっと貧乏で、勉強もしなかったし、社会や周りの大人、すべてにムカつきながら生きてきた。誰かが目立ったことすれば足を引っ張りたいし、いつも楽しそうで、金持ってて幸せで…って人たちが大嫌いで(笑)。そんな自分の思考や行動、人生を大人になって振り返ってみたら、思い出したことがあったんです。

――どんなことですか?

中学生の時、いつも「勉強しなさい」って言ってくる先生がいて。当時は、めっちゃうざくて反抗しまくってたけど、今思うと、あの先生めっちゃ優しかったじゃんって思うんですよね。俺のことを見捨てずに、何度も「勉強しろ」って言ってくれた。愛されていたんです。そのことを思い出せて、俺はラッキーだと思っていて。だから本を読むようになったし、今改めて勉強をし直しているんです。当時はありがた迷惑だと思っていたことを、今やっとありがたいと思えるようになって、周りの人に感謝できるようになりました。そして、“何をやってもどうせうまくいかない”精神で開き直るようになったら、仕事もうまくいくようになって。めちゃめちゃスベったとか恥ずかしいことも、笑い話にして人に言えるようになったんです。マイナス面がプラスになるなんて、お笑い芸人は最高の職業。それで面白いと思われたり「元気出ました」って言ってもらえると、嬉しいんですよね。

――もし些細なことで落ち込んだ時は、どうすればいいですか?

例えば落ち込んでいる後輩を見たら「なんとかなるから頑張れ」とは絶対に言いません。人生、なんとかならないことが多いのを俺は知ってるから。それよりも一緒に解決策を考えてあげます。落ち込んだ理由を知って、原因を見つけて解決したほうが楽になるんです。だからみんなも、もし落ち込んだらただネガティブに浸らないで、冷静に解決策を探してほしいです。それも自己と向き合うということ。それを続けていればそのうち、自己肯定感なんて言葉が気にならなくなると思いますよ。

かねちか・だいき 1991年5月11日生まれ、北海道出身。お笑いコンビEXITのボケ担当で、歌手や作家、洋服ブランドのプロデュースなど幅広く活躍中。地元・札幌でのショットなど、さまざまな表情を収めた兼近大樹1st写真集『虚構』(ワニブックス)が8月18日発売予定。

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『虚構』(ワニブックス)
8月18日発売予定

※『anan』2023年7月19日号より。写真・瀬津貴裕(biswa.) スタイリスト・矢羽々さゆり ヘア&メイク・冨樫真綾 インタビュー、文・若山あや

(by anan編集部)