荒牧慶彦「なんで自分はあそこに行けないのか」 『テニスの王子様』出演後の涙の過去

2022.8.8
今後の2.5次元界を担う存在。荒牧慶彦さんが考える、舞台の未来とは。

テニミュ初日の幕が下りた瞬間は今も忘れられない。

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荒牧さんがこの世界に入ったのは大学卒業の目前。10代から脚光を浴びてきた同世代俳優も多いなか、少し遅いデビューだった。なんと大学に進学したときは、銀行員を目指していたのだそう。

「優等生だったんです。親の教育の賜物だと思うのですが、物事を道筋を立てて考えていくことがもともと得意で。ただその一方で、とても厳しい家でもあって、大学進学までは親が喜ぶ道を選んで歩いてきたところがありました。でも、就職の時期が迫ってきたとき、親の敷いたレールから一回外れてみたくなっちゃったんです」

そこで選んだのが俳優の道だった。しかし何か確信があったわけではなく、当初は単なる興味本位。

「よく遊んでいた高校時代の友人が芸能事務所に所属していて、興味を惹かれたんですよね。そのときは興味を持っただけでしたが」

就活時に決意して受けた芸能事務所のオーディションに合格。しかし、当然親の反対にあう。

「もうめちゃくちゃ反対されました(笑)。僕の身を案じてのことなんですけれど。親に納得してもらうためにも、自分のような遅いスタートの役者が世間に見つけてもらうための道筋を考え、行き着いたのが、ミュージカル『テニスの王子様』(以下、テニミュ)に出るという結論でした」

2003年よりスタートしたミュージカル『テニスの王子様』は、第1回公演から徐々に観客動員数を増やし、またたく間に人気コンテンツへと成長。出演俳優は、テニミュ卒業後も人気が高く、若手俳優の登竜門となっていた。そんななか、2ndシーズンに突入したテニミュでデビューを果たす。

「テニミュの初日の幕が下りた瞬間、めっちゃ気持ちよくて、何これって思ったんですよ。体力的には大変な舞台だったのにもかかわらず、すぐまた公演ができるのが嬉しくて、あの感覚は今でも忘れられないです。それまでは、ここでなんとか結果を出さなきゃって前のめりになりすぎて、結構心がぱんぱんだったんですけどね。そこからは、終演後の満面の笑みのお客さんからいただく拍手の爽快感で全部取っ払われるのがわかっているから、初日の緊張感やピリピリ感、焦燥感も全部が癖になって。舞台が大好きになりました」

しかし、悔しい思いもあった。

「同時期にテニミュに出ていた俳優たちが、その後、特撮モノに出て人気者になっていくのを見たときは、泣きましたもん。なんで自分はあそこに行けないのかって。応援したい気持ちはあるけれど、自分に足りないものがあるのが悔しくて。ただそれも一回寝ればリセットされるんですけど(笑)」

僕の存在が、少しでも後輩たちの希望になれば。

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原作への深いリスペクトが感じられる的確で丁寧なキャラクター造形と、完璧なビジュアルで、高い評価を得、今や、2.5次元舞台のトップランナーのひとりとして活躍している荒牧さん。その一方で、近年は、『REAL⇔FAKE』や『あいつが上手で下手が僕で』など、数々のテレビドラマにも出演。さらにその勢いのまま、昼の情報バラエティ『ヒルナンデス!』のシーズンレギュラーを務めるなど、活躍の場を広げている。

「僕がドラマやバラエティに出ていくことで、いまだに2.5次元舞台への偏見を持っている人たちの見方が、少しでも変わっていったらいいなというのはあります。昔は原作のモノマネじゃん、って言われたりもしていましたけれど、今では、映像や小劇場で活躍されている俳優さんや演出家さんが2.5次元舞台に出て、輝いていたりもして、少しずつその垣根がなくなっているのを感じます。あと、僕がテレビに出ることによって、今2.5次元舞台に出ている後輩たちの、少しでも希望になれればいいなとも思うんです。今頑張っていれば、活躍する場所は自ずと広がっていくんだって思えるような道を作りたいんです」

その言葉の端々から感じるのは、2.5次元と呼ばれるジャンルに対する強い思い入れだ。

「何より、2.5次元作品に出ている僕を見てファンになってくれた方々を裏切りたくないんです。23歳でこの業界に入って、テニミュでデビューさせてもらって、2.5次元舞台に可能性を感じてやり続けてきて今ここにいる。だからこそ、まだまだ可能性を広げていきたいし、そうできると信じてもいます。そもそも、2.5次元の定義って何だって聞かれたら、かなり曖昧じゃないですか。漫画やアニメを原作にした舞台作品は、今、世の中に溢れているわけですよね。へんにカテゴライズせずに、同じ演劇として手を組めば、もっと演劇界は活性化するのになって思っていて。その扉を開く役目を、僕が担えたらと思っています。もともと漫画やアニメ、ゲームが好きで育ってきて、そこに元気をもらってきたのもあるし。僕が2月5日生まれで勝手に“2.5”に運命を感じている部分もあって、自分にはこれが天職なんだろうなって思っているんで」

今年デビュー10周年。プロデューサーとしても活動を本格スタートさせた今、見つめる未来とは?

「まず大前提として、プレイヤーとして舞台に立ち続けることは宣言しておきます。僕は演じることが好きだし、舞台が好きなんです。なにせプロデューサー・荒牧慶彦の一番の強みは、俳優・荒牧慶彦を好きに使えるところだと思っています(笑)。と同時に、自己満足の企画のためには俳優・荒牧慶彦を使わないということも決めています。傲慢になっているわけではなく、俯瞰したときに、お客さんが見たいと思うもの、楽しいと思うもの、新しい景色を見せてくれてありがとうって思ってもらえるもののために荒牧慶彦を使っていきたい。そして、そこで育った事務所の新人や後輩が、僕の作った道を楽しく歩いていった先に、僕も知らない新たな世界を見つけてくれたら嬉しいです」

あらまき・よしひこ 1990年2月5日生まれ、東京都出身。現在、主演舞台『ゲゲゲの鬼太郎』が上演中。また、俳優デビュー10周年記念公演『殺陣まつり~和風三国志~』が12月に上演を控える。

1枚目写真・衣装はすべてスタイリスト私物
2枚目写真・スーツ¥427,900 シャツ¥52,800 ネクタイ¥25,300 タイバー¥51,700 靴¥135,300(以上トム ブラウン/トム ブラウン 青山 TEL:03・5774・4668) ソックスはスタイリスト私物

※『anan』2022年8月10日号より。写真・来家祐介(aosora) スタイリスト・井田正明 ヘア&メイク・堤 紗也香 取材、文・望月リサ

(by anan編集部)