志村 昌美

『映画刀剣乱舞-黎明-』の鈴木拡樹と荒牧慶彦「東京は戦いには向いていない」舞台裏を語る

2023.3.30
名だたる刀剣が戦士へと姿を変えた“刀剣男士”の活躍を描き、原案のゲームや舞台など幅広いジャンルで絶大な人気を誇っている『刀剣乱舞』シリーズ。大ヒットを記録した初の実写映画『映画刀剣乱舞-継承-』から4年、『映画刀剣乱舞-黎明-』として再びスクリーンに帰ってきます。そこで、主演を務めたこちらの方々にお話をうかがってきました。

鈴木拡樹さん & 荒牧慶彦さん

【映画、ときどき私】 vol. 566

長年にわたって、2.5次元界をけん引している鈴木さん(写真・左)と荒牧さん(右)。前作に引き続き、三日月宗近役を鈴木さん、山姥切国広役を荒牧さんが演じています。今回はおふたりに、撮影秘話やお互いの好きなところ、そして自身の運命が変わった瞬間などについて語っていただきました。

―まずは、最初に脚本を読んだときに受けた印象から教えてください。

荒牧さん 僕は、「現代に出陣することもあるんだ!」という驚きが一番でした。いままでは戦国時代のように僕たちからするといわゆる“歴史上の場所”にしか出陣していませんでしたからね。なので、こんな僕たちにとって身近なところにも行くんだなと思いました。

鈴木さん 確かに、そうだよね。これまでは“時代劇”というコンテンツだと思っていたので、僕も「現代に出陣したらどう見えるのかな?」と不思議な気分でした。でも、妄想したことある世界観ではあったので、それが実現できたことはうれしかったです。

映画では最初から作れる楽しさもあった

―そのなかで、前作の経験が生かされたこともありましたか?

荒牧さん 前回とスタッフさんが同じだったこともあり、キャラクターの言葉づかいや刀さばきを理解している僕らからの提案を取り入れてくださったのは大きかったと思います。

鈴木さん 第1弾でチームワークが作れていたからこそ、第2弾につながったところもあったのではないかなと。実際、お互いの認識は前回に比べると断然早かったので、すごく円滑に進みました。設定的に、キャストもスタッフも迷うことはあったかもしれませんが、このチームでやれてよかったです。

―舞台と映画で、意識を変えている部分はあるのでしょうか。

荒牧さん それぞれの性格などは一緒ですが、映画ではどうやってフラットにできるかを考えました。この作品では、山姥切国広がどういう成長を遂げるのか、ということを自分なりに考えて落とし込んでいます。

鈴木さん 僕たちからすると、いままで演じてきたなかで関係性が出来上がっていますが、映画ではそれを一度ゼロにしました。でも、同じことをまた最初から作れる楽しさは、映画ならではかなと思っています。

憧れの人と一緒に歩けていることが幸せ

―これまで長年にわたって共演されていますが、お互いにどんな存在ですか?

荒牧さん 僕は拡樹くんのことが大好きですし、すごく尊敬している先輩。『刀剣乱舞』シリーズだけでなく別の作品でもお仕事をさせていただいていますが、憧れの人の隣に立つことができてそれだけでもうれしいです。並んでいると言うのはおこがましいですけど、一緒に歩けていることが僕にとっては本当に幸せなことですね。

鈴木さん ずっと一緒にやってきた仲ですし、そのなかで積み上げてきた関係性もあるので、僕もその気持ちに近いところはあります。まっきーがいろんな分野で成長していく姿も見ているので、刺激し合えるというか、“良き共演者”ってこういうことなんでしょうね。友達の視点とはまた違いますが、そういうところも含めていい関係だと感じています。

―そんななかでも、自分だけが知っている相手の意外な素顔や好きなところを教えてください。

荒牧さん 拡樹くんはいつもニコニコしているのが素敵だし、そこが好きなところです。撮影中は、時間がタイトになってきたりするとどうしても現場がピリピリする瞬間もありますが、そんなときでも拡樹くんはニコニコしていますから。それを見ると気持ちが落ち着くので、僕にとっては癒しの存在でもあります。

鈴木さん みなさんにとって、まっきーの意外なところって何でしょうか…。「意外と見たことなさそう」という意味では、iPadに向かっている姿とかですかね(笑)。

荒牧さん 確かに、見せたことないと思います。今回、撮影中にどうしてもやらないといけないことがあって、現場では山姥切国広の格好のままiPadで作業していたことありました(笑)。

鈴木さん そのときに、僕はまっきーがiPadに向かっているときの姿勢の良さがいいなと思ったんです。もし、会社員の役を演じることがあったら、ぜひ姿勢の良さに注目してみてください(笑)。

現実離れしているような空気感があった

―それは新しい視点ですね。また、本作ではアクションシーンも素晴らしかったですが、苦労したことや印象的だったことは?

荒牧さん 現代の街並みは、狭くて戦いづらかったです…。今回はそれをめちゃくちゃ感じました。特に刀は長いので、アパートの通路とかでは戦いにくくて仕方がなかったです。

鈴木さん 確かに、東京は戦いに向いていないよね。あと、エキストラの方々が大勢いる状況のなかで戦うことが舞台ではあり得ないことなので、それも映画の現場ならではだと思いました。実際、渋谷のスクランブル交差点のシーンでは、ワンカット撮るたびには拍手が起きてすごかったです。「僕たちは一体何をしているんだ?」と思うくらい(笑)。現実離れしているような空気感でしたね。でも、みなさんが楽しんでくれたのなら、映画化してよかったなと思える1つの要素です。

荒牧さん もはやイベントですよね。

―かなり盛り上がった現場だったんですね。ちなみに、キャスト同士は撮影の合間をどのように過ごされていたのでしょうか。

荒牧さん コロナ禍の撮影だったこともあり、フェイスシールドを付けていましたし、お互いにどのくらい積極的に話していいのかわからない状況でしたよね…。

鈴木さん そうだね。話すにしても、食事をするにもかなり距離を取っていましたから。

荒牧さん なので、キャスト間で何かが流行っていたとか、共通の話題で盛り上がったとかもなかったような。撮影の前に、監督と芝居についてちょっと話をするくらいだった気がします。それくらい感染対策に気をつけながらの撮影でした。

このシリーズは、本当に“モンスター”だと思う

―では、前回の現場とはかなり様子も違ったんですね。

鈴木さん 第1弾のときはみんなでロケバスに乗って移動していたので、一緒にお菓子を食べたりしていました。

荒牧さん あと、前回はみんなで火を囲んだりもしてましたよね。でも、そういうことも今回はできませんでした。

鈴木さん ただ、僕たちの場合は関係性のベースがある程度出来上がっているので、そこは救いだったかもしれません。これまで一緒に作ってきた信頼関係はもちろん、相手が何をしてくるのかも想像できましたから。特別な何かはなかったですが、その代わりにそういう部分を感じられた現場だったかなと改めて思います。

―なるほど。『刀剣乱舞』シリーズは、多岐にわたってどんどん広がりを見せていますが、改めてこれまでを振り返ってみていかがですか?

荒牧さん これだけ長く愛される作品になったことは、感慨深いですね。僕たちもこの作品に携わって7年になりますが、いまなお勢いがとどまることを知らないコンテンツというのもすごいなと。

鈴木さん 僕たちは原案のゲーム開始から約1年後のときから関わっていますが、その時点ですでに“モンスターコンテンツ”と言ってもいいくらいでした。だからこそ、「どれくらい上まで行けるのか」とか「これを何年続けられるのか」といったことが当初の課題でしたが、そんな予想も遥かに超えていますからね。更新が早いゲームの世界でもこれだけ強く生き残っているのは相当なことですし、「本当にモンスターだったんだな」という言葉に尽きると思います。

人生の岐路は、俳優に興味を持ったとき

―また、本作ではそれぞれのキャラクターが自分の運命と向き合っている姿も描かれており、そのあたりも見どころですが、おふたりの運命が変わった瞬間といえば?

荒牧さん それは、俳優を目指したときです。そこで人生が大きく変わったので、人生の岐路だったなと思います。僕は大学生のときに俳優の世界へと飛び込みましたが、もし俳優業に興味を持たなかったら、いま頃は銀行員になっていたのかもしれません(笑)。

鈴木さん それはそれですごいことだけどね。

荒牧さん とはいえ、銀行員になりたかったわけではなく、自分が通っていた大学では銀行に進む人が多かったので、なんとなく自分もそっちに行くのかなとぼんやり思っていたくらいです。いまは、あのときにこの決断をしてよかったなと思っています。

鈴木さん 僕の運命が変わったのは、俳優を始める前に初めて舞台を観に行ったときです。それまでは芝居とかも全然わかっていなかったんですが、毛利亘宏さん演出の舞台を観たときに「現実離れしているのになんて楽しい時間なんだろう」と衝撃を受けました。それが僕の原点でもあります。ただ、まさか自分も芝居を始めるとは思っていなかったので、何があるかわからないですね。

推しの作品を通して、人生の幅を広げてほしい

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

荒牧さん 僕たちから言ってもいいのかわかりませんが、最近よく言われていることでもあるので、「推しができると楽しいよ」ということは伝えたいですね。自分が応援している人がうまくいっているだけでもうれしいものですが、映画でも舞台でも小説でも漫画でも、僕はすべて“人生の疑似体験”だと思っているので、推しの作品を通して人生の幅をもっと広げていただけたらいいかなと。

それによって、人生は華やかになると僕は考えています。まだ『刀剣乱舞』シリーズに触れたことがない方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ一度ご賞味ください。

鈴木さん もし日常生活に充実感を得られないと感じている方がいれば、そこまで大げさではなくてもいいので、まず自分の発言を少し変えてみるというのは1つの方法だと思っています。実は、これは僕がインタビューを受けているときに感じていることです。

たとえば、そこまで自信がないことでも、いつもの自分よりも少し強気な発言をすると、それが支えになることがあります。なので、普段の自分をちょっと超えてみるという作業を徐々にしてみるのはオススメです。それによって、自分だけでなく、周りからの見られ方も変わっていくので、それが人生に変化をもたらしてくれると思います。

インタビューを終えてみて…。

言葉や態度から、お互いのことを信頼し合っていることが伝わってくる鈴木さんと荒牧さん。撮影でポーズを取る際にも息の合った様子を見せており、そういうところにも長年積み上げてきた関係性を垣間見ることができました。本作でも、そんなおふたりのやりとりに注目してください。

壮大な世界へと観る者を誘う!

『アベンジャーズ/エンドゲーム』など数々の大ヒット作を手掛けてきたVFXチームを加えるなど、ハリウッド・クオリティの映像でさらなるスケールアップを見せている最新作。その世界観のなかで繰り広げられる刀剣男士たちの華麗でありながら圧倒的な迫力を誇る殺陣のパフォーマンスも、ぜひお見逃しなく!


写真・幸喜ひかり(鈴木拡樹、荒牧慶彦) 取材、文・志村昌美

ストーリー

西暦995年 京都。藤原道長と安倍晴明の密談によって、源頼光たちは大江山に住まう鬼・酒呑童子の討伐を命じられるが、歴史改変を目論む歴史修正主義者が放った時間遡行軍に道を阻まれる。そんな窮地を救ったのは、三日月宗近ら歴史を守るべく戦う刀剣男士たちであった。しかし、先に鬼の根城へと踏み込んだ山姥切国広は、酒呑童子の最期の呪いによって、光とともに姿を消してしまう。

西暦2012年 東京。下校途中の高校生・琴音の耳に聞き慣れない音が届き、引き寄せられるように向かった先で禍々しい影と戦う一振りの太刀を目にする。その頃、日本各都市では市民が突如意識を失う事件が多発。この不可解な事態を解決すべく、山姥切長義が内閣官房国家安全保障局に出現する。事態との関与が疑われる山姥切国広の確保を始めとする “特命任務”の要請に応じ、各本丸より続々と刀剣男士が集結することに…。

目が離せない予告編はこちら!

作品情報

『映画刀剣乱舞-黎明-』
3月31日(金) 全国ロードショー
配給:東宝
https://touken-the-movie.jp/
(C)2023 「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC