鷲尾真知子 芝居を「嫌いになってしまった」30代を振り返る

2021.9.18
人生の先輩的女性をお招きし、お話を伺う「乙女談義」。今月のゲストは、舞台やテレビで活躍する俳優の鷲尾真知子さん。第2回は「『役者は50歳から』の言葉の意味とは…?」。
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劇団員になってしばらくした頃、フランスからジャック・ルコックさんという演出家がいらして、3週間のワークショップが開かれ、私もそこに参加をしました。その3週間はとても濃密な3週間で、たくさんの学びがあった。特にそのときにルコックさんが、「役者は50歳から」とおっしゃったのがとても印象的で。当時20歳そこそこだった私は、“え、このおじさん何を言ってんの? もしそうだったら若い人の役、誰がやるわけ?”などと、生意気なことを思ったわけですが…(笑)。

私は劇団で夫と出会い、40歳で退団したあとも、ずっと二人で役者をやってきました。そんな中、40代後半になったときに彼が、「50歳になったら、自分の顔に責任を持たなきゃいけないよね」と言ったんです。そのときやっと、ルコックさんが言っていた言葉の意味が理解できた。嬉しかったこと、苦しかったことなどのすべて、そこまでの積み重ねが、やっと50歳で形になるんだと思います。

30代は、きっと誰にとっても苦しい時期。

30代になると、舞台では主役を与えられることが増え、作品はもちろん劇団に対しての責任が大きくなった。自分にかかる負荷が大きくなれば、そのぶん達成感も大きくなりますが、一方で私は、芝居がおもしろくなくなり、最終的には嫌いになってしまったんです。体力はあるので、体力的な大変さは乗り切ることはできるのですが、いつもつらくて気持ちが揺らいでいた、そんな10年でした。いま思うと、もしかしたら役者という仕事に限らず、30代というのはそういう苦しい時期なのかもしれませんね。

ただ、そんなときでも私が心に刻んでいたのは、舞台『女の一生』の有名なセリフではないですが、自分で歩きだした道ならば、その責任は全部自分にある、ということ。母や夫から影響を受け役者をやってはいたけれど、でも選んだのは私。つらく苦しいことが起ころうとも人のせいにしてはいけない、ということは、私が生きる上での信条です。

わしお・まちこ 俳優。1949年生まれ、神奈川県出身。テレビドラマ『大奥』などでもおなじみ。9/26まで新国立劇場 小劇場にて舞台『友達』に出演中。共演は有村架純、林遣都ほか。

※『anan』2021年9月22日号より。写真・中島慶子

(by anan編集部)

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