マンガならではの解決法が痛快!? ネット炎上の犠牲者を助ける“オトリ”の熱き戦い

2023.5.16
野生のもぎさんによる、『オトリ―過剰殺傷(オーバーキル)取締官・斑目詩子(まだらめ・うたこ)―』をご紹介します。
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日々ネット上で当たり前のように起こっている、炎上や誹謗中傷。対岸の火事と捉える人も多いかもしれないが、本当にそうなのだろうか。

「ドラマが好きで、バディものによく出てくる車の中で張り込むような話を描きたかったんです。一方で同じ張り込みでも、週刊誌などはいきすぎなんじゃないの? と思うこともあったりして、一方的にやられるのではなく、それを成敗する話にしたら面白いんじゃないかと思いました」と著者の野生のもぎさん。

本作において「オーバーキル」が意味するのは、主にネット社会で激しい攻撃の標的となり、心身の健康を著しく害される過剰制裁のこと。その犠牲者を救うために、政府が厚生労働省に新設したオーバーキル取締部、通称「オトリ」。その取締官に抜擢された、斑目詩子と迎井史也(むかい・ふみや)が奔走する物語だ。1巻で登場するオーバーキル事案は、新人女優の恋愛スキャンダル、ラーメン批評家による店の無断掲載、ストーカー被害、失言による炎上など。どれも実際に聞いたことがあるような話ばかりだ。

「テーマを選ぶ際は、鮮度ももちろん大事にしていますが、何よりも本当に困っている人に対して解決策を提示できたらいいなと思っています。今は有名人だけでなく、一般人も炎上する時代なので、ごく身近なものとして描いていきたいですね」

現実では今のところ、被害者が泣き寝入りするしかなかったり、うやむやになったりするパターンがまだまだ多い印象だが、マンガならではの“御破算”という解決法が痛快。

「読んでスカッとできるオチを大前提にしています。やりすぎがテーマなので、単純に被害額と加害額の金額面でイーブンにするだけでなく、精神的にも肉体的にもやられた以上でも以下でもなく、やられた分だけきっちりやり返す。そろばん片手に、斑目がそこまで被害者を導いてくれるのが御破算なんです」

シリアスにも振れる内容だが、あくまでも「こんなところで笑かすんか!? っていうような、深夜ドラマ的テンション」にこだわる。何を考えているのかよくわからないものの、正義感の強さは伝わってくる斑目と、相性がいいのか悪いのかこれまたよくわからない迎井が、淡々と弱きを助け、強きを挫く様が癖になる。

「今気になるのは、アスリートへの野次や誹謗中傷。多様性という言葉で逆に枠をはめ、お互いを許容しないような矛盾もいつか描いてみたい。それこそネタには困りませんね」

『オトリ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』1 過剰制裁(オーバーキル)を取り締まり、弱者のために奔走する“マトリ”ならぬ“オトリ”の熱き戦い。「コミックDAYS」で連載中。2巻が5月23日発売予定。講談社 715円 ©野生のもぎ/講談社

やせいの・もぎ マンガ家。第1回Dモーニング連載獲得コンペ「最強ヒロイン」で連載権を獲得。本作でデビュー。Twitterは@yaseino_mogi

※『anan』2023年5月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)