未練が愛から「呪い」へと変わる時|12星座連載小説#27~牡牛座3話~

文・脇田尚揮 — 2017.2.28
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第27話 ~牡牛座-3~


前回までのお話はコチラ

私は一人暮らしの小さな部屋で、まるで試験の合否結果を待つかのように、携帯を握り締めあれこれ考えていた。

どんなメールが届くだろう。
彼は私のこと、どう思ってるかな。
待って……! ただ連絡先聞かれただけだったらどうしよう!
メールアドレスは私も知ってるし、私からメールした方が良いのかな……。
ううん、彼は「また、連絡するね」って言ってた。
あ~もうっ、どうしていいのか分かんないよぉ~!!

そんな矢先、メールが届いたんだっけ。雅俊さんから。

「わかちゃん、今日はありがとう! もしよかったら、今度は二人でランチにでも行こうよ^^」

ストレートな内容に、シンプルな顔文字。私の心はそれだけで満たされた。

私、初めて男の人からデートに誘われてる! うわぁ~どうしよう、どうしよう! あっ、早く返さなくちゃ。いやでも、もう遅いから明日かなぁ。

そんな嬉しい悩みを抱きしめながら、いつの間にか眠りに落ちていた。


チチチチチ……

小鳥の声が耳に心地いい。こんなに清々しい朝は、何年ぶりだろう。

時計を見ると、まだ5時半。思い返すだけで、嬉しさがこみ上げてくる。何度もメールを見返しては、布団の中で一人ウフフフと笑みをこぼす。

これが恋なのかなって、初めて感じた。

そして朝9時になるまで、ずーっと返信の文面を考えていた。

結局送った内容は……、

『はい! ぜひ! いつにしましょうか? 私は週末でしたら、いつでも大丈夫です』

という陳腐なもの。本当はいつでも良かったんだけど、暇な奴、軽い女と思われたくなかったので“週末”にした。

―――彼からの返事はもちろん「週末OK」だ。

それからの私はというと、まるで人生の春が訪れたかのように明るく、楽しい日々を過ごした。

大学のどんなにつまらない授業も、大好きな音楽が流れているかのように聞こえ、普段であれば面倒なアルバイトも、遠足前の準備のようにワクワク動けた。

毎日、彼とのデートの日を指折り数えたものだ。

そして、当日。

メイク、ヘアスタイル……良いよね? これで良いよね? 間違ってないよね!?

服装は……、カーディガンの下に重ね着すると腕が太く見えちゃうから、キャミでカバーね。あと、脚が太いのは隠したいからスカートは避けて、パンツに黒ストッキングかなぁ。

あ~、決まらん! 決まらんぞっ! 朝6時には起きたのに、なんだかんだでもう11時。12時半の約束だから、あと30分後には出なくちゃいけないってのに! キーッ!

女の子の身支度は、時間が掛かるのだ。


待ち合わせ場所は、電車で5駅。駅前のパスタ屋さん。

そこにいたのは逞しく爽やかな彼! テニスで引き締まった体に長身。白いポロシャツにブルーのジーンズが眩しい。何でこんな人が私をデートに誘ってくれたんだろう。

「やぁ! 一週間ぶり!」

『すみません。待たせちゃいましたか?』

「いや、全然。俺も今来たところだから」

彼はお店を指差し、

「ここ、この間来たんだけど、美味しかったからさぁ、わかちゃんと来てみたくて」

そう言って、笑った―――

その日が、私と雅俊さんの始まりだった。

彼からの告白で、お付き合いが始まった。

初めて手を繋いで街を歩いたときは、ドキドキが止まらなかった。

初めてのキスは少し日が暮れかかった海辺で、レンタカーの中で。

そして、初めてのエッチ……。

私のほとんどの“初めて”の思い出は、彼と一緒に紡がれていった。

私たちは10回、春・夏・秋・冬を一緒に迎えた。

そんな中で、きっと私はこの人の奥さんになって、子どもを産んで、幸せな家庭を築いていくんだろうって、そう信じて疑わなかった。

まさか、”あんなこと”が起こるなんて―――

私たちの間では、結婚話も何度か出ていたはずだ。彼はどんな気持ちで、私の話を聞いていたんだろう……。

考えれば考えるほど、答えのない闇に堕ちていく。

実は、もう結婚式場もドレスも決めていた。知り合いのブライダルプランナー・瀬名さんにもウキウキしながら話して……バカみたい。私一人で舞い上がっていたんだ。

でも……まだ諦めきれない。

10年だよ。私の一番楽しい時間を、ずっとずっと共有してきたんだよ。
今さら、他の男の人になんて、興味も湧かない。積み重ねてきた時間は重たいんだよ……。


―――「先生、清水先生?」

みーたんの声。

『あっ、うん、アハハ。そうね! たーくんがあと20歳年がいってたら、付き合ってたかなぁ~』

私はとっさに、変なことを口走っていた。

「もう、清水先生ったらぁ」

パシッと肩を叩かれる。

みーたんはいいなぁ、気楽で。
私にはもう、“好きな人”なんて現れないよ。彼を超える男の人なんて、もう絶対に……。

ふと時計に目をやると、短針が“3”の文字を指そうとしている。もうすぐ、子供たちを起こす時間だ。

仕事をしていても、どこにいても、私の頭の片隅にはいつも、彼がこびりついていて離れない。

―――そう、まるで呪いのように。

牡牛座 第一章 終



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【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。

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