「重たい男」は面倒くさい…|12星座連載小説#33~射手座3話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.8
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第33話 ~射手座-3~


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……彼が横で眠ってる。散らかってる部屋の中、ベッドの上だけが整然としている。

私たち二人だけの世界みたい。

―――“スースー”と彼の呼吸が聞こえる。

真っ白なシーツの中で寝息を立てている彼。

……久々のSEXは本当に良かった。彼の頬から髭にかけてのラインを、そっと指でなぞる。

少し気弱そうで、でも強い意思が感じられる瞳が瞼で閉じられている。鼻から顎にかけての隆起は、日本人にはないエキゾチックさを感じさせる。

窓の外は、すっかり暗くなっていた。お昼から愛し合って、どれくらい時間が経ったんだろう……。

時計に目をやると、針は6時半を指していた。

一つのことが満足すると、次の欲望を満たすかのように動き出す……。

アタシは貪欲なんだなとつくづく思う。このまま彼と“Sweet Time”を過ごせばいいのに、なぜだろう。

身体の中に、いつも何か新しいものを探し、燃え続けている別の自分がいるみたい。

平和な生活ももちろん好きだけど、それ以上に刺激や新鮮な体験を求めている自分がいるのよ。

シャワーを浴びて、少し濃い目のメイクに挑発的な装い……まさに夜の姿だ。

オトコが、“自分で致して”性衝動を抑えるように、私も体の奥の“火照り”を鎮めたい。六本木のクラブで踊り明かしたいの。

「……Jun?」

支度をしている後ろから、子供のように少し怯えたトーンでクリスが呟く。

『クリス、起きた? アタシ、ちょっと出掛けてくるわ』

「ジュン……僕との時間は、君にとって、かけがえのないものにはならないのかな?」

……胸が痛いと同時に、重たい。

それとこれとは別なのよ。毎日同じモノを食べてたら、誰だって飽きちゃうじゃない。それと同じ。

『クリス、せっかくJapanに帰ってきたの。色々顔を出したいところもあるのよ』

一つの場所に留まっていられない性格っていうのは、クリスだって知ってるはずよ。

「……送るよ」

あぁ、こういう湿っぽいの苦手。寝ててよクリス。別にあなたを嫌いになったわけでも、他に男を漁りに行くわけでもないの。

ただ、自分を解放しに行くだけなのに。こういう時、なんて言っていいのかホントに分からない。でも、面倒なのはイヤ。

『クリス、thanks。でも、急いでるの。大丈夫よ。鍵は1つ置いていくから。クリスのペースでOKよ』

そう言って、アタシはシルバーの鍵をテーブルの上に置いた。

―――そして、ドアを閉め、鍵をかける。……クリスの言葉を待たずに。

胸が痛い……少しだけ。でも、クリスと話し合っていたら夜が明ける。

人生は短いのに、やらなきゃいけないことは沢山。自分を縛っていたら、あっという間に終わってしまうわ。ボーッと過ごし、いつの間にか、しわくちゃのお婆ちゃんになっているなんて、アタシはイヤ。

―――タクシーを拾って六本木へ。行き先は“ヴァルファーレ”。

入口で構える、“いかつい”黒人さんに、パスポートを見せて中へ入る。

重たい扉が開いた瞬間、重低音がアタシを迎えてくれる。

鼓膜だけでなく、内臓までも刺激する低音スピーカー。乾いた砂漠に水が染み込むように、自分という器に色とりどりの音が盛られていく。

『コレよコレ!』

Barコーナーでモヒートを頼み、光と音、熱の渦に身を委ねる。

―――生きてる。フロアもなかなかアガってるじゃない。

あ、このナンバー……イイわね。BPMがアタシにシックリくる。身体が自然とリズムを刻み、ホールの中央に吸い込まれていく。

空間が溶けて、一つになるような錯覚を覚えるわ。

お酒の力も手伝ってか、アタシはもう何も考えられない。ただ、今この瞬間を楽しむだけ。

「このナンバー、好きなんだ?」

突然、知らない女が声を掛けてくる。誰、このオンナ。

「アッハハ! イイわよねこの感じ」

金髪のボブに、黄緑色のTシャツを着たその女は、どう見ても普通じゃない。

でも、楽しい! ヘンなヤツ。

『分かる! このすくい上げるような低音からの響き!』

お互い礼儀なんてない。ここはクラブだもの良いんじゃない、こういうのも。

クラブでの出会いなんて、それこそ“その場限り”のもの。

そこから何かに繋がったことなんてない。

でも、そんな縛られない関係だからこそ、自分を解放することができるのかもしれない。気楽な人間関係なんて、そんなにないもの。“いい加減”が許される場所なのよ、ここは。

「ねぇ、私あなたが気に入っちゃった。一緒に飲まない?」

―――意外な言葉に、一瞬時間が止まった。

でも……、

『ホント!? イイわよ』

アタシは、OKしていた。

人生はどこに何が隠れているか分からないもの。

偶然に見えることだって、本当は全て“必然”だったりするのよ。アタシは“運命”に身を任せて楽しむだけ。

―――こういう流れも、またイイ。

射手座 第一章 終



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【今回の主役】
戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業
ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。

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