【12星座連載小説~牡羊座2話~】今、明かされる私のキャリアの原点#2

文・脇田尚揮 — 2017.1.24
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していく物語
【12星座 女たちの人生】第2話 ~牡羊座-2~

12星座女たちの人生

前回はコチラ

『いつものこと。いつもと一緒。』

そう自分に言い聞かせながら、会議室のドアを開けた。

私はここ一番という場面に強く、事前に色々と準備して臨んでも、結局はその場のノリというか流れのままに自分の意見を通してしまう傾向がある。
皆はそれを“竹内モード”と言っているらしい。自分でもよく分からないのだが、スイッチがパチンと入る瞬間があるのだ。

……ただ今回の会議は、そんな“竹内モード”が通用するようなメンツではなさそうだ。

席に着いて周りを見てみると、私よりも遥かにキャリアを積んでいる敏腕ディレクター・放送作家、それだけでなく局長クラスの人までいる。もちろんその中に、木田さんもいた。
これぞまさに、“針のムシロ状態”なのでは……。

他のディレクターからの視線が痛い。こんな中でぺーぺーディレクターの私に企画提案しろって、そりゃムチャってもんでしょう!? 足がガクガク手がブルブルしている。さっきコーヒーを飲んだばかりなのに、やたらと喉が渇く。

「それでは、始めます」

木田さんの声で、会議が始まった。

「今回の企画会議ですが、新人の竹内さんにも参加してもらっています。今後の番組制作にはこれまでの知見だけでなく、若い女性などの新しい視点を取り入れる必要があると思いまして。」

えっ。は? よく聞こえない。

「それでは竹内さん、早速ですが企画のプレゼンお願いします。」

木田さんが、軽くニヤッとしながら私を見た。

あわわ、準備していたのに。頭が真っ白。どうしよう、私――――

準備してきたのに…

『えーっと、あの……。企画として、貧困女子にフォーカスしたドキュメンタリーを考えています。ネカフェで寝泊りする女子や風俗産業で働く女子たちを取材し、若い女子たちが働いても働いても普通の暮らしができない社会構造に……』

「へぇ」

ベテランディレクターの飯田だ。

「で、どの層の人がそれを見るの? F1? F2? まさかT層って言うんじゃあないよね?」

『あ、いえ、その……』

何も言い返せない。これが企画会議の洗礼というやつなのだろうか。

「ただ、陳腐な正義感や自己満足で番組を作られちゃあ困んるんだよなぁ。」

「制作費いくら掛かるか分かってんの?」

次から次へと手厳しい意見が飛んでくる。少し泣きそうになる。

「竹内は、何でこの企画にしようと思ったの?」

木田さんだ。

『は、はい! 女性の社会進出について……』

「いや、そういうんじゃなくて」


えぇい! もうどうにでもなれ……!!


逃れられない運命

『この企画をやりたいと思ったのは、高校時代の同級生が、家が、あの……貧乏で、売春して稼いでいたことがきっかけなんです! 彼女は何度も私に、辞めたいと相談してきました……、でも生きていくために辞められず、ずっと苦しんでいました』

静まり返る会議室内。

『結局、売春が学校にバレて彼女は退学、それから数年経っても身売りをやめることはできず、誰にも頼れず行き場をなくし自殺したんです。そういった悲しい経験をしている女の子が、私が知っているだけでも沢山いて、でもそれは氷山の一角にすぎなくて……そういった事実を多くの人たちに知ってもらいたくて、今回の企画を提案したんです!』

やだ、私泣いてる。みっともない。

『這い上がろうとしても、自力で這い上がれない状況の中で、どう生きたらいいのか、女性が幸せになるのは良い大学に入ってキャリアを積むか、結婚しかないのかっ……』

「あー、分かった分かった。皆さん、どう思います?」

木田さんがまとめてくれた。

「いやぁ、どうと言われても……」


「いいんじゃない」

チーフプロデューサーの吉岡さんだ。

「ドキュメンタリーだから、そんなに制作費も掛かんないっしょ。で、竹内がADと一緒に足動かすんでしょ?」

『は、はい……!』

「相当キツいぞ。2週間平気で泊まり込み、徹夜は当たり前だけど、覚悟はできてるんだよな? 編集とかもあまりそっちに回せないけど、やれるんだよね」

『もちろんです!』

……言っちゃった。

「なら、いいんじゃない。やってみな」

吉岡さんからGOサインが出た。

木田さんが少し笑ってる。なんか小憎たらしい。

その後の会議の内容はほとんど頭に入っていない。気付いたらいつの間にか終わっていた。

会議室を出るとき、飯田らが何か言ってるのが聞こえた。

「はっ、女は泣きゃ通せると思ってるからタチが悪いぜ。」

……女で悪かったな。

次回、“第3話 「私を惑わせる…年下ダメ彼氏」”は1月25日(水)配信予定。


【これまでのお話♡】
【牡羊座1話】チャンスを手にした「女ディレクター」

【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。
かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。

(C)ImageFlow / Shutterstock
(C)Jannarong / Shutterstock


脇田 尚揮(わきた なおき)/占い・心理テストクリエーター、小説家
鹿児島大学で心理学を学び、法律の世界に足を踏み入れた後、占い師になる。ライトなテーマからディープなものまで書き分けるスタイルには定評あり。著書に『大人の恋愛心理テスト』(双葉社)、『生まれた日はすべてを知っている』(河出書房新社)など。ほか、テレビ東京『なないろ日和!』にて、占いコーナーレギュラー担当を務める。