LINEに振り回される「不倫女子」|12星座連載小説#88~双子座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.1
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第88話 ~双子座-7~


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既読はついているのに、義久さんから返信はない―――

今まで、こんなことは一度もなかった。几帳面で優しい彼は、決まった時間に必ず返信をくれていたし、返せないときは何らかの形でフォローしてくれていた。

最初は、“小さな豆粒”のようだった不安が、どんどん大きくなっていく。一度考え出すと止まらない。

彼は今日出勤しているのだろうか? この目でチェックせずにはいられない。

エレベーターなんて待っていられず、非常階段を使う。

彼が働くフロアに到着。息を落ち着かせ、平静を装う。内線を使い確かめようかとも思ったのだが、記録が残ってしまうのでやめた。

彼は今日、局を休んでいた。理由は体調不良。

どんなことがあろうと、朝の番組を休むような人じゃない。今日は収録がなかったから休んだのかな……?

さまざまな疑問が、頭に浮かぶ。

まさか……ね―――

きっと、風邪かなにかよ。義久さん、この間会った時くしゃみしていたし……。それにLINEで「今夜は冷えるね」って言っていたもの。

明日、彼はもともとお休みの日だから、体調を万全に整えるために大事をとったんだわ。

自分に都合のいい解釈ばかり並べる。

それからというもの、私は何かに怯え、どこか落ち着かない一日を過ごした。危険を知らせる警報が鳴っているのに、思い切り耳を塞ぎ、何も聞こえない“フリ”をしているような、不自然な一日を。

仕事を終え、LINEをもう一度チェックする。やはり、義久さんから返信はない。

昨日送った、笑顔の自分の写真が白々しく思えてきた。

写真を送ったのがまずかったのかしら……。“危機管理能力のない女”って思われたの? ……義久さんは、私のことが嫌いになったの?

今夜、家で一人過ごすのはイヤ。一人夜中まで考え込み、苦しむ自分が容易に想像できる。

明日もどうせ一人。独りぼっちはイヤなの。怖いの。

義久さん、早くLINE返して。でないと私―――

……それから2時間後、私は会員制の高級デートクラブにいた。

不安から逃れようとした結果ここへ辿り着いた、と言ったほうが正しいかもしれない。

窓ガラスを見ると、自分を偽るかのように、煌びやかなドレスに身を包みキラキラ輝く宝石を身につけた自分が映っていた。

女は時として、非合理的な選択をすることがある。その行動に、意思はないのだ。

目的もなく会場を歩きまわる。私が女子アナだってことに気づく人なんて、そういないわよね……。少し自嘲気味に笑う。

自分のことを知るものが誰一人いない場所は、どこか心地いい。別の国に来たようなフワフワとした感覚。

シャンパングラスを手に取ろうとした時、一人の女性が目にとまった。

「アリアンロッド」の黒木社長―――

この間、義久さんとホテルでお食事したときに見かけて、今日またここで会うなんて不思議なご縁。この前一緒にいた男性は、恋人じゃなかったのかしら。それとも、“お遊び”?

いずれにしても、彼女ほどの美貌をもつ女性が、男に不自由しているとは考えられない。

彼女もまた、何か“心の闇”を抱えているのかもしれないわね。私のように。

ほんの少しだけ気分が晴れた。

シャンパンを楽しんでいると、

「こんばんは」

男性に声を掛けられ、思い出す。そうだ、ここは男女の“社交の場”だった。

『こんばんは』

得意の“作り笑顔”で応える。上品そうな、30代後半の男だった。

「お若いですね。まさかあなたのような方が、このパーティーにいらっしゃるなんて驚きです」

『え? どういうことですか?』

「いえ、ここって会員制だから、どうしても年齢層が高くなりがちなんですよ。若い方は少し抵抗があるみたいで……」

『そうなんですね。よくいらっしゃるんですか?』

「あっ、申し遅れました。私、こういう者です」

男は、名刺を差し出してきた。

“ロイヤルヴェイル役員”

つまり、このパーティーの主催側ってことか。

『こちらのパーティーの主催者さんでいらっしゃったのですね、失礼いたしました』

「いえ、“江崎友梨アナウンサー”がお越しだと伺い、ご挨拶にと思いまして」

『まぁ……お恥ずかしい限りです』

少しカチンとくる。

義久さんとの問題がなければ、こんな場所へはまず来ないわ。私は一人になるのがイヤで、ただお酒を飲みに来ただけなんだから。

「とんでもございません。江崎さんのような素敵なレディに参加して頂けて、とても光栄です」

“素敵なレディ”か。この男、何も分かっていないのね……。

「もしよろしければ、この後VIPルームでご一緒しませんか?」

“VIP”か。義久さんからもそんな風に扱われたい。

『……私なんかが、よろしいんですか?』

「もちろんです! 江崎さんのような方に是非」

『それじゃあ……お言葉に甘えて、少しだけ』

胡散臭いと思いながらもOKした―――


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【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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